母は強い
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「おそらくは、恐怖から魔力暴走を起こしたんだと思う。」
ダーウィング家の居間には、フィーリアとアリシア以外の家族と、ダルトンやマーサも集められていた。アリシアには陰惨な部分を伝えないようにするため、今は寝込んでいるフィーリアに付いていてもらっている。
「光の柱は、魔力暴走の前兆だ。だが、その後起こるはずの魔力爆発はなかった。フィーリアが無意識のうちに制御したとしか思えん。」
イヴァンの言葉に、他の面々は顔を見合わせる。
「だ……旦那様、あんな小さな子が魔力暴走を自力で抑え込むなど、聞いたことがありませんが……」
ダルトンがおずおずと口を挟む。
「ああ。だが、現場の状況を見る限り、そうとしか考えられんのだ。咄嗟の判断もだが、何よりあの前兆の規模でそれを抑え込める能力となると……。早めに魔力鑑定を受けたほうがいいのかもしれんな。
しかし結果は公表する気はない。魔法の才があったり高い魔力持ちは、高位貴族や教会、果ては王族に取り込まれることも少なくないが、フィーリアはうちの子だ。誰にも渡さん。」
「それは賛成ですが、まずはフィーの回復が先です。」
我が子可愛さに先走るイヴァンを、クレアがぴしゃりと黙らせた。放っておくと、フィーリアへの愛を一晩中語り続けかねない。
「あんな小さな子が、あんな恐ろしい目にあったのです。しかも、死体や、な、ま……くび……まで目の当たりにして。今は制御用の腕輪を着けていますが、思い出すたび暴走してもおかしくないのですよ。」
さすがにクレアでも、一部言い淀んだ。
「ともかく、今はフィーの回復を待つのが最優先です。魔力云々の話はそのあとでもいいでしょう。
あ、公爵様への報告は、魔力暴走の話は抜きでお願いしますね。犯人確保と被害者保護だけで充分でしょう。あと、狩人たちへの口止めもよろしくね。」
いっそ清々しいほどの我が子ファースト。
だが、ダーウィング家の方針は満場一致で確定した。
◆ sideフィーリア ◆
「とうさまと、おはなし、したい。」
寝込んで二日、目覚めてから丸二日、休養も栄養も充分取れた私は、母様にそうお願いをした。
「……フィー、もう少しお休みしましょう。そうだ、アンディにご本を読んでもらいましょうか。それともアリシアがいい?」
むむ……やっぱり母様は手強い。まあ普通に考えて、幼い娘が犯罪に巻き込まれて怖い思いしたんだもんな。その話題から遠ざけたいってのは仕方のないことだけど。
でもここで引くわけにはイカンのですよ。どう考えてもあの誘拐団の規模は大きそうだし、最後の言葉がちゃんと父様に伝わって、被害者を助けられたのかどうかも知りたい。
「はんにんの、あじと、ほかにも、ひと、いりゅの。どうなったか、しりたい。」
あ、母様の顔が渋い。そうだよね、ただでさえこの一件は忘れてほしいのに、結果まで教えろってんだもんね。話させたくないんだろうなあ。
「なら、とうさまより、さきに、ジョナにいと、おはなし、すりゅ。」
父様と話すにしても、ジョナ兄は必須アイテム、と今気が付いた。できれば先に打ち合わせしておきたいところ。通訳及び話の補完をお願いしたいのだ。なにせまだ舌が上手く回らなくて、一語一語区切って頑張って喋らないと、全然通じないからね。
まあ頑張っても噛むは噛むんだけどさ。「る」と「つ」憎し。あと時々「さ行」な。
「……父様に聞いてみるわね……」
こちらの真剣さが伝わったかどうかは定かではないが、とりあえず第一関門突破……かな?
あとはジョナ兄に上手くフォローをお願いして、父様と話すときに同席してもらえれば……。
「フィーリア、具合はどうだ?」
っなあーんで!いきなりジョナ兄と父様が一緒に来るかなあっ!先にジョナ兄って言ったじゃん!これじゃジョナ兄と事前打ち合わせも何もできないじゃん!
しかも母様まで同席してるし……って、母様やけに目つきが鋭いんじゃね?え?なんで?すんごい父様のこと睨んでるし。父様なんかしでかし……あ、あらら?
コレもしかして、父様のあのときの「良くやった」発言がバレちゃったりしてんのかしら。確かに、アレはないもんなあ。初めて人を殺めてしまった幼女に「良くやった」って、人としてどうなのよ。
薄っすら微笑みを浮かべた母様がちょっと怖い。
ジョナ兄はなんだかオドオドしてる。そうだよね。何の打ち合わせもなく、いきなりこんな場に同席させられてるんだもんね。ゴメン、巻き込まれてくれぃ。




