ジョナス攻略 2
◆ sideフィーリア ◆
ジョナ兄ならわかってくれると思った。
予想通り自分の本を持ち込んだジョナ兄。そのジョナ兄が目を離した隙に、本をジャンルごとに並べ、そのうちの一冊を指さす。
「こえ。」
バタバタすると癇癪を起していると取られかねない。だからあくまでも静かに、しかし威圧的なアピール大事。
「こぉえっ!」
おっ、さすがジョナ兄、どうやら本のジャンル分けに気付いたようだ。戸惑いながらもジョナスは本を見せてくれる決断をしたらしい。
他の本は片付けられ、ゆっくりと丁寧に魔法書の表紙を開く。
……視線がウザい……
いやまあ、観察したい気持ちはわからんでもないよ。私だってジョナ兄の立場だったら、そうなるもの。なにせまだ一歳児だしね。
まあいい、それならそれで辞書代わりに、ワカランところは全部聞くとするか。
「こえぇ?」
「ん、「精霊」だよ。「せ い れ い」。」
「ちぇ・い・え・い。こえゎ?」
「んー「魔素」だね。「ま そ」。」
「ま・ちょ。ちょえ、なぁん?」
「えーっと、魔素っていうのはね…」
ジョナ辞書、優秀だな!
喃語で意味は通じなくても、語尾を上げさえすれば問うているのは気付いてもらえる。あとは単語を指さしながら「こえぇ?」と「なぁん?」を繰り返せば、答えが返ってくるのだ。
……ただ流石にこの本は難しすぎたかな。知らない単語が多過ぎるわ。ジョナ兄も、これだけひっきりなしに解説を求められたら、そりゃウザいよね。
なんとなく、ちょっとうんざりし始めた気配がする。おっとと、こりゃいかんいかん。
天を仰ぎ深く息を吐き、考え込むように腕組みを……んなっ!腕組みできねえ!腕短いな、自分。ともかく思案してると見えるようにアピールをする。
「フィーリア?どうしたの?」
「……ちやうの。」
「ちや……なに?」
「ち・や・う・の・み・う!」
「ちやう……ああ!違うの見る?」
おお!通じた!こっくりと頷く。ここから何とか書斎なり何なり、本がある部屋へと移動するように誘導したい。そこで読みたい本を自分でチョイスできるのがベストだ。
おろおろするジョナ兄。まあそうなるよね。大丈夫だよ。本を汚したり乱暴に扱ったりしないから。ね、ね。
「……図書室、行ってみたい?」
うっひょ~!キタキタ~!図書室あるんだね!
首がもげるほどの勢いで、コクコクと頷く。あ、大丈夫だよ。図書室まではちゃんと自分で歩くから。足腰も鍛えたいし。でも本を取るときはよろしくね。
◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇
フィーリアを部屋から出さないように、と、ジョナスは父から言いつかっている。病み上がり故の配慮だ。でも元気そうだし、何より、ジョナスにはフィーリアがどんな本を読みたいのかさっぱり見当が付かない。
……ちょっとなら図書室に連れて行っても良いのではないだろうか。それに何より、フィーリアが自分で本を選ぶのなら、どんな本を選ぶのか興味がある。
「……図書室、行ってみたい?」
と聞けば、キラキラした眼差しでブンブンと頷く。ちょ……そんなに振ったら頭取れちゃう、と心配になるジョナス。
読みたい本が読めない辛さは、ジョナスにも何となくわかる。ジョナスも文字を覚えたての頃、いつまでも絵本しか持ってきてくれないアリシアに癇癪を起して、泣き喚いたことがある。だが癇癪を起こした故か、大事な本が集まっている図書室には、しばらく入れてもらえなかったのだ。
やっと入室を許され、初めて図書室に入ったとき、そこはまるで宝の山のように感じたものだ。
自分の読みたい本を自分で選ぶ喜び。ジョナスは、フィーリアにもそれを感じて欲しいと思った。
「……みんなには内緒だよ。まだ君を部屋から出しちゃいけない、って言われてるんだ。」
唇の前に人差し指を当てるジョナスに、フィーリアが真剣な顔で大きく頷く。その目は真っ直ぐにジョナスへと向かっている。
(ああ……可愛いな。こんなキラキラ期待した目でおねだりされたら、やっぱりダメ、なんて絶対言えないじゃないか。)
そこで初めてジョナスは、フィーリアと意思の疎通ができていることに気が付いた。可愛くて賢い妹と、ちゃんと会話が成り立っている。
わずか一歳の妹の不自然なほどの賢さだったが、ジョナスにとっては余計に可愛く感じる要素でしかなかったので、何の気にもならなかった。
ジョナスは、シスコン沼に落ちた。