表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/109

王城・隣国・ロクス村

◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇




 国境へ向かう日付や、バージェガンド帝国で流す噂の内容、万一開戦となっても対抗できるような軍の配置など、具体的なことを決める前に、一度食事休憩となった。

 もっとも、フィーリアや精霊獣の存在は極秘なため、ごく僅かな人間しか給仕に入れないが。


 サウデリア王アンドレスと宰相セルゲイ、ブランドンの三人は、テーブルに置かれた地図を見ながら、バージェガンド帝国が侵攻してきた場合のルートについて話し合っていた。


「ブランドン、フィーリア嬢はどうしてる?」

「は、隣室でアイナどのとワッカどのに挟まれて『()()()()()()』をしております。ガラリアも一緒にいます。」

「ブふっ、なんだその『もふもふ補給』と言うのは。」

「さあ?常日頃「もふもふは正義」と言っておりますからな。幼い子がぬいぐるみを抱えているようなものでは?」

「フィーリア嬢も一応は幼き少女ですからね、ふわふわした物がお好きなのでしょう。」

「癒しが必要なのでしょう。他国に内戦を誘発させることの意味を、あれは正しく理解しております。間違いなく大勢の人間が死ぬ、その端緒を開くのが自分なのです。よくその重圧に耐えているものだ。」

「……自分が情けないですね。あんな少女にそんな責を負わせて……」

「少女……なあ……」


 アンドレスは、部屋の中に三人きりにもかかわらず、声を潜めてきた。


()()は、フィーリア嬢は、いったい何なのだろうな。最初、余は、ちょっと目端が利いて聡いだけの少女と思っておった。だが、全属性と精霊獣様の話を聞き、それがフィーリア嬢の力の源であったのか、と思い直した。が……

 ……()()は、フィーリア嬢は、違うな。あの子の根幹はもっと違うところにあるように思える。

 ブランドン、フィーリア嬢は間違いなく人間の子なのか?ジョシュアはエルフだ妖精だと言っていたが。もしや取り替え子(チェンジリング)とか……」

「馬鹿を言うなアンドレス!アレは間違いなく儂の血を引いた実のひ孫だ。それ以上言うなら、たとえお前でも許さん。」


 睨み合う二人。間に挟まれたセルゲイがおろおろする。やがてアンドレスが、ふ、と笑った。


「久し振りに名で呼ばれたな。」

「お前が「余」とか気取るからだ。名呼びをうっかり聞かれた日には、貴族連中が煩くてかなわん。」

「ふ、確かにな。……フィーリア嬢のこと、重ね重ね済まん。正直、あの才は喉から手が出るほど欲しいが、国を害することがない限り手は出さんと約束しよう。」

「陛下、フィーリア嬢に手を出すときは国が滅びる時ですよ。精霊獣様に脅されるなんて私はもう嫌です。」

「はは、間違いない。」


 食事の用意が整ったと、給仕が呼びに来た。




◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇




 バージェガンド帝国、国境近くの村外れにある空き家に、レイブンとワーニックがいた。


「いや、あのお嬢様、人使い荒すぎだろう。」

「フィーリアお嬢様の悪口は見過ごせませんね。僕はフィーリアお嬢様のおかげで、祖母の最期を看取ることができたんですから。」

「それは……悪かったよ。会えて良かったな。もう少しゆっくり過ごせればもっと良かったんだが。」

「いえ、言葉を交わせただけで充分です。正直、もう亡くなってるものと思ってましたから。」

「まあな、この情勢だからな。で、ロランはどこへ行ったんだ?」

「あー……また村長さんのお嬢さんのところですかね。何と言うか、あの()()()は尊敬しますよ。」

「アイツまだ十五……だっけか。シドの話だけで南方行き希望するだけのことはあるわ。ありゃ、天性の()()()だ。」


 空き家の扉が音を立てて開いた。


「ぬああ!ロランてめえ驚かせるんじゃねえよ!」

「あはは、レイブンさんて案外()()()ですよね。アンゼリカちゃんから差し入れ貰ってきましたよ。食べましょう。」

「おま……はあ、もういいや。食おう。」


 三人は車座になって、差し入れのスコーンを食べ始めた。喉を詰まらせながら、安いワインで流し込む。


「あ、レイブンさん、アンゼリカちゃんが「もう村から人がいなくなるから、よそへ移ったほうが良い」って言ってました。」

「は?人がいなくなる?何でだ?」

「なんか村長さんの声掛けで、動ける奴はみんな帝都へ行くんだそうです。」

「っちょ!何でそれ一番に言わないんだ!すぐフィーリア様に知らせないと!」


 レイブンは慌てて通信伝言板(ビービス)を取り出し、フィーリアへ報告を始めた。


「アレ、何度見てもすげえよな。」

「ですよね。こんなに離れてるのに、一瞬で連絡できるなんて。」


 しばらくビービスでやり取りをしていたレイブンが顔を上げた。ビービスをしまい込みながら、ワーニックとロランに告げる。


「すぐに発つぞ。もう少し帝都寄りの街だ。そこで情報を集めて、ヤバくなったら逃げろって話だ。」

「わかりました。あ、水がちょっと寂しいんで出しなに買っていきましょう。」

「情報集めってことは、女の子に声かけていいってことだよな。へへ、可愛い子いるかな。」

「おま……いや、お前はそれでいいわ。頑張って引っ掛けろよ。」


 手早く荷物をまとめた三人は、次の街へと向かった。




◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇




「奥様ぁ、せっかくフィーリアお嬢様の侍女になれたのに、お嬢様全然帰っていらっしゃらないですぅ。やっぱり()()をバラした私のこと怒ってらっしゃるんでしょうか……」


 ダーウィング家新入り侍女のメイチャが、半泣きになりながらクレアに訴えてきた。


「落ち着いて、メイチャ。フィーは怒ってなんかいないから。今はちょっと忙しくて帰って来れないだけなの。仕事が一段落ついたら帰ってくるから。」

「でも、でも、シドさんはお嬢様に付いて行ってるじゃありませんか。貴族のお嬢様は侍女を連れて行くものじゃないんですか?」

「それは……シドは護衛も兼ねてるのよ。フィーはあちこち移動することが多いから、強い人じゃないと付いて行けないの。」

「じゃあ……じゃあ!私も強くなります!フランセルさんに特訓お願いすればいいですよね!」


 参った。まさかそう来るとは。クレアは何とかメイチャの気を逸らそうとした。


「そうだ、メイチャは魔力鑑定受けた?」

「いえ、両親が、生活魔法だけ使えれば十分だと。」

「じゃあ受けてごらんなさいな。隣の孤児院に行けば、シャハザールが調べてくれるわ。教会で受ける正式なものとは違うけど、仕事をする上で知っていたほうが役に立つわよ。」


 メイチャは、不承不承ではあったが、仕事の役に立つならと孤児院へと向かった。


 その日の夜――




「奥様、シャルせん…シャハザールさんがお見えになってます。奥様にお伝えしたいことがあると。」


 執事見習いのパッセルに案内され、シャハザールがクレアを訪ねてきた。


「やあクレア様、夜分にすみません。」

「別に構いませんけど……何かありましたか?」

「いや、それがね……今日、私のところに魔力鑑定に来たメイチャのことなんだけど……」


(メイチャ?なんだろう?もしかして魔力が無かったとか?ごく稀にそういう人も……いえ、生活魔法は使えると言ってたものね。もし全属性とかならシャハザールはもっと喜ぶだろうし、何だか……困ってるみたいな顔してるわ。)


「実はですね……魔力量が五あります。」

「ええっ!?」


「それでですね……属性の適性がありません。」

「えええええっ!?」


 ダーウィング家の夜は更ける――




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ