魔法と物理
◆ sideフィーリア ◆
事件から丸一か月、私は外に出してもらえなかった。まあ、事件のインパクト強かったからね。私自身よりも周囲のほうが疲弊した感じだったけど。なんたって、私の復活と同時にアリシア姉様が心労で一週間寝込んじゃったんだもの。これは本当に申し訳ない。
で、意外なことに、私(とジョナ兄)はあの告白の後、あまり叱られなかった。ただ、お約束、特に魔法関連のお約束が、これでもかと増えたくらいだ。
たぶん、ジョナ兄という前例がいたからだろうね。
ジョナ兄は、早熟タイプの天才とでも言えばいいのか、とにかく賢い。それ故に周りに理解され難いことも多くて、家族でも大分扱いに困ったそうだ。双子のトビー兄が対照的に体力全振りなのも、また目立つ要因だ。
私は、ジョナ兄と同じ早熟型で、それがジョナ兄に引っ張られて更に早熟になっているのでは、と思われているようだ。うん、有難い誤解だね。それでヨシ。
魔法の練習は、魔力鑑定を受けるまでは、基礎的な魔力操作と生活魔法だけと決められた。魔力制御の腕輪は、当分着けっ放し。母様とダルトンが練習を見てくれるそうだ。
初めて知ったが、母様って魔力が相当高いらしい。母様も小さい頃に、小規模だが魔力暴走起こしてるんだってさ。それで魔力制御の腕輪、うちに用意してあったんだ。
魔力鑑定を受けるには、領都の教会まで行かなければならないそうで、来年、双子が八歳、私が三歳で同時に受けることになった。本来なら七~十歳じゃないと受けられないのだが、そこは一度魔力暴走を起こしてるから、ということで、特別に受けられるらしい。
あ、もちろん森で起きたことは極秘なので、普通に家で癇癪起こしたときに暴走したことにするんだと。
まあ、魔法に関してはこれでいいかな。
「とうさま!かりを!おしえて!」
執務室に突撃して、全力でおねだり、というか宣言。父様、お口が開きっ放しですわよ。
「なっなんっ、狩りってお前、あの狩りか?」
いやだわ父様、狩りに「あの」も「この」もなくってよ。ダーウィング家に生まれた以上、狩りも淑女の嗜みでしてよ。いや絶対違うけど。
まあ、狩りっていうか、戦い方を学びたいんだけどね。非力なら非力なりの戦い方があると思うし。
ホントはもう少し体が大きくなってから習おうと思ってたんだけど、まさかこんなことがあると思ってなかったから、すっかり油断してた。こうなったら、なるべく早いうちに訓練を始めたい。魔法の補助もできるから、何とかなりそうだし。
そんな動機に後押しされて、ここはジョナ兄の力は借りずに自力で父様にプレゼンだ。
・また誘拐されたら怖い。せめて逃げ出せる体力を。
・森と隣接してるから、対魔物の最低限の自衛は必要。
・魔法が制限されてる以上、体を動かして発散したい。
あくまで自衛であることを前面に押し出せば、理解を得やすいんではなかろうか、と、この三点を強調して父様を説得する。まさか「魔法と物理で無双したい」なんて正直に言うわけにもいかんし。
全部聞き終わった父様、しばらく腕を組んで考え込むと、条件付きで訓練を許可してくれた。
「まず、戦うより何より、逃げることを最優先にすること。」
「そして、誰かを助けようとするよりも、自分の安全を第一に考えること。」
……あーコレ逆らったらアカンやつだ。そうだよね。父様がどれだけ家族を想ってるか、ちゃんとわかってる。心配かけてごめんね。大好きよ。
それで、プレゼン内容に関しては、なんと三つ目の発散が刺さったらしい。
あー、父様よくこっそり狩りに出掛けて、怒れるダルトンに捕まっては執務室に軟禁されて、溜まった書類仕事やらされてゲッソリしてるもんね。まさかソコに共感されるとは、なんとも父様らしい。
とは言え、さすがにすぐに戦いの修行を……というわけにもいかないので、双子と一緒にまずは体力作りから。一緒にできることが増えるからか、トビー兄がやけに嬉しそう。
短い手足でストレッチ、ぽてぽてとランニング、かーらーのー!木剣持って素振り!は、アリシア姉様に泣いて止められたので、そこらの手頃な木の枝を削ってもらって振っている。まあ、そもそも木剣重くて持ち上がらなかったしね。
でもそのうち剣もしっかり習いたいな。魔法剣士とかカッコいいじゃん!
ムキムキマッチョにはなりたくないけど、真面目な話、瞬発力とか持久力とかって、魔法を使うにも必要だと思うのね。結界でガードできなきゃ回避するしかないんだし、躱してカウンターで魔法叩きこむとかさ。体鍛えなくて良いってことにはならんでしょ。
てか私、基本的に練習とか修行とか好きなんだなあ。だって普通に楽しいもん。良き良き。
よしよし、着々と野望(生き残ること)に近付いていってるね、うん。
金に関しては後回しだ。
アイデアはあっても、喋りが拙いから伝えるのが大変なのよ。手先の器用さなんかもまだまだだし、研究や実験しようにも、魔法含め制限が多すぎる!
来年、うん、来年魔力鑑定受けてからがいいね。その頃にはもう少し体もできてきてるだろうし、喋りも上手くなってるだろう。
それまでに、ちょっとずつでも研究できる環境整えよーっと。ジョナ兄!手伝ってもらうからね!




