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重いってば

◆ sideフィーリア ◆




 自室で、書類を前にうんうん唸る。一枚署名をすると、脇に控えるダルトンが容赦なく次の書類に交換する。


「ん~と、商会名は『シューベリー商会』代表の偽名は『リナリア・シューベリー』っと。あと、代行商人決めなくちゃなんないのね?」

「はい。午後から候補者が面接に参ります。お嬢様、リナリア・シューベリーというのはどこから?なにやら可愛らしい響きのお名前でございますね。」


 う!答えられない!

 前世の花事典で『フィリア』が『リナリア』って花の品種名にあったのよ。んで『シューベリー』に至っては、ダーウィング家→ダーウィン→出身地シュルーズベリー→長いなシューベリーでいっか。という何ともくだらない連想でしかも説明できない家名になっちゃったのだ。

 思えば、『ワッカ』はアイヌ語だし『アイナ』はハワイ語、『クダン』に至っては名付けの意識すらなく、日本の妖怪の名前だもんなぁ。名付けツラい……。


「ん、まあ、なんとなくかな。可愛いでしょ?それより、面接に来る商人ってどんな人?」

「旦那様や奥様よりも、ちょっと年齢は下ですね。昔からこの辺りに行商に来ていた商人で、元を辿れば隣のヨデル村の出で、家族は今もヨデル村に住んでおります。

 ペンや紙をその商人を通じて売っているので、最近は店舗を持ったほうがいいのか商会を持って家名を付けたほうがいいのか、旦那様に相談していたようです。」


 おお、ちゃんと地元…っても隣村だけど、そこの商人使ってるんだ。まあそりゃそうか。ちゃんとうちに税金納めてもらわなきゃなんないもんね。

 平民だと家名を持ってない人も多いけど、複数の農園を持ったり店を持ったりするときに新たに家名を付けるらしい。

 行商とペンと紙の仲買だけでもそこそこ儲けられてるってことは、人脈とか手腕はそれなりにありそうね。昔からの付き合いなら信用できそうだし。


「その商人には、旦那様からお嬢様のことは話してあります。」

「へ?勝手に話しちゃったってこと?なんで?まだ決定もしてないのにっ!」

「話したと言いましても、商品関連のことだけで……旦那様はもうその商人に決めておられるようです。今回は、面接というより顔合わせのようなものでございます。」

「なにそれーっ!いや、それだけ信用されてる人ってことなんだろうけど、私の立場ないーっ!」

「お嬢様のお立場は……お会いになればわかると思います。色々事情があるのでございますよ。」


 えー、なんか面白くないなあ。ぶー。




「お初にお目にかかります。商人のグラントと申します。こちらは息子のトマス、もうすぐ八歳になります。よろしくお見知りおきください。」


 目の前に、実直そうな男と、顔立ちのよく似た男の子が並んで跪いている。いや、ちょっと、丁寧なのはいいけど、やりすぎじゃないの?商会長と代行、いや代官の娘と出入りの商人だとしても、そこまで畏まった関係じゃないでしょーが。

 と、親子がそのままガバッと土下座をした。


「フィーリアお嬢様っ!あの時は息子を助けていただき、ありがとうございますっ!」


 はあ?なにコレ?一体なにごと?


「お嬢様、グラントの息子のトマスは、三年前、お嬢様と一緒に誘拐されていた子供でございます。」


 ダルトンが耳打ちしてくれた。

 ゆーかい?誘拐?え?二歳のときの?あー!うん、あんとき一緒に拐われてた子供、男の子いたね。


「あの時は、もうトマスの命はないものと諦めかけておりました。でも……フィーリアお嬢様のお力で……ぐすっ……助けられたと聞き……トマスは一粒種でっ……ぐすっ……怪我もなくっ……ぐすっ……」


 ちょ、あーあーあー、泣かないでよぉ。あれ?でも……


「私が助けた……って誰が言ったの?父様?」


 あれは箝口令を敷いていたはず。すると、男の子が顔を上げた。


「俺っ…私が父さ…父に言いましたっ。代官様も狩人の人たちも詳しいことは何も教えてくれなかったけど……。

 あの時、俺は怖くて何もできなかったけど、お嬢様から光が出て、その光に一緒にいた子と包まれて、その、叫び声とかちょっと聞こえて、ああ、お嬢様が俺たち守りながら闘ってくれてるんだな、ってわかったんだ。

 光の中は温かくって、安心できて、二人とも寝ちまったからその後のことはわかんないけど、お嬢様に助けてもらったのはわかる!

 お嬢様!俺…私を助けていただき、ありがとうございました!」


 そう言って男の子はまた深々と頭を下げた。父親も一緒に頭を下げる。

 あー、事情ってこういうことかあ。


「私どもは、フィーリアお嬢様の手足となり、生涯の忠誠を誓います!どうぞご存分にお使いください!」


 いや、重いわ。でも、父様がこの人に決めた意味がわかったな。絶対に私を裏切らない味方だと思ったんだ。そうだね、この場合商人としての能力はもちろんだけど、そこが一番重要になってくるもんね。


「ええ、是非ともあなたたちの力を借りたいわ。グラントさん、トマス、どうぞ今後ともよろしくね。」


 にっこり笑えば、グラントさんはまさしく喜色満面といった顔になった。トマスは……あれ?顔真っ赤だぞ。緊張しすぎて具合でも悪くなったかな?


 ともあれ、これで我がシューベリー商会の代表代行は無事決まった。




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