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おねだり

フィーリア、六歳になりました。自ら社畜化しています。

◆ sideフィーリア ◆




 やること多すぎて目が回る。まあ、全部自分であちこち手ぇ出したせいなんだけどさ。


 まずは人造魔石の開発。これはアイナとクダンの協力で、おおよその目途は立った。あとは大量生産の為に、製造過程をどう魔道具にするか、なんだけど、これには魔法陣の開発も関わってくる。


 んでその魔法陣の研究は、ジョナ兄に協力してもらってる。ジョナ兄はアマト研究所にはいられないので、離れで研究をしている。で、真っ先に【精霊との会話の魔法陣】の描き方を練習してた。

 これがねー、効率が悪くて、紙に描いてもすぐに効力が無くなるのよ。効力が無くなると、文字や図のインクがぐずぐずに崩れたり薄くなって見えなくなったりするの。だからジョナ兄の研究は、主に描くほうと描かれるほうの材質の研究。

 その実験の協力なのか、単なる暇つぶしなのか、時々ワッカが遊びに来て、二人でお茶してたりする。まあ、仲良くなるのはいいんだけど、ちょっと妬けるなあ。どっちにかはわかんないけど。


 シューベリー商会は、ペンと紙の販売だけでも忙しいのに、今は公爵領都(ユグレリア)に店を構える準備で大わらわだ。

 今まではグラントさんの人脈だけで一部の人と店に商品を卸してきたが、職人や作業員もだいぶん育ってきた。ならちょっと生産拡大して直営店作って、大々的に広めちゃいましょう、という話。トレント葉の収入も安定してるしね。

 せっかく商会できたんだもん。どんどん広げていかなくちゃね。将来的には王都にも店出したいなあ。

 グラントさんが忙しいので、連絡役には息子のトマスが来るようになった。のはいいんだが、なぜか毎回花を持ってくる。そんなに気を使わなくていいのにね。毎度毎度アンディ兄様とトビー兄になぜか威嚇されて、ちょっと可哀想。


 それで、私は何をしてるかと言うと






「馬車の揺れを軽減する改造をしたいの。このままじゃ馬車に乗るたびお尻が割れちゃう。」

「尻は元々割れてるモンでしょうが。」

「シド、お前、フィーリアの前で下品な発言はするな。」


 シドと一緒に、ブラン爺のところに定期報告(という(てい)の遊び)に来ている。今は中庭で、シドとクレイグも一緒にお茶をいただいてるところ。


 ブラン爺に、先月六歳になったことを伝えると、なにか欲しい物はないかと聞かれ、答えたのが新しい馬車。

 そもそも男爵家は馬車を持っていない。今まで乗っていた馬車は、村三つの共同の持ち物で、管理している男爵家と言えど、私用で使う時には借り賃を代官の公庫に払っている。


「でも馬車の改造であれば、フィーリア様がご自分でなさったほうが早いのではないですか?」

「そうは思うんだけど、今、やること多すぎて手が回らないの。そもそもホラ、私、転移魔法使えるから、馬車に乗る機会が少ないのよ。」

「ああ、それもそうですね。開発の優先順位は低くなりますよね。」


 精霊獣のこと以外は、全て報告オッケーとしてるので、ブラン爺たちはワッカとクダンのことは知らないが、転移魔法が使えることは知ってる。だってアマト研究所以外で一番転移で来るのここだもん。


「うん?それならなぜ馬車の改造がしたいのだ?必要ないように思えるが。」

「いやー、それがね、今回ブラン爺におねだりしようとしてることがあってね……。」

「おねだりっ!?何でも任せろ!ドレスか?宝石か?城か?」

「いや、ブラン閣下、フィー様がそんな物欲しがらないのわかってるでしょ。てか城て。」


 シドにツッコまれるブラン爺、ってのも新鮮だわあ。


「さっき、人造魔石のこと話したでしょ?で、それに使う魔鉱が大量に欲しくて。でも伝手(つて)も何もないから、ブラン爺からルヴレフ辺境伯への紹介状もらえないかなー、って。」


 ルヴレフ辺境伯領は、魔鉱の一大産地だ。今回魔鉱を仕入れるにあたって、一度現地を見ておきたい……というのは建前で、実は辺境伯家、国内で唯一ドラグーン隊を持っているのだ。

 野生のドラゴンの生息地でもある辺境伯領、そのドラゴンを飼いならして軍属させている。本物のドラゴン見たい。だってドラゴンよ、ドラゴン。ロマンの塊でしょ。


「……ドラゴンか?」

「……ドラゴンだろ?」

「……ドラゴンでしょう?」


 なぜバレるし。

 三人にジトっとした目で見られながら、慌てて言葉を続ける。


「っで、一度行ったところじゃないと転移できないから、どうしても最初は馬車で行くことになっちゃうのよ。南東の端から北西の端まで国内斜め大移動だもの。良い馬車に乗りたいじゃない。」

「ふむ、それはもっともだが、馬車の改造と言ってもそう簡単にできるものではないのではないか?」

「そこはそれ、アイデアと改造に必要な部品だけ作ってきたの!シド!荷物持ってきて!」


 シドとクレイグが大きな木箱を運んでくる。


「じゃじゃーん!金属バネでーす!」


 木箱を開け、中からコイルバネ十二個と板バネ八個を取り出した。ペン先作るのに金属の弾性を調べたけど、それが役に立っちゃった。錬金魔法使って、同じ金属でバネを作って持ってきたのだ。


「なんっ、こんなの入ってたのかよ!道理でクッソ重いと思った。」

()()……?なんだこれは……?」


 おっとと、解説しなきゃ。同じく木箱から取り出した書類一式をテーブルの上に広げる。


「えーっと、まずこっちがコイルバネでこっちが板バネ。これを上手く使って、居住空間の揺れを軽減させてほしいの。馬車の構造よく知らないから、おおよその提案しかできないけど、あとは職人さんたちに、どっちか使って何とかしてもらいたいなー、と。」


 クレイグが、コイルバネをびよんびよんさせながら難しい顔をしてる。


「……旦那様、これは……」

「うむ……馬車どころの騒ぎではないな。」


 あー、やっぱそうなるか。う~ん、バネが存在しない時点でちょっと迷ったんだよなあ。下手したら産業革命モノだし。


「あのね、グラン爺。私グラン爺に後見してもらってるでしょ。んで、なんかお礼したいな、と思ってて。

 これ使って新しい馬車を作ってくれたら、あとはそのバネの権利はグラン爺にあげるよ。研究でも開発でもグラン爺の好きにして。」


 グラン爺とクレイグが顔を見合わせる。


「……このバネの権利だけで、一生遊んで暮らせるぞ。」

「ん~、それはそうかもだけど、今の私じゃ有効に使えないし、グラン爺にプレゼントできるのってアイデアくらいなんだよね。だから、受け取ってもらえると嬉しいな。」


 あ、グラン爺の鼻が赤い。なんかプルプルしてるし。と急に抱きしめられた。ぐええ苦しい。


「任せておけ!最高の馬車を作ってやるぞ!ルヴレフ領でも世界の果てまででも最高の乗り心地にしてやる!」


 いや、そんなとこまで行かねーわ。ふふ、泣くほどのことじゃないよお。

 あ、外観は地味目にお願いします。




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