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これを救出と呼べるのか

◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇




 三人で小部屋の中へ乗り込むと、子ドラゴンは即座に反応した。完全に狂化していないとは言え、その目は明らかに正気を失ってギラギラと光っている。


 ワッカとアイナが左右に分かれ、魔法を繰り出す。二人の魔法は途中で混ざり、泥となり子ドラゴンの体に纏わりつく。すかさずフィーリアが風魔法で泥を乾かし固める。

 たかが泥、手足や尻尾はすぐに振り払われ自由になった。しかし、まだ飛べない未発達の羽に纏わりついた泥は、その重さもあってまずは羽の自由を奪った。


 アイナが足元の土を盛り上げ、そのまま子ドラゴンの脚を固めるように包み込んだ。と同時にワッカが水球で子ドラゴンの頭を包む。

 もがく子ドラゴンの後ろに回り込んだフィーリアが、そのままナイフで尻尾の腱を切る。戻りがけに右腕の腱も切る。


 やっと両足が自由になった子ドラゴンに、ワッカが体当たりを喰らわす。壁に激突する直前に、アイナが壁を脆くする。

 頭から壁に突っ込み、瓦礫の山に両足だけ出したまま埋もれる子ドラゴン。フィーリアは容赦なくその両足の腱を切り裂いた。


 子ドラゴンが動かせるのは、口と左腕のみ。ここまでくれば、もうさしたる脅威はない。ワッカが用心深く近付き、抵抗しようと振り上げた左腕の腱を、その鋭い爪で切り裂いた。

 唯一残された口は、もう噛みつこうとする力もなく、ただ呻き声をあげている。


「わー……どう考えてもオーバーキルだよね、コレ。」

『アンタが言うんじゃないわよ。いいからさっさと止血だけしておきなさい。』

『……口の拘束は私がしておきますね。』


 フィーリアがふと辺りを見回すと、そこかしこに拳大の奇麗な丸い石が落ちている。割れたり砕けたりしている物が多いが、中には欠けずに丸いままのもあったので、何とはなしに一つ拾ってポケットへと入れた。


「終わったよー。先にこの子連れてくから、ちょっと待っててねー。すぐ迎えに来るからー。ワッカ、アイナ、二人の護衛と言うか補助お願いね。」


 通路の奥にいる二人へ声をかけたフィーリアは、子ドラゴンを注意深く抱き上げると、ドラゴンの巣へと転移した。




 ドラゴンの巣、(おさ)の前には、手足と尻尾の腱を切られ、口には拘束用の結界を張られた子ドラゴンが、身動きできずに転がっていた。

 四人の人間と三体の精霊獣、それとガラリアの騎竜セルガだけが、子ドラゴンを囲んで車座になっている。

 余りに痛ましい子ドラゴンの惨状に、他のドラゴンは怯えるように遠巻きにしていた。


「……コレ、どうしたもんかね……」

「とっともかく怪我を――」

「今治すと暴れますよ。そうさせないために治療してないんですから。」


 慌てふためくガラリアに、フィーリアは冷静に返した。


「結局、魔力過剰な状態ってことでしょ?魔力酔いみたいなもんなら、しばらく放っといたら治らない?」

『魔力過剰はその通りだが、その時に恐怖と不安が増殖されて、狂化に拍車をかけたんだろう。まだ子供だからな。魔力が抜けるだけでは元には戻るまい。それに時間もかなり掛かる』


 ヴェントのその言葉に、(おさ)がなにやら抗議をしている。通訳がなくとも、「こんな酷い目に合わせて」「なんとかしてくれ」等のクレームだとは想像がつく。

 しばらく考えていたフィーリアだったが、やがてこう言った。


「もうコレ、専門家に任せちゃおうよ。」

「専門家ぁ?俺以上にドラゴンを知る者など――」


 そこまで言ったところで、ガラリアは首から上をセルガにぱくんと咥えられた。なかなかに酷い扱いだが、煩いので仕方がない。甘噛みなのはわかっているので、誰もセルガを止めなかった。

 涎まみれになり大人しくなったガラリアを横目に、フィーリアが続けた。


「恐怖とか不安とかが狂化の一因になってるなら、その耐性を付ければいい。ともかく、クダン呼ぼう。」


《クダンー、相談に乗ってー。》

『呼んだか?主。転移の魔法陣ならまだできておらんぞ。』


 急にその場に現れた人面牛のクダンに、ガラリアやドラゴンたちが慌てふためく。


「はいはーい、皆さん落ち着いて。こちらは闇の精霊獣のクダンです。クダン、魔法陣の話は後でいいから、今はまず、この子見てくれない?」

『む……?ドラゴンか?……ふぅむ……』


 フィーリアがクダンと初めて会ったときに、恐怖に縛られたフィーリアの心の負の部分を支えたのがクダンだった。


『ふむ、まだ最終的な狂化には至っていないようだな。これならば、少々手を貸してやれば元に戻れるだろう。』

「ホント!?良かったぁ。」

『うむ。ではまず、この幼子の魔力を抜いてやってくれ。』

「……は?誰が?」

『無論、主が、だ。他にできる者はおらぬ。』


 クダンの相変わらずの説明不足に、アイナが目を吊り上げる。アイナとフィーリア、両者から詰め寄られ、クダンは慌てて言い訳をした。


『すっ済まぬ。闇魔法を教えた際に、伝えるのを忘れていたようだ。

 闇と光は、それぞれ他者へ干渉し魔力の抽出と注入ができる。それなりに手間のかかる魔法なので、戦闘などには使えんが。余剰分を吸い取る魔法と、魔力を枯渇させる魔法を教えよう。』

「……今回は、お詫びの複合魔法はないの?」

『ぬ、いや、あとは何があったか……。何分昔のことなので記憶が朧気で……』

「重力とか飛行、時空とか収納とかないの?」

『しゅっ収納!あるぞ!あ、いや、不完全だと言ってはいたが――』

「マジかっ!不完全でもいい!取っ掛かりが欲しいのっ!さすがクダン!愛してる!」


 クダンの首っ玉にがし!と抱き着いたフィーリアが、やっと周囲の白い目に気が付いた。


「フィー様、いちゃいちゃすんのは後回しにしないか?今は子ドラゴンでしょーが。」

『なっ、な、いちゃいちゃなど……』

「そうね、先にドラゴンね。」

『いや、否定を……ぅぁ、わかった。最優先は余剰魔力抜きだな。まず最初に鑑定で…………』




 フィーリアが魔力抜きの魔法を子ドラゴンに使い、その後クダンが精査をしながら、必要な祝福を与える。精神耐性の上がった子ドラゴンは、少しずつ狂気から抜け出しているようだ。

 最後に、ドラゴンの体に馴染みの良い風と光の複合で治癒魔法をかけ、切った腱の治療を行う。

 全てのやるべきことが終わり、消耗の激しかった子ドラゴンは眠りについた。さっきまでの苦悩と苦痛に満ちた表情とは違い、安らかな寝顔だった。


「これで、目覚める頃には元に戻ってるはずだから。あ、羽に着いた泥は落としておいてあげ……」


 フィーリアがふらつく。慌ててシドがその小さな体を支えた。


「フィー様っ!大丈夫か?けっこう無理したんじゃ……」

「…………ぃた…………」

「へ?」

「……お腹空いた。」


 ここで初めて、人間たちが朝食も取らずにあちこち引きずり回されたことに思い当たった。そろそろ日が沈む。

 フィーリア以外は皆、戦闘職としての訓練を受けてきているのでこのくらいの空腹は平気だ。が、ただの幼女で食べ盛りのフィーリアが、ここまでの空腹に耐えられるはずもなかった。




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