最終兵器登場
◆ sideフィーリア ◆
「フィー様、ブラン閣下から連絡が来ました。馬車ができたそうですよ。紹介状も準備してあるそうです。」
朝食の席でシドにそう言われた。ぅお!例のアレだね!
「あら?フィー、何かお祖父様…ひいお祖父様にお願いしていたの?」
母様が耳聡く訊ねてきた。あ、しまった、辺境伯領行きのこと、まだ母様に相談してなかった。というか、ブランドン邸で話しただけで、うちではシドしか知らないんだった。
「えぇと、今、ジョナ兄と共同で新商品の開発をしていて、その材料の一つがルヴレフ辺境伯領で取れる魔鉱なの。今まで取り引きないから、一度現地見がてらご挨拶したいなーと思ってて……」
「「「「「「辺境まで行くってこと?」」」」」」
いやそんな、みんなで声揃えなくたって。あ、シドの視線が痛い。悪かったよ。忙しすぎてマジで報告忘れてたんだ。
「フィーリア、それはその、閣下と、いや、あとでじっくり話を聞こう。ダルトン、今日の予定はどうなってる?」
「午前は、ポサ村の村長と面会の予定がございます。ご夫婦でいらっしゃいますので、奥様にも同席していただけたらと。
午後は狩人たちとの会合がございます。魔石の引き取り額の交渉で、ジョナス坊ちゃまが同行なさると聞いております。」
「む、ジョナスがクズ魔石を使いたいと言っていたアレか。それが新商品に関係しているのか?」
あー、そうだった。魔珠の原料にするのにクズ魔石の引き取りを確実にしたいって、ジョナ兄が言ってたっけ。いやー、自業自得だけど、みんなの視線が痛いわー。汗が止まらん。
「フィー、家族会議は夕食後になりそうだから、それまでに新商品とひいお祖父様にお願いしていたことの全てを、報告書にまとめておきなさい。いいわね。」
ひいいぃ、にっこり笑う母様が怖いぃぃ。
「いやあ、まさか誰にも言ってないとは思ってなかったな。」
「ホントごめんて。あれこれやったり考えたりしてるうちに、伝えた気になっちゃってたのよ。」
自室で必死に報告書を書き殴ってる横で、シドに冷静にツッコまれる。いやオマエも手伝えや、と思ったが、既に人造魔石その他の資料を掻き集めてきてくれている。手の掛かる主でマジごめん。
「フィー様、一人で行くつもりだったんだろ?と言っても俺は当然同行するけど。でもこれ、少なくとも旦那様か奥様かアンディ様が同行する都合が付かない限り、出してもらえないんじゃないか?」
「うう……やっぱりそう思う?どうしよ……」
みんなそれぞれ忙しくて、長期に家を空ける都合は付かないだろう。だいたい、辺境伯領に行くだけでも、下手したら馬車で二十日近くかかるもんね。シドが考え込む。
「……まあ、俺がフィー様のうっかりに気付いてなかったってのも、ある意味責任あるしな。あるか?いや従者だからあるか。そうだな、ちょっくら策を巡らしてみっか。」
「なんか良い手あるの?」
「んー、まだ未確定だな。例のこっちを探ってる奴の件もあるしな。どう転ぶかわからんから、とりあえずフィー様は大人しく説教くらっとけ。」
その日の夕食後、全員からお説教くらったさ。人造魔石は絶賛されたけど、それと単独で辺境へ行くことは関係ないってさ。まあそうなんだけど。ぐすん。
打開策の無いまま、六日が過ぎた。
大説教大会以来姿を消していたシドが戻ってきた。手には一通の手紙を持っている。
「フィー様、臨時報酬弾んでくれよ。」
シドが持ち帰ったのは、ブラン爺からの先触れの手紙。先触れ?どゆこと?ブラン爺がうちに来るってこと?
家の中はもう大騒ぎ。上の姉兄たちは初めて会うひいお祖父様に失礼のないようおめかしするし、ダルトンは家じゅうの掃除と片付け、母様とマーサはおもてなしの用意で厨房に籠りっきり。あれ?父様だけ何もしてないな。
日が沈むちょっと前に、ブラン爺の馬車がやってき……馬車が四台?オマケに騎馬の騎士が二十人ほど付いている。なんじゃ?この大所帯。
「クレア!フィーリア!元気にしとったか!おお!この子たちが儂のひ孫か!」
ブラン爺、テンション高ぇ。あらクレイグまでいる。
ブラン爺たちが乗ってきた馬車以外の三台、全部母様とひ孫たちへのお土産が詰め込まれてたよ。これがジジ馬鹿ってやつか。
心尽くしの夕食を終え、粗方みんなと交流も済んだところで本題。ちなみに護衛の騎士さんたちは野営中。建て替えたとは言え、流石に二十人分宿泊できる規模ではないわー。村にも宿屋はないし、ごめんね。土地だけはいっぱいあるからね。
「明日、儂は王都へ向かう。用が済めばそのままルヴレフ辺境伯領へ向かうので、フィーリアも一緒に連れて行く。」
な、なんですとー!シドの言ってた策ってのがこれかー!
なにせ、前公爵閣下でひいお祖父様の言うこと。誰も逆らえるワケがない。ひゃほー!これでルヴレフ領に行けるー!
否やの無いまま、その日は就寝、のはずが、夜更けにこっそりブラン爺とクレイグが部屋にやってきた。シドも。
「アマト研究所、ってところ、儂にも見せてもらえんか?」
うふふー、ブラン爺も好きだねえ。まだ一人しか一緒に転移できないから、行ったり来たりしながら全員運びましたとも。
珍しそうに研究所の中や魔素溜まりを見学する三人。大丈夫?気分悪くなったりしてない?
「私とシドは魔力が五あります。旦那様はおそらくそれ以上でしょう。ちょっと胸焼けのような感覚はありますが、これくらいなら三人とも問題ありません。」
クレイグが教えてくれた。前にシドを連れて来た時はほんのちょっとの時間だったし、念のためにここには連れて来ないようにしてたけど、それなら良かった。
「私が魔力高いのって、ブラン爺譲りなんだね。」
ニカッと笑うと、またブラン爺に抱き潰された。
ぐええ、苦しいってば。