賢者爆誕?
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トビアスは、恐る恐る水晶玉に触れた。魔法が苦手で、魔力操作も下手くそなトビアスだが、なんとか水晶玉に魔力を流す。すると、水晶玉が淡く光った。
「はーい、いいよ。属性の適性は土、魔力量は二かな。魔力量は一から五まであってね、三が平均。二は、やや少なめ、って感じだよ。」
「元々トビアスは体を動かすほうが得意だものね。父様も魔力量は二なのよ。」
クレアが、「少なめ」と言われて少々落ち込むトビアスを慰めるように声をかけた。父と同じ、と聞いて、顔を上げてイヴァンを見るトビアス。イヴァンは「お揃いだな」と言って歯を見せてニッと笑う。トビアスも笑顔になった。
「じゃ次は、何くん?ジョナスくん?同じようにやってみて。」
ジョナスが水晶玉に触れ、魔力を流す。トビアスのときよりも、少しだけ光が強い。
「はい、いいよ。君は、適性は水、魔力量は三だね。」
「僕は水魔法以外は使えないんですか?」
「んー、そんなことはないけど、生活魔法レベルかな?
適性の判断は、精霊の好みで決まると言われてるんだ。他の属性を練習しても、好みじゃないから精霊の力が借りられず、あまり上達しない、という話だ。まあ、教会で言われてるだけだから、誰も確認はできてないけどね。」
シャハザールは、ジョナスの頭をぽんぽんと叩くように撫でると、そのままクレアのほうへ押しやった。ジョナスは釈然としない顔をしている。
「さーて……いよいよお嬢ちゃんの番だ。お名前は?」
「……フィーリア……」
「じゃあフィーリアちゃん、お兄ちゃんと同じようにこの玉に手を乗せて、ほんのすこーしだけ魔力を流して。出来るかな?」
フィーリアは、言われた通りに左手を乗せ、少しだけ魔力を流した。その瞬間
部屋の中に充満する強烈な光。
やがて パァン と乾いた音が響き、光が収まっていく。
「え……えええええええええ!!!」
唖然として教卓の上を見つめるシャハザール。水晶玉があったはずのそこには、何もなかった。いや正しくは、元は水晶玉であっただろう細かく砕けた破片が散っていた。
「え、いや、なんなのコレ。水晶割れちゃったんだけど。なんでこんなああいやそうじゃない、フィーリアちゃん、怪我はない?」
慌てたシャハザールが、フィーリアの手を調べる。掌は傷ひとつなく、奇麗なままだ。
シャハザールは天を仰ぎ、ふ~~~~っと大きく息をつくと、まだ呆然とする全員へ向き直った。
「とりあえず、落ち着いて話そうか。」
砕けた水晶は、ざっとひとところへ寄せておく。二つのソファーは、それぞれモンデール夫妻と子供三人でいっぱいなので、足りないぶんは部屋の隅にあった木のスツールを引っ張り出してきた。
全員が腰を落ち着けたところで、シャハザールが話し始める。
「ええと、まずフィーリアちゃんの魔力量だけど、正直、前例がないのでわからない。ただ、伝承として、大昔に時の大賢者様が水晶を真っ二つに割った話は残ってる。そこから考えると、計測不能なほどのクッソ高い魔力量じゃないか、と思う。
で、適性なんだけど……こっちもハッキリとしたことはわからない。光り始めの一瞬だけ見えた気がするけど、すぐに目を瞑っちゃったからね。ちゃんと確認できてない。」
誰ともなく、全員が顔を見合わせる。何を言うべきか、聞くべきか、混乱する中で、フィーリアが口を開いた。
「ぞくせいは、すいしょうだまのいろではんだんするの?」
「え?あ?うん。一応、属性の判べ…決まりとする色があって、属性が同時に三種…三つ現れる場合まで、色の確認はできているんだ。」
「三しゅるいって、はんするぞくせいはどうじにつかえない、っていうほうそくから?かくぞくせいの、こんしょくででるの?それともたんしょくが三つでるの?」
(え?この子、意味わかって言ってるのか?)
「あ、ああ、そうだね、その…………」
シャハザールが言葉に詰まる。クレアが諦めたようにため息をついた。
「シャハザール様、この子には普通に話してもらって大丈夫ですよ。私たちの言ってることは、だいたい理解していますわ。」
シャハザールだけではなく、モンデール夫妻も驚いたようにぽっかりと口を開いた。
「……っっ、えと、それじゃ説明するね。
水晶に現れる色は、適性が一種類のときは単色、二種類以上の適性が現れる時は混色だ。単色六種類、混色三十五種類の色見本があって、それで判断をするんだ。」
「わたしは、なにいろだったの?」
「……一瞬だったし、見間違いかもしれない。そもそもそんな色は確認されてないし……」
「なにいろ?」
「…………無色透明に見えた。色見本には無い…………」
フィーリアはちょっと考え、以前両親とダルトンの前でやって見せたように、全属性の玉を同時に出した。風だけは目に見えないので、自分の前髪を巻き上げることにしたが。
シャハザールが目を剥いて立ち上がる。
「あの二十年前の仮説は合ってたんだ!もし全属性持ちが存在したら、混色ではなく限りなく透明になるはずだと!」




