お引越し
◆ sideフィーリア ◆
「説明は、された。説明はされたが、やっぱりなんで一週間で新しい屋敷が建ってるのか、どうしてもわからん。」
父様の目の前には、地下一階・地上三階建ての、今までの倍以上大きなお屋敷。まあ、新たに研究室も組み込んだから、生活スペースはそんなに大きく変わらないんだけどね。
各部屋がちょっと広くなったり、執務室を増やしたり、客室が増えたり、地下の半分以上が研究室になった程度。
……結構変わってんな……。
シャハザール様を雇うと決めてから、両親を説得するのには骨が折れた。そもそも研究対象が私、って時点で、両親はシャハザール様を追い返すつもりだったらしい。
まあでも、私も負けなかった。人材不足を切々と訴え、いかに今のシャハザール様が便利…有用な存在か言葉を尽くし、ようやく了承してもらえた。
問題は、孤児院の建設だった。
工場を除くと、男爵家管理の三村の中で一番大きいのが我が家。他に空いてる大きな建物などない。土地はいっぱいあるから、新しく建ててもいいんだけど、そこでハタと思いついた。
これ、うちを新築しちゃえばいいんじゃね?
アマト研究所は特殊だから別にするとして、正直離れの研究室が手狭になってきてる。それに、代官仕事が主な父様の執務室と、製紙・筆記具などの私の起こした事業の事務仕事をする執務室は、やっぱり分けておきたいところ。
アマト研究所作るのに散々練習したから、屋敷の一つや二つ簡単に……やっぱアイナにも手伝ってもらおうかな。アイナの手助けがあれば、数日で躯体は完成しそうだな。その後の内装と設備は人を手配してもいいし。
で、うちを新築できるんなら、今の屋敷をそのまま孤児院にしちゃえばいい。設備はそのまま使えるし、部屋数もそこそこ多い。なんてったって子供が五人もいる家だからね。
孤児を集めるまでにある程度時間もかかるだろうし、それまでに新しい屋敷建てて、内装終わらせて、引っ越して、旧屋敷の修繕をして、ベッドや食堂設備や教室なんかの設備を……あれ?意外とやること多いぞ。
ん、まずはちゃっちゃと新屋敷の図面引いちゃおう。
とりあえず、新築用の土地を選定……今のとこの隣でいいか。どうせ塀建てるんだし。父様に許可貰ったら、夜中に聖獣ズの呼び出しね。
クダンには敷地予定地全体に隠蔽かけてもらう。これで昼間に中で何してても見つからない。アイナに地下と一階の基礎作ってもらったら、ワッカに井戸や厨房・風呂などの水回りをやってもらって、その間に私はトイレや排水系の整備かな。
内装で木の内壁貼ってもらえばいいから、躯体はとにかく頑丈な石造り。あ、白い壁っていいな。アイナ、どっかに石灰岩ない?確か、それを焼いて消石灰にして繊維質とノリ?海藻?なんかそんなのと混ぜると漆喰ができるんじゃなかったかな?
繊維質……あ、トレントあるじゃん。繊維質ともしかしたらノリ成分までカバーできるかな?ジョナ兄、今石鹸しかやってないんだから、緊急で開発してもらおっと。
ガバガバのスケジュールを立て、ひとまずシャハザール様は孤児集めに旅立ってもらい、屋敷の建築に取り掛かった。
精霊獣たちは、思いの外楽しんでくれたようで、最後の外壁塗りなんかは半分遊びながらもキレイに塗ってくれた。まあ、漆喰もどきを徹夜に次ぐ徹夜で開発してくれたジョナ兄は、目の周り真っ黒になってたけど。
こうして出来上がった屋敷の躯体は、地上三階地下一階の非常に立派な建物になった。白壁カッコいい。
父様を敷地の前に立たせ、隠蔽を解く。目の前に現れる大きなお屋敷。どう?父様、どうよ?
父様、微動だにせず。
「説明は、された。説明はされたが、やっぱりなんで一週間で新しい屋敷が建ってるのか、どうしてもわからん。」
ん、もう父様はそれでいいよ。説明ったって、精霊獣ズのことは話せないから、一人で全部やったことになっちゃってるしね。そーゆーコトもできるんだー、くらいに認識しててくれればそれでいいよ。
あ、内装と建具と設備の手配だけお願いしますね。
「ええと、コレはどういうことでしょう?」
半年後、孤児集めの旅から帰ってきたシャハザール様が、大きな屋敷を目の当たりにして訊ねてきた。
どうもこうも、ダーウィング家の新しいお屋敷です。で、敷地の隣にある旧ダーウィング家が、これから貴方たちが暮らす孤児院です。
「全ては精霊のお導きですわ(ニッコリ)。」
うん、段々この人の扱い方が分かってきたぞ。
シャハザール様は、十一人の孤児を連れ帰って来た。なんでだか移民の子が多い。各種整備が割とすんなり行ったため、すぐに生活できますよー。
子供たちは、当番を決めて孤児院敷地内の畑仕事や自分たちの洗濯、掃除や調理に加え、うちの敷地内にある厩で馬のお世話もしてもらう。そのお礼に、肉や小麦などの畑で取れない食料の支援と、勉強に必要な紙や鉛筆の支給をする。
街中と違って、使いっ走りやくず拾いなんかの小金稼ぎがないから、うちのお手伝いしてくれるたびに、お菓子やお小遣いなんかをちろっとあげる。時々どーんと大量のお菓子や料理も差し入れするけどね。
母様や姉様やマーサも度々様子を見に行ってるみたい。みんな真面目に仕事や勉強してるってさ。少しずつ村の人とも打ち解けてきて、お使いしたり畑仕事手伝ったりしてる。
田舎だからグレる場所が無いせいもあるけど、何よりみんな、泥水すすって生きてきたような子たちだから、今の生活を手放さないために頑張ってるんだろうな。思惑通りなんだけど、ちょっと切なくなるときも……ないことはない。
いや、キミたちのご飯のために、私も一生懸命働くよ。
こうして、なんとなく軌道に乗った感じの孤児院。シャハザール様には今後ももっと頑張ってもらわなくちゃならない。
だからというわけでもないが、孤児院のすぐ横に小さな祠を建てた。精霊獣ズの指導の下、私が作った小さな創世神像が祀られている。なんと精霊獣ズの祝福付き。何の効果があるのかは知らないけど、魔力が高いと神々しく感じるらしい。
シャハザール様は、毎朝その祠にお祈りしてる。それはいいんだけど、私が通りかかる度に、うるうるキラキラした目で見つめてくるのはやめてほしい。
いや、マジで視線がウザいわー。