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相談は大事

◆ sideフィーリア ◆




 誘拐事件から一年が経った。


 あれから毎日欠かさず、魔法の練習と狩りの訓練を続けている。

 夜中にこっそりやっていた魔法の練習を昼間できるようになったので、夜はお勉強ですな。世界の地理・歴史、我がサウデリア王国の文化や法律、あとは各地の特産とかかな。

 覚えることがいっぱいだけど、図書室解放されたから問題なし。まだまだ赤子脳チート、大活躍なのだ。

 紙とインクが勿体ないから、平たいお盆に細かい砂を敷いて、そこに木の枝で文字を書く練習をする。はあ……紙とペン……。思いついたこと、メモを取ったりしたいけど、それすらできないっちゅーのは何気(なにげ)に不便だわー。


 最近は、家族との付き合いがジャンル毎……と言うか、みんなに先生役になってもらって、それぞれ得意なことを教えてもらってる。


 魔法は母様と家令のダルトンが先生役。でもなぜか最近二人とも微妙な表情をすることが多い。なんでかな?ちゃんと言われた通り真面目にやってるのにな?

 狩りの訓練はトビー兄と一緒のことが多い。トビー兄は体動かせてりゃそれでいいみたいだしね。

 アリシア姉様が教えてくれるのは主に裁縫や刺繍(苦手)とかかな。「淑女の嗜み」て言われるけど、ゴメン、そこ目指してないんだわ。

 アンディ兄様は、相変わらずお膝抱っこ読書。だけど、家庭教師が付いて自分の勉強があるぶん、一緒にいられる時間が少なくなってしまった。でもたぶん私の機嫌を取りたいんだろうな。カテキョの先生から色んな図鑑を借りてきてくれる。ふふ、相変わらずチョロいわあ。


 一番一緒にいるのは、間違いなくジョナ兄。いやあ、色々本性バレてるから、一緒にいて楽だわ。


「やりたいことや、やろうとしてること、できれば先に全部教えておいてくれるかな?ちゃんと協力するから。前みたいにいきなり巻き込まれるの、ちょっとシンドいよ。」


 は、仰せの通りで。と、いうことで、ひとまず紙とペンについての研究予定を話しておいた。そしたらなんか、予想以上に食い付いちゃってびっくり。あー、そうだよね、ジョナ兄だって勉強いっぱいしたいよねえ。紙とペン、欲しいよねえ。




「フィーリア、君さ、いつまで猫被ってるつもりなの?」


 ん?何がっすか?ジョナ兄。ってか、こっちの世界でも被るのは「猫」なんだね。


「母様とダルトンが……何て言うか、()()()()()よ。どう考えても魔力が僕よりも高いはずなのに、敢えて小さく発動してるでしょ?魔力制御の腕輪も外す許可が出てるのに、まだ着けてるし。」


 んん?あの微妙な表情はそれかあ!


「たぶんもうすぐ魔力鑑定の話が出るよ。その前に、相談して味方を増やしておいたほうが良いんじゃないの?」

「……はなしておいたほうが、いいかなあ。」

「そう思うよ。僕は、勉強関連だけだけど、家庭教師に守秘契約してもらうようお願いするつもりだしね。父様も母様も、自衛できないうちはちゃんと守ってくれると思うよ。」


 マジか……。お貴族様の囲い込みって、そんな怖いのか。


「……うん。とうさまとかあさまとダルトンに、はなしてみる。ジョナにい、いっしょにいてくれる?」

「もちろん。妹を守るのが兄の役目だからね。」


 う!ジョナ兄!その笑顔眩しいっす!






◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇




 イヴァンの執務室には、夫人のクレア、家令のダルトン、そしてソファーにちんまりとフィーリアとジョナスが座っている。


「それで?話と言うのは何だ?」


 圧をかけているつもりはないのだろうが、フィーリアが、口を開きかけ、ジョナスを見、俯き、もじもじしている。ジョナスに肘で突かれ、やっと話し始めた。


「まほう、の、ことで。」

「魔法?魔法がどうした?」


 クレアとダルトンの眉が僅かにピクリと動く。それに気付いたジョナスは、ちょっと冷や汗が出た。


「かあさまとダルトンに、かくしてたことがあって……。えと、やったほうがはやいから……」


 フィーリアが、魔力制御の腕輪を外した。そのまま掌を上に向け、小さな光の玉を浮かべる。


「いつもれんしゅうのときは、一ぞくせいしかださないんだけど……」


 そのまま、光の玉の横に風の渦を出す。土の玉、火の玉、水の玉と次々に横並びに出し、最後に真っ黒な闇の玉を出した。


「「「……っっ!!!」」」


 大人三人が息を飲む。それはそうだ。長らく魔法は、火と水などの性質が反する属性を同時に扱うことは不可能、と言われてきたからだ。


「森で、光と風を同時に使ったようだから、特別な才能があると思ってはいたが……これは……」

「全属性を同時に扱うなど……王宮魔法師でも聞いたことがございません……」


 イヴァンとダルトンはただただ驚愕してるようだったが、クレアだけはちょっと眉根を寄せつつフィーリアに


「ねえ、フィー、それをそのまま大きさを変えたり、自由に動かしたりはできるのかしら?」


と聞いてきた。


「それぞれ十こくらいまでならできるよ。一ぞくせいだけなら、百こくらいはできるかなあ。」


 フィーリアはそう答えて、それぞれの玉を三つずつに増やし、大中小にしてふよふよと動かし始めた。


「かぜってみえないから、つまんないよね。」

「っちょ!フィーリア!やめてってば!」


 隣に座るジョナスの髪が、風の渦によって三束に分かれて巻き上がる。やめてと言いながらも、可愛い妹にちょっかいをかけられて、ちょっと嬉しそうだ。

 ひとしきり魔法を披露したフィーリアは、全てを消すと、俯いた。


「まりょくも、たぶんたくさんあるの。このまま『まりょくかんてい』うけたら、どこかにつれてかれちゃうんでしょ……?」


 執務室が静まり返った。大人たちが一番恐れている事態を、フィーリアは理解していたのだ。


「父様、フィーリアに『高位貴族の囲い込み』のことを話したのは、僕です。それでフィーリアは今まで、母様やダルトンにも隠していたんでしょう。でも、いつまでも隠してはいられない。だから、父様たちに相談するように勧めたんです。

 フィーリアの魔法に関してもだけど、僕も家庭教師が付くことになったら、守秘契約をお願いしたいんです。」


 ジョナスは、イヴァンの顔を真っ直ぐに見つめて続けた。


「フィーリアも僕も、人とは()()()()()()ことは理解しています。でも、自分たちではどうにもできないんです。もう少し、大人になるまで、僕たちを守ってください。お願いします。」

「おねがいします。」


 ジョナスとフィーリアは頭を深く下げた。


 大人三人は、大きく頷いた。

 イヴァンとクレアが二人の子供をそっと抱きしめる。それを見つめるダルトンは、少し涙ぐんでいた。クレアは優しく微笑み、そしてもちろん、イヴァンは滝のように涙を流していた。




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