ドラゴンの頼み
◆ sideフィーリア ◆
「ふわあぁ……ここがドラゴンの巣かぁ……」
ひたすら、背が高く尖がった岩が連なり、そこここに野生のドラゴンが蹲っている。ヴェントに乗ったまま、上空からその様子を眺めていたら、一頭のドラゴンが私たちに気付き、ぎぁぅおー、と雄叫びをあげた。
『心配せんでも戦いにはならん。今のはわしらが来たことを皆に告げる声だ。』
ヴェントの言葉にちょっとだけ肩の力がぬける。
さすがのフィーちゃんも野生のドラゴンの巣ってんで、どうやら緊張してたみたいだね。さ、アイナとクレイグの地上班も到着したみたいだし、下へ降りて皆様に挨拶しよっか。
巣に下りてからは、まずはガラリア様の騎竜セルガが大活躍。他のドラゴンとなにやらやり取りしながら、長の前まで案内してくれた。
長は、他のドラゴンよりも一際大きい真っ黒な躯体。うーわ、かっけえ!トップ・オブ・ザ・ドラゴン!って感じ。
「フィー様、アホ面になってる。」
シドに脇を小突かれた。おお、いかんいかん。まずは長に自己紹介と一行の面々を紹介する。で、いよいよ本題……なのだが…………
ぅあぎゃうぉ ぁぎぇるるる ぎゃわぅぉお
ぅるるるぐぎゃぎょるる ぎゃぎぇるるる……
うん、さっぱりわかんね。これは、ひとまずヴェントに全部聞いてもらって、まとめて通訳してもらうのが良さそうだね。
ヴェントにざっくり話をまとめてもらった。
数日前、孵化したばかりの子ドラゴンが、巣の端にある地割れの隙間から下の洞窟へ落ちてしまったらしい。生まれたばかりなのでまだ飛ぶこともできず、落ちた隙間も羽ばたくほどの幅はない。その子ドラゴンを、何とか私に連れ帰って欲しい。
というのが事と次第だ。
「落ちた裂け目、広げちゃ駄目なの?」
『下の洞窟は魔素溜まりになっていて、風の流れが変わるのでできないそうだ。』
「魔素溜まりのままじゃなきゃ駄目ってこと?」
『古くから大事な役割を持つ洞窟で、魔素を散らしたり洞窟を崩したりはできない、と。』
えー、じゃあアイナに頼んで子ドラまでの道作ってもらうとかも駄目なのかー。ん?魔素溜まり?そこに落ちたって?あれ?それって……
『このままだと子ドラゴンが魔素溜まりの影響で狂化してしまう。そうなれば、もう救う手立てはない。』
だよねー!狂化するよねー!んじゃとっとと助けに行くしかないじゃん。
「洞窟の入り口はどこなの?」
『それが……あちこち外に繋がる裂け目はあるそうなのだが、どれもギリギリ風が通るくらいの隙間で、入り口と呼べる入り口はわからないそうだ。』
ソコからかあーっ!
まずは移動して子ドラの落ちた隙間を見せてもらう。……わ、ホントに隙間だ。せいぜい二十センチってとこか。しかも微妙に奥が曲がってるから、底にあるはずの洞窟は見えない。
さてと、作戦会議始めるか。
「これ、私がこの隙間から入って、子ドラ連れて転移で戻る、って駄目だよねえ?」
「あー、できればやめて欲しいかな。フィー様が下まで行ける保証もないし、途中で何かあっても助けに行けない。」
「だよねえ。二次遭難ほどアホらしいことないもんねえ。アイナ、洞窟の構造わかる?できれば人が通れるくらいの裂け目も探してほしい。」
『おおよそはわかると思います。探るので少々お待ちください。』
ジッと目を閉じて、地中の様子を探るアイナ。その間に、他のこと決めておくか。
「ある程度の幅の入り口見つかったら、そこから入って助けよう。入るのは、私とシド・クレイグ、あとできればアイナ……だけど、もし入れなかったら入り口で待機。ヴェントは念のためここに戻って待機してて。」
「まっ待て!領主の俺を置いて行くと言うのか!ドラゴンの危機を俺が見届けなくてどうする!」
はー、いちいちめんどくさいな、この人。
「ええとですね、ガラリア様。肩書きや体の大きさの話を全部取っ払っても、ガラリア様には無理です。」
「なっ!無理とはどういうことだ!無理とは!」
「子ドラ…ゴンがいるのは魔素溜まりなんですよ。わかりますよね?魔素溜まり。で、さっき隙間から何となく探った限りでは、通常平地で見られる魔素溜まりよりも遥かに魔素が濃いです。ガラリア様の魔力量ではすぐに魔力酔いになってしまって、ハッキリ言って足手まといです。」
「なっ!おっ俺が足手まといだとっ!っっだが!もしその白狼どのが入れなければ、人間三人だけしか入れないではないか!それでは何かあった時の戦力が……」
あー、なんかホントにもう腹立ってきた。
「ワッカぁ!ごめん、手伝ってぇ!」
空中に黒猫がくるりと輪を描いて現れた。
『はーい、何なにー?珍しいとこいるじゃなーい。』
「子ドラちゃん救出大作戦中なの。手ぇ貸して。」
『なんかわかんないけどいいわよー。あらぁ?風ちゃんだ。おひさー。』
「ガラリア様、水の精霊獣のワッカです。これで戦力的には充分ですよね。」
にっこり笑って言ってやったともさ。目も口も開きっ放しのガラリア様の横で、ヴェントも目を丸くしている。ごめんね、後から後から……。
『フィーリア、見つけました。ただ、最大の割れ目でも私は通れなさそうです。おや?ワッカではありませんか。なるほど、ワッカなら通れますね。』
「んじゃそこでいいわ。ガラリア様、入り口までシドを運んでください。クレイグはアイナ、私はヴェントね。ワッカはアイナに付いて行って。」
はいはい、サクサク進めるよー。




