恩を売ろう
◆ sideフィーリア ◆
さすがは土の精霊、肥料に関してアイナのアドバイスはドえらい有用だった。特に、土の状態が細かく聞けるのが良かったね。それに合わせて、材料の混合比率を調整することができた。
そうして、何とか使える肥料が完成。後はこれを広めるだけ……だけ、なんだけど……。
一応ね、作戦は考えたのよ。でも何て言うか、ちょっとやらしい作戦なのよねえ。いや、建前は立派なのよ。それを実行するための方法が子供らしくないだけで。
ジョナ兄に相談しようかとも思ったけど、「子供らしくないのは今更でしょ」って言われるのは目に見えてる。そりゃそうよね、中身は人生二周目ですもの。
ええい!ともかく父様に当たって砕けろだ!
ということで、私は今、父様と対面してる。いや、室内には母様とダルトンもいるけども。
「この『ひりょう』が全国にひろがれば、まわりまわってペンとかみが売れるの。それにそもそも、しょくりょうなんかの、命にちょっけつするもので、わたしはお金もうけはしたくない。」
三人とも、表情が渋い。そりゃそうだよね。筆記用品事業が順調だとは言え、まだまだうちはお金持ちには程遠い。そこに、確実に儲けられる物があるのに、それを手放そうって言うんだもの。
「フィーリア、その志は高潔だとは思うが、う~ん……」
「フィー、今まであなたの言う通りに、これまでの利益は設備投資や人件費に回してきました。でもこれは慈善事業じゃないのよ。どこかで儲けを出さなきゃならないの。」
うーん、どう言ったら理解してもらえるかなあ。
「お嬢様、広げると言っても、どのように広げるおつもりですか?まさか無料配布というわけにもいかないでしょう。」
おっ、ダルトン、いいトコ突くねえ。
「こうしゃく家、ひいては国におんを売るってどうかな。」
「こ、公爵家?国?」
「恩を売る、ってどうやって……?」
計画としては、まず、公爵家に肥料を献上し、試してもらう。その効果を実感してもらった上で、肥料のレシピを献上し、それに必要なトレントの葉を何の葉なのか秘匿したまま、定期的に買い取ってもらう契約をする。
その後は公爵家の立ち回り次第だが、おそらくは、真っ先に王家へ肥料を献上するだろう。王家がその有用性を認めた頃には、公爵家の財力で大量生産された肥料が全国各地へと売り出される算段が整ってるはずだ。
「これでわが家は、より親のこうしゃく家におんが売れるし、こうしゃく家は国のせいさんせいを上げることで国におんが売れる。国のしょくりょうじきゅうりつが上がれば国力も上がる。民がゆたかになれば、うちのしょうひんも売れる。」
「でっでも、結局公爵家で肥料を販売するのなら、それはただ儲けるための商売になるのではなくって?あなたのしたいこととは反するように思えるのだけど。」
「牛ふんもけいふんも、もとはすてるものだし、ふよう土はそこらへんにあるもの。こうしゃく家の力でたいりょうせいさんできるなら、うちでちまちま作るより、はるかにあんかにできるよ。そうすれば、ひろまるのも早いし。はくりたばい、ってやつ。レシピわたすときに、そのあたりのもくひょうをきょうゆうできると、一ばん良いけど。」
「そのうちに、各領でも同じような肥料が作られるのでは……。何しろ元は捨てる物ですし。」
「ふんとふよう土までは、そうぞうがつくかもしれないけど、こうしゃくブランドにはトレント葉がこんごうされるから、こうかは一ばん高いよ。さべつ化できると思う。」
「……そしてそのトレント葉を安定して供給できるのは、うちだけ、ということか。」
「そう。げんざいりょうをひとくしておけば、そうごう的にこうしゃく家にとってもとくになると思う。うちはせんばいにしても、トレント葉だけで売り上げはあんていするし。」
ハイ論破。とまでは行かないけど、説得力のあるプレゼンはできたと思う。この三人相手に頑張ったよ!私!
「ううむ、そう思惑通りに行けば良いが……」
「いえ、たとえ建前だとしても、最初にお嬢様が言った公益性と薄利多売を前面に押し出して、それとなく普及の方向へ誘導してしまえば……」
「そうね……それに結果的に派閥の力が強くなるのであれば、こちらの要望も聞いてもらえるのではないかしら。」
うむ、良い感じに丸め込めたようだね。実際、話が国全体に関わるものになっちゃうと、一男爵家では荷が重い。こういうのは、自分の利益だけ確保して、できる人に丸投げするのが賢いってモンだ。
そもそもトレント葉は、うちでは必ず大量に出る物だし、それを売れるってことは、すなわち坊主丸儲け。
まあそこまでぶっちゃける気はないけど。
ほほほ、後は大人三人で頭を絞っていただきましょうか。公爵の性格とか王家との関係性とか他貴族のなんちゃらとか、私にはさっぱりわかりませんもの。
数日後、みっしり肥料を積み込んだ荷馬車が、我が家から公爵家へ向けて出発した。父様たち、腹を決めたみたいだね。
まさかその数か月後に、公爵閣下へのプレゼンのために、両親とダルトン、三人ともが公爵家へ行くとは思わなかったけど。
まあ、三人寄れば何とやら。健闘を祈る!




