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番外編3 未来の恵み

◆ sideシャハザール ◆




 金・かね・カネ!教会は腐りきってる!


 望んでなった神官じゃあない。移民の子で、通りすがりの教会に口減らしで捨てられたみたいなもんだ。でもそれなりに信仰心を持って、ここに来たはずだった。


 それがなんだ!


 寄付・お布施・心付け、金を払わなきゃ祈りひとつあげてやらんってのは、どういう了見だ。

 オマケに、金額が決められてるはずの魔力鑑定まで、勝手に金でランクを付けて、神官長や副神官長は大枚はたかんと顔も見せないときた。金ぴかに飾りまくった個室で、真っ昼間から高級酒を飲んだくれてやがる。

 こんな腐ったところ、辞めてやる!






 子供の頃、俺は戦場で逃げ惑っていた。敵も味方もあったもんじゃない。さっきは二軒隣の鋳物屋のオバサンが、自国の兵士に切り殺されて、懐の僅かな金を盗まれていた。

 なんだよコレ。敵国(サウデリア)兵に見つかっても自国の兵に見つかっても、どっちにしろ殺されるんじゃねえか。誰もいなくなるまで、どっかに隠れてるしか――っっ!!!


 …………痛ぇ…………


 いきなり後ろから切りつけやがった。俺みたいなガキが金持ってるわけねえだろ。殺したいだけかよ。

 ニタニタ笑いながら剣振り被ってんじゃねえよ。あー、俺ここで死ぬのかー……


 …………? あれ?死んでねえぞ?


 あ、さっきの兵士が転がってる。横に立ってるでっかい熊みたいなサウデリア兵が倒したのか?ま、どっちみちここまでか。背中切られてもう腕も上がんねえしな。


 ……なんだよ。何すんだよ。何も持ってねえぞ。なんだその綿埃みたいの。そんなの近付けるんじゃねえよ。


「背中の傷は塞いだ。戦場だから傷跡までは消してやれんが、動くのに支障はないはずだ。早く逃げなさい。」


 なんだ?なんでサウデリアが俺を助けるんだ?てか、その綿埃なんで光ってるんだ?なんでふよふよ浮いてるんだ?

 触ろうと手を伸ばしたら、ついっと避けられた。


「これは水の精霊だ。彼女が君を助けろと言った。君は精霊に好かれる体質みたいだな。」


 彼女……って女かよ。あ、聞いたことあるぞ。サウデリアにドラゴンみたいに強い精霊付きがいるって。この金色の熊みたいな奴がもしかして……


「さあ、もう行きなさい。君の未来に精霊の恵みがあらんことを。」






「やあ、あなたがシャハザール神官かな?」

「……まだ見習いですよ。」

「おや、それは失礼した。私はパーシー・モンデールという。君に娘の魔力鑑定をお願いしたくってね。」


 は?モンデール?それってここの領主の名前じゃないか。なんで伯爵様が俺に鑑定を頼んでくるんだ?


「娘が魔力暴走を起こしてね、かなり魔力が高そうなので、内密に鑑定を受けたいんだ。もう一人の神官からは既に了解を取ってある。どうかね?」

「……なぜ私に?領主様なら、神官長や副神官長にお願いするのが普通では?」

「ははは、彼らが秘密を守るはずがないじゃないか。散々(たか)った挙句に王都あたりに情報を売って終わりだろう。」

「私のような下位の神官なら、守秘契約を結ぶとでも?」

「神官様に守秘契約など求めんよ。理由は……そうだな、君が精霊に好かれているから、かな。」


 瞬間、血と砂埃のあの戦場の匂いが蘇った。


 そうだ、この人はあの精霊付きの息子じゃないか。あの人のような真っ赤な鋭い目つきではないけど、顔の造作はそっくりだ。直毛だけど金熊だし。

 でも、なんで……あの人が俺を覚えていたのか?そんな馬鹿な。俺はあのとき名乗ってすらいない。移民になってサウデリアに入国したのも、この教会に預けられたのも偶然なのに。なんで?どうして?


「それで、鑑定を引き受けてくれるかな?そうやって精霊に関わる仕事を続けて行けば、いつか金色の巻き毛の熊に会えるかもしれないよ。」

「……っ、お引き受けいたします。」


 伯爵様の娘、クレアちゃんの魔力量は五に近い四だった。そして属性は、水と土と光の三属性。神官長に知れたら大喜びで王都に情報を売るだろう。

 まったく、血は争えないものだ。この子もいつか精霊付きになるのかもな。


「礼として、君にこれを渡すように言われたよ。」


 そう言って、伯爵様は一冊の手帳を渡してきた。パラパラと捲ると、そこには精霊に纏わる覚え書きのようなものが書いてある。


「これは……」

「伝言も預かっているよ。「彼女はもういないが、君を気にかけていた。彼女との思い出を綴ってあるので、是非()()を理解してやってくれ。」とのことだ。」

「そんなっ、そんな大事な物いただけません!」

「はは、あの親父殿は一度出した物は引っ込めんよ。」

「ですがっ!」


『君の未来に精霊の恵みがあらんことを』


 伯爵様が言ったのか、精霊付きの伝言なのか、綿埃が言いたかった言葉なのか、俺にはわからなかった。でも、あの時確かに俺には聞こえたんだ。


『君の未来に精霊の恵みがあらんことを』




 相変わらず腐った教会にムカつきながらも、辞める辞めるいつか辞めてやると言いながらも


 俺の精霊の研究はそこから始まった。




次回から、毎週火・金の投稿になる予定です。

のんびりとお付き合いいただければ幸いです。

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