番外編5 初恋
◆ sideトマス ◆
いつものように、森のそばで野イチゴを摘んでいた。まだ体が小さくて畑は手伝えないけど、野イチゴは母さんが好きだから摘んでくると喜んでくれる。
父さんと祖父ちゃんはいつも行商で家にいないから、早く大きくなって母さんと祖母ちゃんを助けてやるんだ。そんで、俺の代で店を構えて、父さんと祖父ちゃんにも楽させてやるんだ。
足音?珍しいな、こんな村外れに――――
怖いよ。助けて父さん。こいつらきっと悪い奴だ。俺の他にもう二人女の子がいる。あの子たちも俺と同じ様に袋に入れられて拐われたのかな?水なんて飲んでる場合じゃない。どうやったら逃げられるんだろう?
まぶしい!あの女の子が光ってる!
キレイだ
ふわふわの金髪がふわふわしてる
あの子妖精なのかな
金色の光が、俺ともう一人の女の子を包み込んだ。外が見えない。でもなんだか安心する。
きっとこの光の中にいれば大丈夫だ。わかんないけどそんな気がする。隣にいる女の子も眠そうにしてる。俺も眠くなってきた。
光の外から男の叫び声がする。きっとあの妖精のお姫様が、悪い奴らをやっつけてくれてるんだ。
眠い…………
目が覚めたら、母さんがいた。ここは代官様のお屋敷だって。祖母ちゃんは家で待ってるらしい。
さっきまで狩人さんたちがいっぱいいたらしいけど、悪い奴らを捕まえに行ったって。代官様も一緒に。
やっぱり妖精が助けてくれたんだ。キレイだったなあ。また会いたいな。そしてちゃんとお礼を言うんだ。俺のお嫁さんにしてあげてもいい。
あの子は妖精なんかじゃなかった。代官様の末娘だって。フィーリア様っていうんだ。
俺は父さんと母さんに、森であったことを全部話した。
「トマス、そのことは誰にも言ってはいけないよ。父さんも母さんも誰にも言わない。代官様のご命令なんだ。」
「でもホントなんだよ。ホントにキレイだったんだ。おれ、あのこをおよめさんにしたい。」
父さんと母さんが顔を見合わせてる。
「そうか、命の恩人だもんな。でもトマス、あの子をお嫁さんにするには、たくさん勉強をして、代官様のお役に立てるようにならなきゃなんないんだ。」
「べんきょう、おれ、するよ!がんばる!」
「そう……そうね。勉強するのは良いことだわ。じゃあ、母さんと祖母ちゃんで、代わりばんこに勉強を教えてあげるわ。」
「うんっ!おれ、がんばるよ!」
俺はそれから毎日頑張って勉強をしたんだ。
八歳になったら、父さんが仕事を教えてくれると約束してくれた。その父さんに、フィーリアお嬢様が新しく作る商会の代表代行の話が来た。
俺はもうすぐ八歳だ。俺も面接に連れて行ってほしい。父さんはかなり渋っていたけど、母さんが後押ししてくれた。
フィーリアお嬢様に会いたいだけじゃない。去年祖父ちゃんが死んでから、父さんは一人で行商に出ていた。紙や筆記具の扱いを代官家から請け負っていたから、一人じゃ大変だ。俺も父さんを助けたい。
そして
会えた。やっと会えた。あの時の妖精だ。
なんてキレイなんだろう。ふわふわの金髪は、長く伸びてもっとふわふわのキラキラになっていた。赤紫の瞳は、まるで魔宝石みたいだ。
「ええ、是非ともあなたたちの力を借りたいわ。グラントさん、トマス、どうぞ今後ともよろしくね。」
にっこりと笑うその笑顔は、やっぱり妖精じゃないか!ああ、この方のお役に立ちたい。この方に必要とされたい。この方のお傍に置いてほしい。
もっと勉強しよう。もっともっと修行しよう。そしていつか、商会が大きくなって、あの方の片腕になれたなら……
そのときは
これで、フィーリア五歳まで終了です。
商会ができて、パートナーになる人材も手に入って、アンタッチャブルへの足掛かりができました。
この先、調子に乗って暴れまくるのが目に見えるようです。
作者の頭が付いて行ける範囲で暴れて欲しいものです。




