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番外編2 長男として

◆ sideアンディ ◆




 僕はとうとう十歳になってしまった。これからは家庭教師が付いて、『学問基礎宝典』を学ばなければならない。『宝典』を終えたらその後は領地経営の勉強だ。

 剣の修行や領地の勉強、魔物についての勉強などは、これまでに少しづつ始めてはいたが、まだまだ足りない。なにせ、父の後を継いでこの土地を治めて行かなければならないのだ。


 代官の仕事は多岐に渡る。一番重要なのが領地経営。

 三つの村の農地の割り当てをし、何をどれだけ植えるか決める。小作だけではなく自作の農地もあるので、バランスを取らなければならない。

 農民の他にも職人や狩人の税率を決めたり、それを徴収して領主である公爵家に納める。もちろん、それに必要な書類も作る。

 領民同士でトラブルが起きれば、仲裁あるいは断罪をしなければならないし、犯罪行為を取り締まるのも代官の仕事だ。領主であれば騎士団も持てるが、代官の権限では自警団までしか作れない。


 そして、魔物の森と隣接しているからこその仕事が、狩人の統括と魔物の討伐及び買い取り。

 父は強いから自分でも魔物を狩るが、僕は多分無理だろう。それなりに剣は習ってるので弱くはないが、そこまで強くもない。というか、強くもなれない。魔力も平均値の三しかないし、魔法はさほど得意でもない。

 そこら辺は、上手く狩人たちと連携を取って割り振るしかないと思っているが、ダルトンに言わせると、それこそが代官の仕事らしい。父や祖父のように、代官自らひょいひょい討伐に出られると、留守を預かるほうはたまったもんじゃない、とブチブチ言っていた。


 僕はそんな、文官に近い代官を目指していたんだ。




「ねえ、ダルトン。僕、もう少し剣と魔法の稽古を増やしたいと思っているんだけど。もちろん、勉強の時間を減らしたりはしないよ。」

「おや?どうなさったのですか?勉強以外の時間をそちらの修行に充てると、フィーリアお嬢様とのいちゃ…触れ合いの時間が減ってしまいますが。」

「フィーとの時間は……フィーも色々と頑張ってるみたいだし、多少減っても我慢するよ。それよりも、僕はもっと強くなりたいんだ。フィーやみんなを守れるくらいに。」

「アンディ坊ちゃま……」


 フィーは、僕の大事なフィーリアは、つい先日誘拐事件にあってしまった。フィーが魔力暴走を起こしたおかげで、結果として無傷で帰って来れたけど、それがなければどうなっていたかわからない。

 そして、フィーの起こした魔力暴走の現場を目の当たりにした僕は…………


 正直、足が竦んだ。ズタズタの死体と散らばった手足。フィーのすぐ前には首も落ちていた。辺りに立ち込めた血の匂いを思い出すと、今でも胃液が込み上げる。

 何度も魔物退治には出ているし、血生臭いのには慣れたと思っていたけど、人間の()()()()()はまた別物だった。


 でも、フィーは、たぶん極限状態だっただろうに、一緒に拐われていた他の子供たちを守り、犯人たちの情報を伝えてくれた。あんなに小さなフィーが。


「フィーが、父様に「狩りを教えて」って言ったんだって。怖くて引き籠ったっておかしくないのに、自分で戦うことを選んだんだ。凄いよね。」

「坊ちゃま、フィーリアお嬢様は自衛のために……」

「うん、わかってるよ。でもね、僕はフィーリアに負けたくないんだ。あ、強さでって意味じゃないよ。なんて言うんだろう、努力する姿勢と言うか……自分の力を諦めたくないんだ。フィーはいつだって前を、先を見てるような気がする。なら僕だって負けずに頑張らなくちゃ。」


 そう、フィーはあんな目にあったばかりなのに、魔法の本を読み漁って、ランニングや素振りもしてる。図鑑を見せてあげる時と同じ、キラッキラの目をしながら。

 それでいて、僕が休憩してるのを見つけると、ぽてぽてとやって来て、膝にぴょんと飛び乗るんだ。

 僕を見て、にぱっと笑う妹が、愛おしくてしょうがない。


「そういうことならば、時間の調整をいたします。フィーリアお嬢様に負けないくらいとなれば、かなりの努力が必要となりますよ。なにせお嬢様は、勉強も魔法も体力作りも、楽しくて仕方ないようですから。」


 ダルトンがニヤリと笑う。


「望むところだよ。だって僕はお兄ちゃんだからね。」


 僕もニヤリと笑う。


 フィー、僕はいつだって、君の自慢のお兄ちゃんでいられるように頑張るよ。応援してね。




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