山頂の巣へ
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「客人のみをドラゴンの巣へ連れて行くわけにはいかん。」
ガラリアはそう頑なに主張し、同行を許された。当初は、精霊獣とフィーリア、それに従者二人で行くはずだった。そこに無理矢理同行を願い出た。もちろん、愛する騎竜のセルガも一緒にだ。
フィーリアたちは何やらボソボソと相談し、訊ねてきた。
「ガラリア様、山頂に行くのに道はありますか?」
「あ、ああ。新人ドラグーンが使う道がある。ほぼ獣道だが、城の裏門から続いている。」
「では、裏門を出たところで集合しましょう。人払いをお願いします。ガラリア様はセルガに乗ってきてください。ヴェントもそこで待ってて。私も支度をしたらすぐに行きます。」
精霊獣とドラゴンに乗ればすぐに山頂に行けるのに、なぜそうしないのかガラリアには疑問だったが、生憎この場の決定権は精霊獣とフィーリアにある。ガラリアは従うしかなかった。
精霊獣の姿が消え、フィーリアは準備をするために従者と部屋へ戻った。
ガラリアは鞍を用意し、セルガに着けながらボヤいていた。
「……セルガ、なぜ俺にはお前の言葉がわからんのだろうな。お前から直接話を聞ければ、こんな詰まらん嫉妬などせずに済むのにな……」
フィーリアは軽装に着替え、更にナイフを装着していた。普段森へ狩りに向かうときの格好だ。シドとクレイグも武装している。
「ドラゴンとは正直戦いたくないんだがな。」
「たぶんそこは大丈夫だと思うよ。「頼み」っつってんだし。ただねえ、その「頼み」が何だかさっぱりわかんないからねえ。」
「備えておくに越したことはないでしょうね。……それよりフィーリア様、よろしいのですか?」
「あー、うん。どうせヴェントのこととか魔法陣のこととか、口止めしなきゃなんないことたくさんあるしね。ここまで来たら一緒でしょ。それにクレイグにもちゃんと戦力になって欲しいから、飛んで行くわけにはいかないよ。」
フィーリアが楽しそうにニヤリと笑う。
「はー、旦那様といる時よりも、こき使われてるように感じるのは気のせいでしょうか……」
そうボヤきながらも、どこか楽し気なクレイグだった。
裏門の外には、既にガラリアとセルガが待っていた。そこにフィーリアたちが合流すると、どこからともなくヴェントも舞い降りてきた。
城の裏門側は巨大な岩山へと繋がっており、門を閉めてしまえばそこに他の人影はない。
「アイナー、ちょっと手伝ってー。」
フィーリアが空中にそう呼び掛けると、地面がモコモコと盛り上がり、やがて巨大な白狼の姿になった。
『お呼びですか、主。おお、この辺りに来るのは久し振りですね。』
『むっ、おぬし、土ではないか!主、ということは……』
『おや、風の。お久し振りです。私は今はアイナと言う名をいただいてるのですよ。』
「あーやっぱり知り合い?でもごめん、積もる話は後回しね。
ガラリア様、こちらは土の精霊獣のアイナです。アイナ、こちらはここ一帯の領主をしていらっしゃるガラリア様。で、風の、の名はヴェントね。」
ガラリアの口がぽっかりと開けられている。目も真ん丸だ。
「ふぃっ、あの、この、せいれ――」
「シドはガラリア様と一緒にセルガに乗せてもらって。アイナ、山頂まで行くから、クレイグ乗せたげてって。私はヴェントに運んでもらって先導する。ヴェント、前みたいに足がいい?」
『いや、背で構わん。』
「ん、ありがと。じゃあみんな乗り込んで。出発するよ。」
フィーリアがヴェントの、クレイグがアイナの背に乗る。事態が把握しきれずぽかんとしているガラリアの肩を、シドがぽんと叩いた。
「辺境伯様、参りましょう。モタモタしてると、フィー様は平気で置いて行くお人ですよ。」
男を背に乗せた白狼が、山道を散歩するかのように軽い足取りで登って行く。空には大鷲と一頭のドラゴン。
フィーリアは、道すがらアイナに念話で、ここまでの経緯を説明しておいた。
《ヴェント、この山の地形、森や川の位置も含めてよく覚えておいてね。アイナ、地中の空間、特に地割れとか洞窟とかチェックしておいて。この先どうなるかわからないから。》
『承知しました。それにしても、ドラゴンからの頼まれ事とは……主といると、退屈しませんね。』
『ほう、ではフィーリアと契約できたのは僥倖かもしれんな。わしも楽しませてもらうとするか。』
《……いや、あんたら、別に私遊んでるわけじゃないのよ……》
詳しい話は誰もわからぬまま、一行は山頂にあるというドラゴンの巣へと向かった。




