仲良し…?
◆ sideフィーリア ◆
その後は、ひい祖父ちゃん、ブランドン・モンユグレ前公爵とは、腹を割って話すことができた。母様の手紙に「五歳ではなく五十歳と話していると思えばいい」って書いてあったとさ。母様、酷ぇ。
まずはダーウィング家の人々の近況。次に私のこれまであったことと、現在の苦境について話をした。もちろん、ひい祖父ちゃんに保証人として立ってほしいことも含めて。
「ふん、保護秘匿法か。これまた古臭い法律を引っ張り出してきたもんだ。赤毛の小僧に思いつくものでもあるまい。大方ダルトンあたりの入れ知恵だろう。小賢しいことだ。」
赤毛の小僧……父様のことだよね。
「えーっとぉ、父様のこと気に食わないのはわかるけど、できればひいお祖父たまに協力してほしいの。お願いします。」
「……今、噛んだか……?」
「う……!だって『ひいお祖父たま』って何となく言いづらくて。長いし。」
ひい祖父ちゃんがプ、と噴き出した。見ると、真面目君もあさってのほうを向いている。チャラ男に至っては、正座のまま突っ伏して、背中を震わせている。てめえこの野郎、埋めるぞ。
「そうだな、確かに長いな。まあ噛んでも可愛くはあるが。
……うちの庭師がな、孫に『ガブラ爺』と呼ばれておった。弟子入りしてるので、『祖父ちゃん』ではなく、ちょっと師匠とも友人とも取れるような呼び方にさせたらしい。まあ、渾名のようなものか。」
真面目君が私の背後にすすす…と近寄り、耳打ちしてきた。
「旦那様は、ご自分の名を呼ばれることや気安い呼ばれ方に憧れがあるようでございます。」
「へ?じゃ、じゃあ……ブランドン……ブラン爺!」
「ふふふ、なんだ?フィーリア。保証人なら心配するな。儂が後ろ盾になってやろう。黴臭い法だとて、誰にも文句は言わせんよ。お前を守るくらいの力はまだ持っておる。」
デレた!金熊イケ爺がデレた!しかもフィクサー感がマジかっけえ!
「ありがとう!ブラン爺!大好き!」
金熊に飛びつき、思い切り抱きしめれば、顔を真っ赤にして手をわたわたさせ、それからやっと抱きしめ返してくれた。
「ん、ん゛ん゛っ、それはそうと、そちらの狼どのは、精霊獣様か?」
「え?精霊ってわかるの?」
ブラン爺が、ちょっと何かを思い出してるかのように、遠い目をした。
「……若い頃、山津波の現場に居合わせて、その時その狼どのをお見掛けした。逃げ遅れた子供たちを助けていたよ。あとで村の老人に、あれは精霊獣様だと教えられた。言いふらすなと口止めもされた。」
『……山津波などいちいち覚えてはいません。』
「北西にあるコズミ山の麓だ。養蚕が盛んな村だった。」
『養蚕……やはりわかりませんね。山津波のたびにあちこち出向くわけでもありませんから。』
「そうか……しかしこうしてお会いできて光栄だ。」
ちょちょちょちょーっと待ったぁ!
「ブラン爺、アイナの声が聞こえるの?」
「む?アイナとおっしゃるのか?ということは、もしやフィーリアと契約してるのか?」
『どうやらブランドン氏は、我々の声が聞こえるくらいには魔力が高いようですね。』
「……子供の頃、指先くらいの小さな精霊と契約していてね。水の精霊だったのだが、戦のときに大怪我を負ったわしを助けようとして力を使い果たし、消え去ったのだ。」
『ほう、それはそれは契約精霊としては本望な話ですね。』
なんか二人で分かり合ったような話してるんですけどー。アイナは私の精霊獣なんですけどー。ぶー。
『フィーリア、そう拗ねないでください。貴方だけが私の主。唯一なのですから。』
おぅふ……タラシにも程があるわ。何たるイケメン。
「ところでフィーリア、話を聞く限り、人手が足りておらんように思うが。作業員の話ではなく、お前の手足となって働ける者が。」
「あー、それは正直そうかな。研究ならジョナ兄…兄のジョナスが手伝ってくれるけど、事業や商会の運営となると、田舎だし人材がいないの。そもそも私のことを、迂闊によその人に話せないしね。」
「であれば、うちから一人連れて行くといい。このシドなんかどうだ?こっちのクレイグでもいいが、シドはナリはこんな軽い感じだが、うちの諜報部門で中核を担うほど優秀な人材だ。護衛もできるから従者にちょうど良いぞ。」
「はあっ!?ちょっブラン閣下っ!」
「えー?このチャラ男―?まあ腕が立つのは認めるけど。」
「待っ、ちゃ、ちゃらお?何それ?どう考えても良い意味じゃないんだけど!」
「てか、諜報部門なんてあるんだ。これから商会作るなら情報には強いほうがいいよね。うん、じゃあチャラ男もらおうかな。」
「俺の意見は?ねえ、俺の意見も聞いて!」
「そのうち正式にこっちへ訪ねてくるんだろう?そのとき連れて帰るといい。ああ、次に来るまでに、商会の名前とフィーリアの偽名、あと代表代行の商人を決めておくんだぞ。」
「はーいっ。」
「俺の……俺の意見―――っ!」
アイナと帰るから、と見送りを断って、前公爵邸を後にした。父様とどうかはわからないが、ともかく私はブラン爺とは仲良くなれた。これで保証人問題は解決だね。
あとは商会名と偽名……また名付けかあっ!




