精霊獣とは
◆ sideフィーリア ◆
試験農場は家からそんなに離れてないので、時間ができたら散歩がてら見に行くようにしてる。
今日は他のみんなが忙しいので、一人でお散歩。まあ、村の中だけだし。てか初級の攻撃魔法しか教わってないけど、その威力がえげつないので、ある程度の単独行動は許されてるのだ。
そろそろ肥料撒いてからひと月経つし、二次発酵終わったかな?もう種蒔きしてみてもいいかな。
『なぜここだけ土が違うのですか?』
「あー、ひりょうってのをまぜて、どじょうのかいりょうをためしてるの。うまくいけば……」
んん?誰もいないんだけど。でも今誰か
『ほう、土壌の改良。そんなことができるのですか。』
いいいいいぬっ?いやおおかみっ?
気付くと目の前に、巨大で真っ白な狼?がいた。喋ったの、こいつ?なーんかこのパターン、既視感あるんだけど。
『この一帯は、大地の恵みが少なかったはずなのですが……ふむ、生ける者の恵みと森の恵み、それにトレントの葉ですか。面白い組み合わせですね。』
「え、わかるの?ちゃんとかいりょうできてる?」
『私が見る限り、土の力は周りと比べて増しているようですね。これは貴方がやったのですか?』
「うん。まだしけん中だけどね。うまくいったら、国じゅうにひろめたいの。」
『ほう、それは中々に壮大な計画ですな。』
狼が楽しそうに笑った。笑った?
「……ねえ、あなたもしかして、せいれい?」
『ええ。私は土の精霊です。何やらちょっと……この辺りで精霊たちがざわついていたので、気になって来てみました。』
「どうして、おおかみのすがたなの?」
『私の格が上がって、最初の契約者がそうイメージしたからですよ。もう昔の話ですけれど。』
あー、やっぱり。ってことは
「あなた、土のせいれいのさいじょういなの?」
『うん?なぜそう思うのですか?』
「んと、わたし、水のせいれいとけいやくしてて……」
『ちょーっとぉー!』
わ!びっくり!いきなりワッカが現れた。
『勝手にアタシのことバラさないでよぉ!』
『ん?水の?ではこの人間はお前の主なのですか?』
『あ、主っていうかあ、その、トモダチよ……』
『お前はまた……契約に於ける主従のけじめはつけろとあれほど……』
『あーもう!うるさーいっ!わかってるわよっ!』
黒猫と白狼が喧嘩しとる。というか、ワッカが怒られてんのかな?
「えーと、おふたりは、しりあい?」
なぜか顔を見合わせる二匹。
『知り合いっていうかあ。』
『まあ、顔見知りではあります。ここ数百年はこの国の精霊獣の顔触れは変わっておりませんし。』
「えっ?せいれいじゅうってなに?ふつうのせいれいとちがうの?それに、この国のって、国ごとにさいじょういのせいれいが、それぞれいるってこと?」
『水の……お前ちゃんと説明していないのですか?』
『…………』
ワッカが不貞腐れているので、白狼が色々と私の疑問に答えてくれた。
白狼が言うには、精霊たちはおおよそ国境で縄張りのようなものが分かれてて、その中で各属性の最上位の存在が、最初に人間と契約すると、その時に主人が抱いたイメージで姿が固定するのだとか。最上位ではない精霊でも、人間と契約することはできるが、姿が変わったりはしないそうだ。
で、たいていは獣風の姿になるので、人間たちから精霊獣と呼ばれるようになった、と。
「さいじょういのせいれいは、入れかわったりしないの?そうなったら、すがたはどうなるの?」
『私が知ってる限りでは、最上位の精霊が存在してる限り、それが入れ替わったことはありませんね。己の力を使い果たしたり、主の死と共に自らの意思で消え去ることはありますが。人間で言う『死』のようなものですね。そうなると、次の最上位の精霊が決まります。』
ほうほう、では縄張りというのは?
『国境と縄張りの境については、どちらが先に決まったかはわかりません。ただ何故かおおよそ一致しています。精霊獣呼びについては、これはもういつの間にか、としか言えませんね。』
『……ケモノじゃないもん……』
なるほど。ワッカは獣扱いが嫌なわけか。猫呼びも怒ってたもんね。
「ワッカはケモノじゃないよね。かわいいせいれいだもんね。」
ワッカがぴゃっと跳ねる。
『ワッカというのは……?』
『アタシの名前よ!可愛らしいでしょ!』
ワッカがふんす!と胸を張る。
『ふむ、ちょっと羨ましい気もしますね。人間よ、どうです?私とも契約してみませんか?人の手で土壌を改良しようなど、実に面白い。私の力は中々に役立つと思いますよ。』
「え、いいけど。名まえつければいいんだっけ?」
『ええ。そうですね。穏やかな響きが好みではあります。』
そんな突然。でも紳士然としてるから、穏やかな響きは合うだろうけど。えーと、土……つち……
「あっ!『アイナ』ってどう?ちょっと女っぽいかな?」
『アイナ……緩やかな響きで良いですね。我々精霊には男女の別はありませんから、私が気に入ればそれでいいんですよ。貴方を主として契約しましょう。』
「ありがとう。わたしはフィーリアだよ。よろしくね、アイナ。」
なんか、思いがけず土の精霊と契約してしまった。まあ、土壌改良はこれからも続くし、土ってことは、土木建築関係も魔法でできるようになるかもだね。練習は必要だろうけど。
っていうか、精霊獣ってこんな友達感覚で簡単に契約しちゃって良いモンなんだろうか?なんか軽くない?でもこの軽さの割に、精霊と契約した人の話を聞いたことがない。まあだから私も隠してるんだけどさ。
契約精霊百人でっきるっかな~……いいのか?




