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ジョナス攻略 1

◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇




 今日は一日、両親は仕事、アリシアは家庭教師が来てて、アンディは剣の稽古に出ている。トビアスに接触禁止令が出ている今、フィーリアの子守はジョナスひとりがするしかない状況だ。気が重いことこの上ない。

 これまでは、時々部屋を覗いて様子を見るくらいで、子守と言うよりも状況をチェックするだけで許されていた。今は、フィーリアが病み上がりなのと、トビアスが接触しないように見張る意味合いもあり、昼間はずっとフィーリアと一緒にいるように父に厳命されてしまった。


(はあ~、いったい何して構えばいいんだよ……)


 体がまださほど大きくないジョナスは、アンディのようにフィーリアを膝に乗せて読み聞かせもできないし、母やアリシアのように歌を歌ってあげることも苦手だ。

 万一泣かれてしまった日には、あやすこともままならないジョナスにとって、地獄であることは確実だ。




 げんなりした気分のままフィーリアの部屋に入ると、フィーリアは既に起きていて、ベッドの上にちんまりと座っていた。


(ちぇ、なんでもう起きてるんだよ。寝ててくれれば、横で本でも読んでるだけで済んだのに……)


 ジョナスとて、妹が可愛くないわけではない。むしろ可愛い。が、何しろ小さいし柔らかいし意思の疎通ができないしで、扱いがわからなすぎて怖いのだ。双子の兄のトビアスは平気で投げたりブン回したり雑に扱っているが、ジョナスはそれを横から見ているだけでも壊れてしまいそうで怖くてしょうがない。

 メイドのマーサも家令のダルトンも家のことで忙しいので、自分しか子守がいないこともわかってはいる。

 半ば諦めたように溜息をつきつつ、ジョナスはベッドに近付き、暇つぶしに読もうと持ち込んでいた数冊の本を、どさりとベットの端に置いた。ぎこちない笑顔を浮かべ、フィーリアに声をかける。


「やあ、おはようフィーリア。今日は一日僕と一緒だよ。頼むからご機嫌に過ごしてくれよ。」


 フィーリアの機嫌を取るためのおもちゃはさてどれだろう、と部屋の一角にあるおもちゃ箱が積まれたエリアに向かい、あれやこれやとおもちゃを取り出し吟味する。ふと振り返ると、さっき自分が置いた本を、フィーリアが触って並べている。


「ちょ、それはダメだよ。おもちゃじゃないんだ。」


 何しろ相手は赤子だ。折ったりよだれで汚したりしかねない。大事な本にそんなことされたらたまらない。紙も本もなかなかに貴重で、それでも両親や祖父母は、姉兄や自分のために色々と取り揃えてくれたのだ。

 取り上げようとフィーリアに近付く。


()()。」


 フィーリアが並べたうちの一冊を指さして、ジョナスをじっと見ている。それは魔法の指南書だった。身じろぎもせず圧をかけるようにジョナスを見つめてくる。

 たじろいだジョナスはピタリと動きを止める。フィーリアが指差す先に目を向けると、あることに気が付いた。


 ジョナスの持ち込んだ本は、歴史の本が三冊、魔法書が二冊、算学の本が二冊である。それが種類ごとに分けられてベッドの上に並べられていた。そしてそのうちの魔法書、やや初級寄りの本をフィーリアは指さしていた。


()()()っ!」


(え?そんなまさか。だってフィーリアはまだ一歳で……)

「え?()()?これが読みたいの?」


 フィーリアがこっくりと頷く。


 困惑するジョナス。それもそうだ。ジョナスでさえ文字を読めるようになったのは、二歳を過ぎたあたりなのだから。


(読めるの?文字がわかるの?それとも適当に指を差してるだけ?あ、アンディ兄様の真似をしたいとか?)


 育児書も何もない世界。ジョナスには、何が正解なのかもわからない。


(う……まあ……静かにしていてくれるなら……アリ、なのか……?)

「……わかったよ。でもこれは大事な物なんだ。汚したり乱暴なことはしないでね。」


 戸惑いつつも、好奇心が勝りフィーリアに本を見せることを決心する。注意するその言葉を、正確に理解してもらえてるのかどうかはわからないが、ジョナスは言わずにはいられなかった。こうなったら、迂闊なことだけはしでかさないように、しっかり見張るしかないだろう。

 ジョナスは他の本をまとめてサイドテーブルに移動させた。出来る限りのリスク回避だ。フィーリアの目の前に指差された本を置き、重たげな表紙をめくってやる。

 自分が本を読み耽っている場合ではない。ベッド脇の椅子に腰かけ、探るようにフィーリアの様子を見る。


 フィーリアは、文字が、本が読めるのか。わかってその本を選んだのか。なぜその本を選んだのか。そもそも本を汚したり皺をつけないようにページをめくることができるのか。


 目の前の不可解な生き物と、不可解な出来事に、ジョナスは観察モードに入った。本を読む読まないというこの一連のやり取りにおいて、フィーリアと意思の疎通ができていたことにもジョナスは気付いていなかった。




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