人造魔石と魔法陣
◆ sideフィーリア ◆
「「「フィーリアの従者になりたいなら、勝負だっ!」」」
シドを連れ帰ったら、アンディ兄様とトビー兄とジョナ兄が激おこである。まあシスコンの彼らにしてみたら、いきなり現れたチャラいどこぞの馬の骨が可愛い妹の従者になる、っていうんだもんね。てかジョナ兄まで勝負って。
まあ勝負すればいいんじゃない?最近、フランセルもあれこれ使われてお疲れみたいだし、そもそもシド、強いしね。三人とも、勝負という名の稽古をつけてもらえばいいさ。
「あれ?だってフィー様出掛けるんでしょ?俺一応従者なのに一緒にいないのマズくない?」
「あー、大丈夫。今日は研究室に籠るだけだし放っといて。夕方にはちゃんと出てくるよ。それまで兄たちと腕力で会話してやって。」
自分でも酷い言い草だとは思う。しかも研究室って、実は誰も知らないアマト研究所のほうにコッソリ行くし。
商会作った以上、ガツンと一発儲けておきたいので、新商品の研究をしたいのだ。特に……魔石関連の商品を!
私の研究室には内鍵を掛け、お菓子で釣ったワッカに緊急連絡役として籠ってもらって、そこから森の洞窟にあるアマト研究所に転移する。
ここ、まだジョナ兄も誰も連れてきたことないんだよね。魔素の吹き出し口は、地上で枯れ木に偽装した排出口に繋いであるけど、基本的に魔素の高いところだから、誰かを連れてくるのは憚られるのだ。
まずは、魔素の吹き出し口に仕込んでおいた空魔石のチェック。うん、ちゃんと魔力が充填されてるね。これは製紙工場の魔道具に回すとして、と。
目指すは、定形で再利用可能な人造魔石。
魔石は前世の電池のように使われてるけど、魔物からしか取れないし、供給が安定してなくてそこそこ高価だ。しかも小型魔物から取れる小さな魔石は『クズ魔石』と呼ばれ使い物にならない。だから魔道具も一般にはあまり普及していない。
これをもし安価な人造魔石に置き換えることができたら、もっと色んな魔道具が開発されると思うんだよね。う~ん。
《アイナぁ、クダン、知恵貸してー》
『お呼びですか?』
『知恵、とはまた何用かな?』
三人寄れば何とやら、使える頭は多いほうがいいよね。
『やはり、魔石の純度を上げるだけでは足りませんねえ。』
『ふむ、繋ぎにミスリルや魔鉱を使うのはどうだ?効率として悪くないとは思うが。』
「コスト考えると、ミスリルはないよね。魔鉱はいいかも。魔石も一緒に粉砕して再結晶化するなら、空魔石だけじゃなく小っちゃいクズ魔石とかも使えるし。」
思いのほか、アイナもクダンも研究に熱中してる。楽しそうだな。
聞いてみたら、今までの契約者は、ほとんど精霊獣を戦いの手段として扱ってたみたい。まあそれも間違ってはいないんだろうけど、あまりこんな風に一緒に何かを研究したり、ただお茶を飲んでお喋りしたりってなかったそうだ。
「う~ん、でもこの製造工程だと、私の錬金魔法頼みになっちゃわない?私以外でも作れるようにしたいんだけどなあ。」
『製紙工場のように、魔道具を開発してはいかがです?』
「あれ、属性紋そのまま組み込んでるだけだからなあ。錬金だと紋が複雑になっちゃわない?上手くできるかなあ?」
『紋など使わなくても、魔法陣にしてしまえばそのまま錬金魔法が使えるぞ。』
「はあ?なにそれ魔法陣?詳しくプリーズ!」
なんか、思わぬ副産物発見。転移魔法教えてくれたのもクダンだし、大昔のクダンの契約者のおかげかな?
人造魔石の研究はアイナとクダンに任せて、私はその魔法陣の研究をしてみようかな。使える魔法を全部魔法陣化できるとすれば、これはちょっと面白いぞ。いや役立つぞ。
「ねえフィーリア、前に君に言ったよね。やりたいこと先に全部教えておいて、って。最近、君、一人で何やら研究してるみたいだけど、一体何やってるのさ。」
夜、自室で魔法陣の研究をしていると、ジョナ兄がやってきて聞かれた。何でだかシドも一緒にいるし。なんで仲良くなってんのさ。
「フィー様、他の方はともかく、ジョナス様には洗いざらい話しておくほうがいいと思うぜ。家の研究室にいないのがバレたら、大騒ぎになっちまう。フォローできんのはジョナス様だけだろう?」
「えっ?なななんでいないって」
「おいおい、俺は優秀な諜報員だぜ。まあ、どこに行ってるかまではわからんかったが。」
あーそうだコイツ諜報部の出身だった。私の隠密も見破ったんだっけ。チャラ男のクセに。
「シドにも全部教えておいたほうがいいよ。ひいお祖父様の後見受けてるんだし、何かあったらそっちに対するフォローはシドの役目になるだろ?」
ひー!なんかジョナ兄の圧が凄い!……っても、どこまで話せばいいんだろう?前世のこと以外は全部話しても大丈夫かな?うん、いいや、話しちゃおう。
結局、森の洞窟の魔素溜まりに作ったアマト研究所のことから、そこでやってる人造魔石の研究、それに付随した魔法陣の研究まで全部話した。
全部……いや、全部じゃないな。二人にフォローしてもらうなら、話しておかないといけないことがまだある。
それに、ちょうどクダンから良い魔法を教えてもらった。ついさっきまで、それを魔法陣化してたところ。それを使えば、かなりスムーズにいくはず。
「ジョナ兄、実はね私、精霊獣と契約してるんだ。その精霊獣を紹介したいんだけど。今ここに呼ぶからびっくりしないでね。」




