奇跡の出会い
◆ sideフィーリア ◆
森で単独行動を取り、トレントと遭遇したことで、夕飯の後しこたま怒られた。いやまあ、採取に夢中になってるうちにはぐれたのは悪かったけど、トレントは不可抗力でしょうが。
私が(正確にはワッカが、だけど)単独でトレントを倒したので、父様がちょっとだけ褒めてくれた。ただ、それを聞いた母様が鬼のように父様を叱りつけてたけど。父様、少しは学習してくれい……。
いささか疲れたので、早めに就寝……の振りをして、薄暗い部屋の窓際に向かう。ほんのちょっとだけ窓を開けて、外に向かって心の中で呼び掛ける。
(ワッカ!話がしたいの!ワッカ!)
『はーい!早速呼んでくれたのね。ふふ。』
え?どこどこ?キョロキョロしたら、なんと既に部屋の中にいた!
いつ現れたのか全くわからなかった。が、確かにワッカが私のベッドの真ん中に寝そべっている。いつ来た?黒いから来てるの気付かなかったのかな?
「ぅわ、びっくりした。まどからくるのかとおもってた。」
『あら、随分小声ね。ああ、人間はみんな夜に眠るんだっけ。アタシが来てるのは内緒ってことね?喋りづらかったら念話でもいいわよ。』
「ねんわ?」
『そう、契約者とは、心の中で思うだけで話が伝わる念話っていうのが使えてね……あ、考えてることがダダ漏れになるわけじゃないわよ。ちゃんと「伝えよう!」って思ったことだけが伝わるの。ちなみにアタシの声は、アンタにしか聞こえてないわ。魔力高くないと聞こえないのよねえ。ま、姿は他の人にも見えちゃうけどね。』
マシンガントークすげえな。やっぱこの子お喋り好きっぽいよね。まあ、聞きたいこと沢山あるから助かるけども。
《これで聞こえる?》
『うん、聞こえる聞こえる。アンタやっぱり勘良いのね。伊達に魔力強くないわあ。』
これは褒め……られたのか?小馬鹿にされてる気がしないでもないが。
《色々教えて欲しいことがあるの。いい?》
『アタシでわかることなら何でも答えるわよ~。ホラホラ、何から聞きたいの?』
ふふっ、ノリ良いなあ。ちょっと楽しくなってきた。
《えっと、じゃあ、精霊ってみんなワッカみたいに何かの動物とかの形をしてるの?》
『まっさかあ。たいていは目に見えない塵みたいなもんよ。時々ホワッと小さい塊になってるのもいるけど、アタシは特別。一番純度が高くて力が強くて格上なの。最上位よ、最上位。だから他の水の精霊はみーんなアタシの言うこと聞くのよ。』
《えっ?それって、精霊の王とかそういうこと?》
『ん~、一番上の存在だから、王っちゃ王かもしれないわね。そのアタシと契約したんだから、周りの水の精霊はみーんなアンタに協力するわよ。水魔法の威力が上がるってこと。』
ふぅん、そうなんだ。シャハザール様が前に言ってた、精霊の好み、ってやつなのかな?
《あ、そう言えば、ワッカと契約してから、なんか私の魔力の総量が上がったような気がするんだけど。》
『当ったり前じゃない。アタシとアンタは魔力の絆で繋がってるんだから、アタシの力の一部が流れ込んでんのよ。まあ、アタシのほうにもアンタの力の一部が入ってきちゃってるけどね。』
《ん?あれ?お互いの力が入ってるなら、総量変わるのおかしくない?》
『ただの交換じゃないのよ。契約すると、相乗効果でお互い力が上がるの。まあアタシはこれ以上力が上がったところで、どうってこともないけどね。』
《なるほど。ワッカにとっては、それが契約する利点、ってことなんだ。他に契約する上での条件とか制約ってあるの?》
生き延びるための最強を目指してるんだから、精霊との契約で力が上がるのは願ってもないことだ。だけど変な制約とかあったりしたら嫌だよなあ。
『条件?制約?変なこと聞くのね。アタシは暇だしアンタは面白そうだし、気に入ったから契約しただけよ。そうね、人間で言うところのオトモダチってやつかしら?だからたまに遊んでよね。』
《えっ?条件何にもないの?》
『そうよ。そもそもそんな条件とかあったら、気に食わない奴とも契約する羽目になるかもしれないじゃない。アンタだってオトモダチになるのに条件なんてつけないでしょ?』
《え、いや、「気が合う人」とか「趣味が同じ」とか……》
『あら、それはあるわね。』
思わず、顔を見合わせて笑ってしまった。そうか、友達か。そんな感じでいいんだ。
《ねえ、でもあんまり、他の人が精霊と契約したって話聞かないんだけど、珍しいことなの?》
『あーうん、なんて言うか、契約者との魔力の相性が良くないと難しいのよ。魔力が強いだけなら、下位の精霊とかは見えたり話したりできるけどね。』
《ん?だって私、他に精霊見えたりしたことないよ?》
『えー?そんなワケないでしょ?時々そこら辺に小っちゃいホワホワしたの見えてない?』
ホワホワ?……ホワホワ!えー!アレそうだったのか!てっきり何かの植物の綿毛だと思ってたわ!
《みっ見えてるわ!アレが精霊だったんだね。話しかけられたりとかされたことなかったから、全然気づかなかったー!》
『あー、話しかけるのはねー……。下位精霊ならアンタと相性良いのはほとんどいないと思うわよ。アンタ、魔力が強すぎるからね。それに、何と言うか、魔力の質がちょっと違う感じがするし……』
ぎくっ!質が違う、って『転生者』だからってこと?
『まあ、そもそも精霊と契約できる人間は少ないし、人間と契約できる精霊自体も少ないしね。相性の良い精霊と人間の出会いって、奇跡みたいなものなのよ。』
奇跡……そっか。うん、この出会いに感謝だな。
《ワッカ、私と契約してくれてありがとうね。》
『なっ、何言ってるのよっ!アタシの気が向いただけなんだからねっ!』
ぅわぉ、見事なツンデレ。ふふ、可愛い。
《ねえワッカ、ひとつお願いがあるんだけど。》
『ん?なあに?アタシにできることならいいわよ。』
《その……なでなでもふもふしたい……》
『!!!』
あ、ぴゃって飛び上がっちゃった。
『しっ、仕方……ないわねっ。ちょっとだけよ!』
……ああ、もふもふ癒される……。
ワッカ大先生、喉ゴロゴロ言ってますがな。次来る時までに、ブラシ用意しておくね。




