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チートとは

◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇




「さあフィーちゃん、ごはんよ~。今日は母様がちょっと忙しいから、姉様が食べさせてあげるわね~。」

「姉様、エプロン忘れてるよ。あと布巾も。」


 ワゴンを押してきた長女アリシアの後ろから、双子の片割れジョナスが布を抱えて追いかけてくる。アリシアにしてみれば、弟三人の世話も手伝ってきたので、ごはんを食べさせるくらいはお手の物である。


 今日のフィーリアの離乳食メニューは、じゃがいもと人参の塩味スープと葡萄水だ。もちろん葡萄水は薄めてあるし、スープは家族用にキャベツや玉ねぎ、ベーコンもたっぷり入れて煮込んだものを、味付け前に必要分取り分けて更にやわやわに煮込んで、ほんのちょっとの塩で味付けたものだ。火傷しないようにちゃんと冷ましてある。


 まだ上手くスプーンを使えないフィーリアに、アリシアは手を添えてやりながらひとかけらずつ小さな口に運んでやる。


「フィーリアはなんだか難しい顔をして食べてるね。美味しくないのかなあ?」

「そんなことないわよ。真剣に食べてるだけじゃないの?」

「でも、こんなに味が薄くて、ベーコンも入ってないし。もう肉とかも食べられるんじゃないの?」

「ん~、まだ小っちゃい歯が四本しか生えてないしね。お肉は無理じゃないかな。お魚なら大丈夫かもしれないから、今度母様に言ってみましょう。」


 そんなことを話しながらせっせと食べさせていると、突然


ぶふぉっごほげほぐほほっっ!


とフィーリアがむせ込んだ。


「わ!大変!急がせすぎちゃったかしら。」

「ふ、布巾布巾!あー!シーツまで飛んじゃったよ。」


 二人は慌ててそこらを片付けたりフィーリアの顔や手をぬぐったり、咳込むフィーリアに水を飲ませたりした。

 そんな慌てふためく二人を、ドアの陰からトビアスが泣きそうな顔でジッと覗いている。彼はまだ、フィーリアへの接触禁止が解かれていないのだ。






◆ sideフィーリア ◆




 それは、ごはんを食べているときに突然きた。


 薄い塩スープに入ったじゃがいもを、ひとかけらずつもむもむと歯茎で潰して食べる。

 じゃがいも、塩味でもいいけど、煮込むなら醤油味とかがいいなぁ。醤油ってこの世界にあるのかな?醤油と味噌って、異世界食チートの定番だよね。醤油の作り方って……


ぶふぉっごほげほぐほほっっ!


「わ!大変!急がせすぎちゃったかしら。」

「ふ、布巾布巾!あー!シーツまで飛んじゃったよ。」


 び……びっくりした……。びっくりしすぎてむせちゃったよ。

 「醤油の作り方」を記憶から掘り起こそうとした瞬間、頭の中に浮かんだのは


------------------------------

●名称:しょうゆ加工品●原材料名:しょうゆ(小麦・大豆を含む)(国内製造)、水あめ、果糖ぶどう糖液糖、昆布エキス、/アルコール、調味料(アミノ酸等)●内容量:1L●賞味期限:欄外右下に記載●保存方法:直射日光を避け…………

------------------------------


 いやいやいや待て待て待て、それは「作り方」ではなく「食品成分表」だろう!しかも原材料名に「しょうゆ」とか「昆布エキス」って、そりゃ私がいつも使っていた『昆布しょうゆ』の成分表だよねえ!


 シーツを替えてもらい、寝転がって薄らぼんやりと醤油のことを思い出してみる。うん、食品成分表以外は、スーパーの陳列棚やテレビコマーシャルで見たような様々な商品パッケージが浮かぶだけだ。んじゃ試しに味噌は……


------------------------------

●名称:米味噌●原材料名:大豆(遺伝子組換えでない)、米、食塩、調味料(アミノ酸等)●内容量…………

------------------------------


 あー、ハイハイ、成分表だね。あれ?でも、ケチャップや中濃ソースはパッケージというか外観しか思い出せないぞ。

 とりあえず、食チートはできなさそうだな。いささかげんなりしつつ、マヨネーズを思い浮かべてみると……


 お?おおおおお?


 こ、これは、作り方の手順?え?白黒?コマ割り?あー!!コレなんかの漫画で見たことあるわ!確か主人公が甥っ子にせがまれて卵サンド作ろうとしたのにマヨネーズ切らしてて、夜中だし田舎だしでコンビニもなくて……。


 ここではたと思いつく推論。検証するには……アレか!サルサソースか!


 わかる……わかるぞ……。頭に浮かぶのは、ネットで見たレシピサイトの作り方。そして、野菜を刻んだり調味したりの実体験の記憶。

 んあー……やっぱそういうことかぁ……。




 私は料理があまり得意ではない、と思う。だって趣味でもない限り、ただの生活なんだから、粉末出汁や旨味調味料、焼き肉のたれ、最後に和えるだけの『〇〇の素』系ソースまで、普通に使っちゃうじゃんね。

 時々無性に「作る作業」をしたくなって、凝った料理を作ったりもしたが、あまりに面倒ですぐにお手軽簡単調理に戻った。

 そんな気まぐれの中のひとつが、サルサソースだった。ネットでレシピを調べて作ってはみたものの、なんとなく好きになれない味だったので一度作ったきりで封印したのだ。単純に私の好みの問題だろうな。

 ……「サルサ」って、確か「ソース」って意味なのよね。つまり「サルサソース」は「チゲ鍋」と似たような間違った呼び方で……そんなんどうでもいいわ。

 ともかく、サルサソースは「作り方を調べ」「一度だけ作ったことがある」シロモノなのだ。



 『知識』の定義ということか。



 「見た・読んだ」データと「実体験した」経験が、私にとっての『知識』というわけか。まあ、当たり前と言えば当たり前のことかもしれないが。


 検証すべく色々な記憶を掘り起こしていたら、『知識』の劣化はかなり少ないようだ。つまり、醤油・味噌は成分表をまじまじと読んだことがあって、ケチャップや中濃ソースはそうではなかった、ということ。

 料理から遡り、学生時代の教科書・読んだ本、更に幼少期に読んだであろう図鑑や絵本の類まで、興味のあったものはまあまあ正確に掘り出せる。むろん覚えていたところで『日本の妖怪図鑑』や『はたらくのりものずかん』なんぞは何の役にも立たないが。

 割と本は読んでいたほうではないかと思うが、いかんせん興味が無く斜め読みのものは覚えていない。周期表とか化学式とかさっぱりだし。その辺りが今後の生活で必要になりそうなんだけどな。

 これは知識チート……ではなさそうだな。ちょっと物覚え良いだけの普通の人だな。


 ……なぜ醤油の作り方を調べなかった、自分……




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