何が、何かが
◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇
ドぉぉーーーーーーーーーーン
遠く響く轟音とともに、森の中に、大きな光の柱が立った。
「なんだっ?」
「森だ!あの光に向かえ!」
(フィーリアっ!頼む!生きていてくれ!)
イヴァンは、アンディや他の狩人を連れ、たった今見た光の柱の根元に向かって駆け出した。
◆ sideフィーリア ◆
ぼんやりと視界が戻ってくる。いったい何があったのか、座り込んだまま考える。だんだんと、目の焦点が合ってきた。
っひ!!!首!!!
目の前に生首がある!よく見ると、さっき私の髪を掴んだ誘拐犯だ。鉄臭い血の臭いが漂っている。
周りを見ると、千切れた腕や足も散らばってる。小さな呻き声も聞こえるから、まだ生きているのもいるのか。
子供たちは……無事だ。少なくともぱっと見は傷や欠損はなさそうだ。気を失ってるのかぐったりして動かない。が、胸は小さく上下に動いている。良かった……。
生首を見る。そうか。私が殺したのか。
そう認識した瞬間、人間を殺した後悔や忌避感や罪悪感や嫌悪感が一気に襲い掛かってきた。たまらず、吐く。
吐いて吐いて泣きながら吐いて吐きまくった。もう吐けるものなどないのに、涙と吐き気が止まらない。人を殺してしまった私が殺した人を殺したひとごろしひとごろしひとごろし
『幼子よ、我が必要か?』
声がした。見ると、なにか不思議な生き物がいる。
真っ黒な、牛のような……でも首の上には人間のような頭が付いている。魔物?でも、魔物図鑑では見たことがない。……いや!別の図鑑に載っていた!『日本の妖怪図鑑』だ!確かアレは……
「えと、あなた……くだん?なの?いってゆ、いみが、わかんない。ひちゅようって?」
『ふむ……クダン……良いだろう、幼子よ。』
消えた。え?消えた。何だったの?あれ。確か『件』とかいう妖怪よね?え?なに?どういうこと?
吐き気はいつの間にか治まっていた。
◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇
「フィーリアっ!フィーリアーっ!どこだあっ!」
「イヴァン様っ!あそこ!」
一人の狩人が指さした先に、女の子が呆然と座り込んでいた。
イヴァンは一直線に走り寄り、それが自分の娘と確認できた瞬間、力いっぱい抱きしめた。
「フィーリアぁっ!良かった!お前が倒したんだな!良くやった!良くやったぞおっ!」
人目も憚らずオイオイと泣くイヴァン。
アンディも父の後を付いて駆け寄……ろうとしたが、辺りの惨状が目に入った。
そこら中に散らばる、腕や足や指。全身を無数に切り刻まれた死体。そしてフィーリアのそばには生首がひとつ転がっていた。いったい何が……?
イヴァンに抱きすくめられたフィーリアがもぞもぞと動く。
「とっ父様!フィーが何か言っています!」
ようやくイヴァンは、愛しい我が子を抱く腕を緩めた。
「……あじと……あゆ……ほかにも……さらわえた……いゆ……たすけて……とう……さま……」
フィーリアはそのまま気を失った。




