覚醒
◆ sideフィーリア ◆
……ああ……頭が痛い……
まるでトランクに荷物をぎゅうぎゅう押し込んでいるような、いや私がトランクか?押し込まれている?何だかそんなイメージで、頭が内側から弾けそうに痛い。
周りが何やら騒がしいのも頭痛の一因かもしれない。静かにしてよ……
「あっ!目を開けた!」
ぼんやりと私を囲む人たちの姿が見えてくる。みんな心配そうなを表情を浮かべている。両親も姉も兄たちも、そんなに泣きそうな顔しないでよ……ん?両親?姉?兄?たち?
「良かった!やっと目を覚ましてくれた!」
兄の一人?が私を力任せに抱きしめる。ぐえええ!ぐるぢい!トビー!てめえ私を圧死させる気か!そもそもてめえが私を落っことしたんだろうが!離せ!
「ちょっと!トビー!あんたまたそんな乱暴なことを……ああほら、フィーちゃんがぐったりしてるじゃないの!」
「トビアス、フィーリアを離しなさい。まずは医者に確認してもらわねばならん。頭から落ちたからな。」
うん、そう、なんとなく覚えてる。一歳の誕生日プレゼントに父様が庭にブランコを作ってくれたんだ。まだうまく一人で歩けない私を、トビー兄が抱えて乗って、思いっきり漕いで……。
あの状態で手を離すとは、お前頭沸いてんのか?かわいい妹放り投げるとか兄の風上にも置けんわ!
「あら、また寝ちゃいそうね。」
「とりあえず意識は戻ったんだ。外傷は大した事ないと聞いてるし、医者は次に目を覚ましたときでもいいだろう。」
「まあっ!あなたったら大した事ないなんて。頭の傷は消えないと言われたじゃないですか。女の子なのにハゲがあるなんて……。」
「だっ大丈夫よ母様!髪を伸ばせば隠れるわ!それに上手に結えば風が吹いても見えないようにできるもの。私、髪を結う練習をするわ。だから泣かないで。」
「なんにせよ、トビー、君はしばらくはフィーに近づいちゃ駄目だよ。怯えたら可哀想だ。」
「だからいっつも力加減考えろって言ってるのに……」
「…………」
眠い。うつらうつらしながら、周りの会話をぼんやり聞いている。
ハゲ?私ハゲできたの?みんなもっとトビー兄を叱ってやって。こいついっつも乱暴に振り回したり放り上げたり乱暴に……いや……楽しかったり……する…… け ど
暗い。真っ暗だ。せっかく目を覚ましたのに、今は夜中みたいだな。
近くに人の気配を感じたので見回してみると、ベッドの横に誰かいてうたた寝してるようだ。このちょっと甘い匂いは……ああ、母様かな?ごめんね心配かけて。
……てか腹減ったな……
あのカボチャちょっと潰したやつ食べたい。リンゴの匂いがちょっとだけするお水も飲みたい。
◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇
「ぁんまうぃぁあ、ぁんてゃぉおみうぅ。」
「あら、フィー、目が覚めたの?体の調子はどうかしらね。」
クレアはほっと息をついてフィーリアを抱き上げる。が、むずかるように体を海老反りにするフィーリア。どこかに何かの異常があったりしないかと、探るようにじっくり観察する。
「よしよし、どうしたの?もう怖いのも痛いのもないわよ。」
フィーリアが、火が付いたように泣き出した。
「むぅぇええん!!まぅまああぁぁ!!」
まんま!
クレアは慌ててフィーリアを抱いたまま、厨房へと足早に向かった。カボチャと人参を柔らかく煮た物と、薄めのリンゴ水を用意してあったはずだ。
今食べなきゃ死んでしまう!とでも言わんばかりの勢いで泣き続ける腕の中のフィーリアを見ながら、クレアは大事な宝物を見るように柔らかく微笑んだ。
「ふふっ、食欲もあるみたいで良かったわ。熱・吐き気・湿疹なんかの異常もなし。泣き声もいつも通り元気だし、もう心配なさそうね。よしよし、すぐにまんまにしますからね~。」
クレアは、正しく母である。




