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商人の才能

◆ sideフィーリア ◆




 自宅の研究室で、ジョナ兄と顔を突き合わせている。目の前の作業台には、人造魔石を作るための魔法陣。


「結局のところ、錬金魔法を直接魔法陣にするより、工程ごとに分けたほうが効率的ってこと?」

「うん。【錬金魔法陣】で材料を直接人造魔石にすると、動力用魔石の消費が激しすぎるんだ。魔石を二つ作るたびに、魔石を一つ消費するようなもので、効率が悪すぎるだろう?」

「う~ん、自分で錬金魔法使って魔石作るときは、そんなに消費してる感じもなかったんだけどなあ。」

「錬金魔法そのものが複雑すぎて、陣として発動するときの無駄が大きすぎるんだ。これを魔道具に組み込んだら更に無駄が出るから、下手したら魔石二個使って魔石一個を作る、なんてことになりかねないよ。」


 ああ、そりゃダメだね。どうもこの魔法陣ってやつ、魔力コストが高すぎる。非常用ならいいかもしれないが、複雑になればなるほど陣そのものも擦り減るのが早いし、使用魔力も上がりロスも多いので、なんとも使いづらいのだ。


「工程ごとに分けたら、効率はどれくらい違うの?」

「粉砕や成形は陣じゃなくて紋で済むから、大量生産用としては充分だと思う。錬成だけは錬金魔法使わなきゃいけないから陣になるけど、それだけなら割合単純な陣で済むから、そんなに無理な話じゃないよ。」

「あー、なるほど。工程多くなって人件費掛かっても、そっちのほうがいいってことかあ。」


 うん、製造のほうはこれがいいかも。あとは、肝心の魔力の充填作業だよなあ。今んとこ、アマト研究所の魔素溜まりでしかできないし、研究所には私しか入れないし。


「充填どうしようか。アマトに充填専用の設備を作っちゃう?こう、外からガラガラ―っと投入口に入れたら、一定時間で取り出し口に自動的に運ばれるようにするとかさ。」

「いや、場所的に無理があるよ。魔素溜まりの影響を受けない動作方法としてはそれでいいけど、あの場所まで誰かが定期的に森へ入ることになる。フィーリアは、あの研究所これからも使いたいんでしょ?それなら他の人が立ち寄るのはあまり良くないよ。」


 ううむ。私としても、あの研究所は魔法研究に最適なので、できればそのまま研究所として使いたいんだよなあ。

 これ誰かに相談したほうがいいんだろうか。継続的な事業にするために、最終的には商会側で回収・充填・再販してもらいたいんだけどなあ。工場は生産オンリーで。


「……グラントさんに相談してみよっか。できれば製造以外の工程は、商会で完結させたいの。」

「商会で……そうだね。グラントさんにも魔素溜まりのことは話さなきゃならないけど、将来的に回収再販を商会の仕事にしたいなら、彼の意見も必要かもしれない。」


 よし!そうと決まればシドに言ってグラントさん連れてきてもらおう。どこにいるかは知らんけどシドなら探せるでしょ。

 グラントさんが来るまでは、製造工程の効率化の研究だー。




 五日後、ぐったりしたシドが、トマスを連れてやったきた。


「フィー様、グラントさんですが、新店舗にかかりきりで手が離せません。それで、代理としてトマスを連れてきました。」

「お嬢様、申し訳ありません。父は今、新店舗の開店直前で、どうしても抜けられない状況で……。私が委細漏らさず父に伝えますので、ご容赦ください。」


 開店直前!そうだった!もうすぐオープンじゃん!


「いえ、こちらこそ無理を言ってごめんなさい。新商品に関して、ちょっとグラントさんの意見を聞きたかったの。」

「新商品……、それはどのような……?」


 ジョナ兄と顔を見合わせる。まあ、跡継ぎだしトマスならいいか。

 んじゃ、まずは応接室でゆっくり説明しようかな。


「これがその人造魔石。これは、魔素溜まりで魔力を充填できるんだけど、その、回収・充填・再販を商会の仕事にしたいのよ。」

「充填……何度でも使えるということですか?これは……素晴らしいですね!さすがお嬢様です!」

「あ、いや、その、それで充填なんだけど、今のところできる高濃度の魔素溜まりが一か所しか見つかってないの。そこに行けるのも私だけで……。」

「魔素溜まり……狩人から聞いたことがあります。実際見たことはありませんが。そうなると別の魔素溜まりを見つけて、そこに充填専用の施設を作るほうが良いですね。候補になりそうな魔素溜まりの情報を集めてみます。」


 おお、トマスいいね。対応能力高いね。


「そうね。こちらでも情報は集めてみるけど、それまでは私が毎日少しずつでも充填作業を行うようにするわ。」

「え、いえ、今はそこまでは必要ないかと。」


 ん?どゆこと?


「人造魔石の販売は、段階的に行うほうが良いと思います。今の時点での利点は、安価なのはもちろんですが、規格を一定にできるということです。まずはこの規格で流通量を増やし、この規格に対応した形の魔道具が出始めるのを待つか開発するかします。

 魔道具が一般に広まるまでに、使い勝手の良い場所にある魔素溜まりを見つけ、充填施設を建てれば良いので、焦る必要はありません。

 それまでは、再充填できることは公開せず、普通の魔石と同じように販売します。」


 え、だって再充填できるのが売りなのに。


「お嬢様、今の段階で既に『高くて使い捨て』から『安くて使い捨て』になるだけで間違いなく売れます。まずは人造魔石を広めるほうに重きを置きましょう。

 回収については、新たな魔石を買う時に(から)魔石を引き取って割引きするようにすれば問題ありません。壊れた鍋だって金属加工屋に引き取ってもらえるんですから、誰も不審には思いませんよ。」


 なるほど。トマス意外と商人としての能力高ぇな。


「製造品も最初は充填しなければならないのでしょう?であれば毎日ではなく、月にどれくらい、と納品量を決めておけば調整しやすいですし、製造の負担もお嬢様の負担も少なくなるのではないですか?

 製造分を売ることと、回収品を充填して再販することは別に考えましょう。一度に全部やらなくても構いません。」


 ……何だかトマスが輝いて見える。この子もしかして商売の天才なのかも。


「今は、作れる範囲で作るだけにしてください。この人造魔石が国じゅうに広まるまでには、必ずお嬢様の望む高濃度魔素溜まりを見つけ出してみせます。」


 国じゅう……わ、ヤバい、ちょっと感動すらしてる。


「……ところで商品名はどうなさいますか?『人造魔石』ではちょっと味気ないと言うか……。せっかくこんな美しい真球ですし、是非良い商品名を。」


 !!ここに来てまた名付けかあーっ!!




 結局、人造魔石の商品名は『魔珠(ましゅ)』になった。何の捻りもないけど、わかりやすいのが一番ですヨ……。

 今回思いがけず、トマスの優秀さが明らかになった。ジョナ兄もトマスを見直したみたい。これで威嚇がちょっとでも減るといいな。




 ところで、トマスからちょっと気になる話を聞いた。


「どうも、うちの商会の周りで『リナリア・シューベリー』のことを探っている人間がいるようです。今のところ情報は漏れてはいませんが、お嬢様も身辺にはお気をつけください。」


 おっと、これは早速きな臭い話が出てきたな。


「シド、調べてくれる?」

「承知。」


 ここはシドに本領発揮してもらいましょうね。




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