ゆーかい!
◆ Sideフィーリア ◆
いつもと同じように、庭の隅の植え込みのそばにしゃがみ込み、こっそり魔法の練習をする。手元で砂粒の混じった小さなつむじ風を起してみる。ん~、やっぱ真空状態作ってバツッとかまいたちなイメージのほうが「っぽい」しカッコいいよねえ。それなら草刈りとかにも使えちゃうし。ふふ。
手元に影が差す。あれ?と顔を上げると……誰?
植え込み越しに手が伸び口を布のような物で塞がれ、抱え上げられて
……変な匂い……ドラマでよく見たクロロホルム……あれって実は気持ち悪くなって……吐くだけって……
……揺れ……てる……気持ち悪い……体が動かない……暗い……なんで……!!!
変な男に変な薬嗅がされて、それから……何これ?袋?運ばれてる?やだ怖い助けて母様母様いや待て落ち着け自分。
心臓がバクバク言って全身から嫌な汗が噴き出ている。
落ち着け落ち着け。肉体年齢に引っ張られるな。ここでパニックになって良いことはない。冷静になれ。
状況から考えると、これは多分……誘拐……だ。恨みか身代金目的か人身売買かはわからないが。袋のような物に入れられてて、ちょっとだけ自分のじゃない体温を感じる。てことは担がれて運ばれてるのか?
「コイツら運んで合流したら、すぐ出発するのか?」
「んー、ひと眠りしたいとこだが、捜索隊が出てるみたいだし、すぐだろうな。見つかっちまったら厄介だ。」
「この森、魔物が出るんだろ?夜の移動はなあ。」
「アジトに着いたらこっちの人数増えるし大丈夫だろ。まあガキは十人くらいしか確保できなかったけどな。」
男たちの会話がくぐもって聞こえる。手足の先をほんの少し動かしてみる。うん、動く。薬は抜けたみたいだ。
「コイツら」ってことは、今運ばれてるのは私ひとりじゃないってことか。そして向かっている「アジト」には誘拐犯の仲間と「確保」された他の子供たちがいる。
どうすればいいのか。考えろ。冷静に考えろ。
どうやら森の中を進んでいるみたいだが、下草を踏む足音からすると、誘拐犯は五~六人くらいはいるのかもしれない。「アジト」に着いたら犯人の数も人質の数も増えてしまう。
「捜索隊」出てるって。父様だ。なら今のうちに父様でもどうやって父様母様助けてどうしたら
「ちょっと休憩して、担ぎ手交代だ。」
「ガキどもにも水くらいやっとくか。こんなところでくたばられちゃ、苦労した意味がねえもんな。」
「けけっ、お優しいことだなあ、おい。」
どさり、と地面に降ろされる。袋の口が開けられ、わずかな光が入り込む。夕方?まだ日がある。てことは拐われてから五~六時間てところか。完全に日が落ちて真っ暗になる前になんとかしなきゃ。考えろ。怖い。怖い怖い怖い怖い
「オラ、水飲んどけよ。」
革袋を渡される。喉はカラカラだった。手が震える。怖い。
誘拐犯は男六人。囚われた子供が男女二人、上半身だけ袋から出され、震えながら水を飲んでいる。自分も下半身は袋の中だ。交代しながら担いで運んでいるのか。怖い。
自分一人なら魔法、そう風の魔法かまいたちで逃げられるかもダメだあの子たち置いて行けない落ち着けどうしたら助けられる怖い助けなきゃ怖い怖い母様母様
「コイツぁなかなかの上物だな。貴族らしいから魔力もそこそこあるだろうし、見目も……」
男の一人が手を伸ばし、私の髪を掴んで顔を上げさせた。
いや!怖い!触らないで!
目の裏が真っ赤になる。
やだ怖いコントロールできない落ち着け気持ち悪い魔力調整できないやだやだ触るな子供守る怖い冷静に怖い怖い離せどうしたら助けてジョナ兄ジョナ兄怖いやだやだ暴走する助けて母様母様あの子ら守らなきゃ近寄るな死ね怖い死ねしねしね怖い怖いこわいこわいああああああああああああああああああああああああーーーーーーー!!!




