帰路
◆ sideフィーリア ◆
その後、数日を掛けて、魔鉱の検品やら取り引きの詳細やら、果ては魔鉱以外の交易品の話までして、ようやく帰る日取りになった。いやあ、よく働いたなあ。
「此度の一件、本当に世話になった。心から礼を申し上げる。」
目の前に、頭を下げるガラリア様。
「頭をお上げくださいガラリア様。私でお役に立てたのなら良かったです。私のほうも貴重な経験をさせていただきましたわ。」
「いや、俺も色々と礼を失してしまって、済まんかった。どう詫びたものか、あ!何なら魔鉱の値を下げ――」
「おやめください!今後も魔鉱の取り引きは継続したいのです。対等でなければいずれ破綻しますわ。もうこんなにお土産をいただいてるんですもの。充分ですわ。」
うちの特製馬車の後ろには、みっちりと土産の詰まった小さな荷車が接続され、馬車自体も二頭引きから四頭引きへ急遽改造された。つまり増えた二頭の馬もお土産だ。
「それに……ガラリア様には、他にも色々とご負担をかけておりますもの。長きにわたり良い関係を築くため、お互い無理のないお付き合いをしましょう。」
「む、ぅむ、約束は守る!その、おどさ…言われたからではなく、これをフィーリアとの友誼の証と思ってもらいたい!」
アツいな、おい。ま、落ち着いてさえいれば、ただのドラゴン好きの気の良い緑熊なんだよね。仲良くやろうや。
「フィっ、フィーリア嬢!」
あ、キール様もいたんだ。結局今日まで城下の案内してもらう暇なかったね。別にいいけど。
「そのっ、君に命を救われたこと、礼を言う。それにっ、その、最初に嫌な態度を取って済まなかった。」
あら、お礼と謝罪、できるようになったんだ。うんうん、子供は素直に反省できるのが一番。
「いつかっ!その、君に相応しい男になるからっ!」
…………はい?
「その時迎えに行くからっ!待ってて欲しいっ!」
………………はいぃぃ?待て待て!何の話だ!?
馬車の中で、シドが突っ伏して背中を震わせている。クレイグは涼しい顔だ。
「……ちょっと、いい加減笑うのやめなさいよ。」
「だっクヒヒだって、フィー様鈍いにもフヒッ程があるでしょーが。いやあ、坊ちゃん漢気見せたねえ。」
「……まあ、あのお坊ちゃんがフィーリア様に気があるのは丸わかりでしたからね。だからって、あそこまで大胆なプロポーズをするとは意外でしたけど。」
「プっプロっ、私まだ六歳だぞ!今からそんなん決められるわけないでしょーがっ!」
「高位貴族だと、十歳くらいまでには、ほぼ婚約者が決まっていますよ。まあ政略がほとんどですが。」
……お前ら完全に楽しんでやがるな。
「もー……辺境伯家とか男爵家より全然立場上じゃん。もし正式に申し込み来たら、受けざるを得ないんじゃないの?コレ。」
「ああ、そこはご安心ください。帰ったら旦那様に報告しておきますから。そんな話は持ってこさせないですよ、きっと。」
ひー、久々に思い出したわ。ブラン爺、フィクサーだっけ。何する気―?
「旦那様は、フィーリア様の望まない結婚は絶対にさせませんよ。何なら結婚しなくてもいい、とまで思ってるかもしれません。」
え、それはちょっと微妙かも……
帰路は順調そのもの。王都に着くまで、野盗もギガントベアも出なかった。いやそれが普通なんだけども。
また、王都に寄るかどうか聞かれたけど、用事ないんだよねえ。市場調査してみたい気はするけど、もう転移で来れるようになってるし、無理して今じゃなくていい。
王都寄るくらいなら、早く公爵領都に行きたい。ブラン爺にお土産渡したいし、話もたくさんしたい。シューベリー商会の店舗もオープンしてるはず。店も見たいし、グラントさんやトマスにお土産渡したい。
行きにも使った宿屋で一泊して、翌日、やっぱり王都に寄らずに公爵領都へ向かった。
「襲撃です!敵およそ十名!」
ん?ここ、行くときに野盗出たとこじゃないか?
「十人ならちょっと試したいことあるから、私が出るね。」
シドたちが止める間もなく転移で馬車の外、というか馬車の屋根の上に出る。そーだよ、あん時だってこうすりゃ良かったんだ。
じりじりと、剣を構えた騎士たちを取り囲むように、野盗らしき奴らが間を詰めてくる。
肝心なのは、コントロールと瞬間最大魔力量。野盗たちの頭の上に魔力の塊を出す。
「どーーーーーん!!」
掛け声と共に、野盗が潰れた。と言うか、地面にめり込んだ。全員泡を吹いて気絶してる。うむ、実験成功!
まあ、うん、予想はしてたよね。慌てて馬車から降りてきたシドとクレイグに、めっちゃ叱られたわ。騎士さんたちが気絶してる野盗縛り上げてる間、ずっと。
「で、ありゃあ何なんだ?見たことない魔法だったが。」
「魔法……って言うか、ただ魔力を落としただけ。」
「「は?」」
「いや、ホントはこう、重力とかカッコいいのやりたかったんだけど、ヴェントと契約してまた魔力量増えたからさ、できそうな気がしたんで、魔力の塊を奴らの頭の上で練り上げて、練って練って質量が馬鹿デカくなったところで、こう、どーーーん!って…………」
シドとクレイグが揃ってため息をつく。なによう、ちゃんと説明したじゃないのよう。
「フィーリア様、普通は思いついてもやりません。まあできないが正しいですけど。」
「まー、無理矢理言うなら無属性か?」
「ですね。ただ緻密なコントロールが必要な割に、端からは雑にしか見えません。」
「あとな、フィー様。その掛け声、もの凄くカッコ悪いぞ。」
な、なんですとー!
野盗は、行きに全滅した奴らの残党だったようだ。前回はアジトでお留守番してたらしい。今回は無傷だからね。全員町まで馬で引き摺って行くさ。
これで街道もちょっとだけ平和になるってもんだ。




