闇魔法
◆ sideフィーリア ◆
『ここを秘密にするのなら、他人に見つからないように、洞窟の入り口を隠蔽しておきたいですね。』
すっかり居心地の良くなったアマト研究所。あれから数日かけて部屋?を整え、本棚や椅子や机、ソファーとテーブルまで運び込み、もちろんトイレも完備。これでベッドがあったらここで住めちゃうね。
「いんぺい……使ったことないかも。」
『隠蔽や認識阻害、隠密など、いずれも闇属性の魔法ですよ。』
「闇ぞくせい……。あれ?まえに小っちゃいゴーレム作ったことあるけど、あれは土なの?闇なの?」
『あー……フィーリアはあまり属性を意識して魔法を使わないんですね。まあ、全属性ならさもありなん、ですが。
ゴーレムは土と闇の複合ですね。土だけだと単純な動きしかできませんし、闇だけならそもそも土人形を作れません。』
へー、そうなのか。知らんかった。マジで属性とか意識したことなかったわ。
闇なあ。絶対必要な能力だよなあ。
「アイナは教えられないの?」
『さすがにそれは……土で身を隠したりする魔法は使えますが……。あ、ワッカは近い魔法が使えますよ。』
『呼んだー?ワッカちゃん登場―!あらー、ここ随分住み心地良さ気になったわねー。これなら疲れたときはここに来て、好きなだけダラダラしてられるわねー。あ、でも台所ないじゃな-い。これじゃお茶もお菓子も楽しめないじゃないの。アイナ竈作ってよ。水関係はアタシがやるからさ。あといるのはー』
「ワッカ!ワッカワッカ!」
安定のマシンガントーク。助かるときもあるけど、今じゃない。隠蔽とかの魔法の話が聞きたいんだよ。
『あ?隠蔽?使えるワケないじゃない。あれは闇だもの。認識阻害に近いモノなら、霧を纏ってそこに幻影を映し出すのとかできるけど。』
へー、それはすごいね……って、そうじゃない!今はまず出入口の隠蔽が必要なんだよ!
三人で頭を捻っていると、ふ、と空気が動いた気がした。
『幼子よ、我が必要か?』
あっ!あーーー!森で会った人面牛の妖怪だーーー!
『あれ?なんで闇ちゃんいるの?』
『お久し振りですね、闇の。今日はどうしたんです?』
は?え?闇?精霊獣なの?
『我のことはクダンと呼んでくれ。そこな幼子と契約したは良いが、一度も呼ばれず忘れ去られたかと思っていた。』
まっ待て待て待てーーーい!!!
「ちょっ、待ちなさいよっ!アナタ闇のせいれいだったの?もしかして、クダンって、あれで名付けになっちゃったの?」
『?そうだが?何か問題があったか?』
「あ~~~!もうっ!忘れるも忘れないも、そもそもアナタが闇のせいれいだっていうにんしきもなければ、けいやくしたにんしきもないんだってば!なんでなんにもせつめいしなかったのっ!そして私の名まえはフィーリアだよっ!おさなごじゃないっ!」
闇の精霊獣クダンといつの間にか(と言うか誘拐直後だが)契約してたらしい。当時のいきさつを聞いて、アイナがクダンに延々説教をしている。そりゃそうだよね。あの説明の無さはワッカより酷いわ。
「えーと、アイナ?さきにクダンに聞きたいことあるんだけど、いい?
ねえクダン、たしか前のときも「ひつようか?」って聞いてきたけど、いみがわからない。」
『闇属性の魔法を習得したいのだろう?それには我が必要かと思い、参じた。最初に会った時は、汝の心が壊れかけていた。故に我の力が必要かどうか問うたのだ。』
んんん~?あの時って…………!!!まさか!!!
「もっもしかして、せいしん耐性上げてくれたりしたっ?」
『うむ。我と契約して闇属性の力が上がれば、精神耐性や苦痛耐性等が底上げされるのだ。』
わかるかあああ!ちゃんと説明しろお!何をさも常識みたいに言ってんだよおっ!おかげでフラバも何にもなくて助かったけどもっ!でもそういうことじゃないっ!
私の剣幕に、さしもの精霊獣もたじろいでいる。
『む、すっ済まぬ。久方振りの人間との会話で、少々、その、緊張していたようだ。詫びの印に、闇魔法を一通り伝授しよう。あ、いや、足りぬなら、転移魔法も……』
「はあっ?ちょっと待って。転移って闇ぞくせいなの?」
『いや、闇ではない。が、遥か昔に契約した人間が、いくつかの属性を複合させて転移魔法を作り出したのだ。それを間近で見ていた故、基本的なところは教えら――』
「やったーーー!!!教えて教えて!いやむしろ教えろくださいだわ!!!ひゃっほー!クダン大好き!」
思わずクダンの首に抱き着く。あれー?なんかクダン照れちゃった?顔が人間だと表情わかりやすくて、いいね。でもって、アナタの主、こういう直情的な人間なのよ。慣れてね。




