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フィーリア、七歳になりました。淑女教育は諦めました。

◆ sideフィーリア ◆




 商会のほうは順調で、おかげで資金にだいぶん余裕が出た。

 七歳の誕生日プレゼントの希望を聞かれたので、ここは一発、魔珠の製造工場を大きく……あ、そうですか。事業に関することはプレゼントにならないですか。えー、じゃ保留で。


「そう言えば、ジョナ兄の家庭教師って、どうなってるの?ここんとこずっと研究室に籠りっ放しだけど、そっちの勉強はしなくていいの?」


 収納魔法の改良と魔珠の充填で、私はアマトにいることも多いんだけど、通信機をジョナ兄に放りっぱなしなのも気が引けて、自宅の研究室と半々くらいで研究してる。

 今日は自宅のほう。共鳴石の実験をしながら、ふと気になってジョナ兄に聞いてみた。


「ああ、言ってなかったっけ?去年、フィーリアがルヴレフ領に行ってる間に、課題を全部終えたんだ。で、兄様もちょうど課題を終えたから、一緒に最終試験を受けて、無事二人とも修了許可をもらったよ。」

「ルヴレフ領に行ってる間?って、じゃあ十一歳とちょっとで『学問基礎宝典』終わったってこと?」

「うん、一年ちょっとだね。兄様は四年弱か。きみは『宝典』もう読み終わってるんでしょ?いきなり試験でもいいかもね。」


 いや、そんなん許可する家庭教師おりませんがな。


「大丈夫だよ。僕らを見てくれた先生が、たぶんフィーリアが十歳になる頃までうちに出入りしてるから、その時お願いすればいいさ。」


 えーと、私が十歳、三年後。その時まで出入りしてるってことは……。


「トビー兄は、その時十五歳過ぎてるってことだよね?えーと、もしかして……終わらない見込み?」

「…………さあ?…………」


 ジョナ兄が、何の感情も籠らない薄い笑みで遠くを見つめている。とっトビアス!頑張れ!






 紙が、というか、レターセットが売れている。


 グラントさんに、可愛いもしくは奇麗な紙で、便箋と封筒を作って売り出せ、とは言った。ただこの世界、公文書や貴族の連絡、商人の仕事の連絡くらいしか手紙を書く文化はない。そりゃそうだ。手紙を運ぶのは、文官や使用人といった人たちに個別に命じるか、行商人にお願いする不確実な方法しかないからね。

 そんな現状で、それ用に可愛らしい紙を作ったところで……とグラントさんは思っただろうな。


 なら、そういう文化を作ればいいだけだ。そのために、紙と筆記具をより安く作ったんだからね。


 まずは領都で一番人気のある劇団に、スポンサーを申し出る。恋物語はいつだって人気ネタ。




『恋文配達人の恋』


 貴族のドラ息子が、自分の利益の為にどうしても落としたいお嬢様がいる。でも女遊びで忙しいから、護衛騎士に彼女を口説き落とせるような手紙を代筆することを命じる。

 手紙を届けた彼は、可憐なお嬢様に一目惚れ。代筆のまま、自分の想いを熱心に彼女に綴り届ける。やがて彼女もその熱意に絆され、一度ドラ息子と会うことになるが、その時にちらりと見えたドラ息子のサインが、手紙の筆跡と全く違うことに気付く。

 恋文を書いていたのが配達に来ていた護衛騎士だと気が付くが、二人は身分違い。叶わぬ恋と悲しみに暮れていた。

 しかし、護衛騎士が実は他国の国王のご落胤であったことが判明。晴れて騎士はお嬢様を娶ることに。

                    ―end―




 ご都合主義?当ったり前じゃん、フィクションだもの。ストーリーは王道でいいのよ。手紙、恋文が重要な小道具でさえあれば。


 芝居は大当たり。

 劇団のスポンサー自体はその一クールだけで降りたけど、脚本家が手紙をテーマにシリーズ化したいと言ってくれた。なので、作中で使う便箋の無償提供や、ポスター用の紙を割り引いて販売することで合意。


 芝居が噂になり始めた頃に、私はグラン爺の家の侍女さんたちに協力をお願いした。買い物や外食の時に、恋文にまつわる恋バナ(フィクション)をしてもらうことにした。

 報酬は、うちの高級フィールペン。自分用でもいいけど、意中の人にプレゼントもいいよー。

 高級侍女の口コミって、一番広がるんだよね。


 こうして見事、手紙文化を定着させ、『恋文』という言葉が市民権を得た。

 レターセット爆売れで、目を白黒させるグラントさんと、尊敬の眼差しで私をキラキラ見てくるトマスの対比が面白かったわ。ふふ。


 まあこれで終わるはずもなく、公爵領都発の恋文ムーブメントは、やがて王都にも伝わり国じゅうに広がるだろう。実際、すでに劇団に、王都での公演の依頼が来てるみたいだし。


 こうして、今までは『知る人ぞ知る』だったフィールペンとウィング紙が、ついに王都までその名を響かせたのだ。




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