王城の一室 2
◆ sideフィーリア ◆
――来た!
ここまで私は挨拶の口上以外は口をきいていない。まあガラリア様の名前は呼んじゃったけど、ノーカンね。
よっしゃ、こっからは私の演技力次第だ。相手は仮にも王、馬鹿王子ほど馬鹿ではないだろうし、巧いこと引っ掛かってくれるといいけど。
「……私如きが意見を申し上げることなど……」(小声)
「ん?何?何と言った?」
「…………私の戯れ言をひいお祖父様が…………」(更に小声)
「おい、聞こえんぞ。はっきり喋らんか。」
「………………全てひいお祖父………………」(更に更に小声)
「いや!聞こえん!いい加減にせよ!」
俯き、肩を縮こめる私。それを見てブラン爺のセリフ。
「陛下、フィーリアはまだ八歳にございます。礼を失してはいけないと、迂闊に喋れないのでしょう。」
「だがそれでは何のためにここに呼んだのかわからん!」
「……以前、第三王子殿下がフィーリアの自宅にいらした時も、最初はほとんど喋れなかったと聞いています。『不敬問わず』の書状にサインをいただいてから、やっと普通に会話できるようになったとか。」
陛下が「む」と口をへの字にし、宰相様と顔を見合わせる。うむ、そのことはちゃんと報告が上がってるのね。
「陛下、賢いとは言え幼い少女のこと、委縮するのも仕方ないのでは……」
「ふむぅ、では余もジョシュアのように『不敬問わず』の書状にサインすれば良いのか?」
ん、ここだ!馬鹿王子と違って小手先のトラップは危険。真っ向勝負でブラン爺、頼むよ!
「陛下、ご存じのようにフィーリアは商売人にございます。王としての権力でも覆せない、魔法契約にてお願いします。もちろん、不敬以外は王国法に則っております。」
ブラン爺が懐から書状を取り出す。馬鹿に書かせたのと同じ内容だ。
「フィーリアは面白い子でしてな、語り合うと時間がいくらあっても足りないのですよ。その長所を封印されてはかなわないので、儂が後見について、儂で抑えられる相手には不敬を気にせず好きなように喋れ、と伝えているのです。まあ、相手にも同じくらいの懐の深さがないと、怒り始めるようですが。」
は…半笑い、ブラン爺、煽りパネェっす。
「……ふ、ふはは、かの英雄にそこまで言わしめるとはな!よかろう、狭量と思われるのも業腹だ。」
陛下が『不敬問わず』の書状に、何か付け足して書き込む。え?えええ?
――サウデリア王国に住まう全ての者に対して――
って書いてある!いやまさかだろう!
「これでその子は、わが国では誰に対しても不敬を問われることなく物を言える。魔法契約はフルネームだったな。……と、これで成立だ。」
魔法契約書がぼうっと光る。マジか。『不敬御免状』手に入れちまった!
ブラン爺が確認し、私に手渡してくれた。うーわ!本物だ!たまらずブラン爺に抱き着く。
「すっごい!ブラン爺ありがとおぉ!まさかここまでやってもらえるとは!」
「この先お前が高位貴族に絡まれるたび、引っ張り出されてもかなわんからな。これがあれば自分でいなせるだろう?」
「うんっ!ブラン爺大好き!」
「陛下の懐の深さにも感謝するんだな。」
「あ、そうだね。陛下!ありがとうございますっ!」
私とブラン爺のやりとりをポカンと見ている陛下&宰相様。ガラリア様は後ろを向いて肩を震わせている。なによぅ。
今回、まず最優先で狙ったのは、この『不敬問わず』の書状。ブラン爺の煽りのおかげで最高の成果になったけど。
誰かに守られたり逃げ回るのは性に合わない。断りの言葉は自分の口で言いたいのだ。これで、否定しても断っても、何なら喧嘩売っても、言葉だけなら不敬に問われない。あとは自分の才覚次第だ。
この作戦話した時、シドとクレイグがもンのすご~い嫌な顔してたけどね。てへ。
「さぁって!とりあえず、何でしたっけ?初動どうするかって話でしたっけ?ドラグーン隊の派遣、賛成です。既に、国境沿いで軍事演習するようモンユグレ公爵には話してありますから、そこへ加わっての合同演習ってことでいいでしょう。力を誇示して圧力かけるのは大事ですからね。」
陛下と宰相様が急に我に返った、が、先にガラリア様が口を開く。
「フィーリア、俺とセルガも行ったほうがいいか?」
「そうね、バージェガンドに迂闊なことさせないためにも、そのほうがいいと思う。でも、この隙にあわよくば、なんて考える馬鹿は絶対いるから、イグナリニエとの国境は固めておいて。」
「わかった。そうしよう。」
「だがフィーリア、儂とガラリアなら、かえってバージェガンドを刺激することにはならないか?」
「いやいや、英雄閣下と最強ドラグーン隊が待ち構えてるところに無策で突っ込む、なんてことはさすがにしないでしょ。仕掛けるにしても、態勢を万全にしないと開戦できないよ。奇襲ならともかく総力あげて準備するとなると、兵の移動と物資の運搬、拠点の整備で三週間はかかるでしょうね。
当面の目標としては、直接的な武力衝突を避けて冷戦状態に持ち込むこと。その間に別の策を打てるからね。」
やいのやいのと三人で打ち合わせ。と、宰相様が口を挟んできた。やべ、この二人のこと忘れてたわ。
「ま、ちょ、ちょっと待て!そっちだけで話を進めるな!ブランドン!ガラリア!どういうことだ!?」
「どうもこうも……フィーリアの考える対抗策について話し合ってるだけだが?陛下がお訊ねになったのでは?」
うは!ブラン爺煽るねえ。
「む、いや、まあ、確かに余が訊ねた。だが!余を無視して話し込めとは言わなかったぞ!」
「そ、そうだ!しかも何だお前たち、その阿吽の呼吸みたいな楽しそ……円滑なやり取りは!」
いや、そう言われてもねえ。しかも宰相様、楽しそうって言っちゃったよ。
事前の情報によると、この四人、旧知の仲…ってか結構な仲良しらしいのよね。まあブラン爺にしてもガラリア様にしても国に仕えてナンボの人だったし、仲がいいから今でも真っ先に頼るんだろうしね。
「いったい……その子は何者なんだ?」
陛下にまで言われちゃったよ。さて、こっからどうするかなあ。正直ざっくりとした対処法しか考えてなかったから、悩む。
「イヴァン・ダーウィング男爵が五子、フィーリア・ダーウィングです。」
試しに改めて名乗ってみた。
「そんなことはわかっとる!そうではなく……ああクソっ!」
あ、詰まっちゃった。まあわからんでもない。何をどう聞いたらいいか、わかんなくなっちゃったんだよね。
でもそこで手を緩める気はないので、ブラン爺を見習って、ちょっと煽っちゃおうかな。
「陛下の馬鹿息子の命を救ったにも拘わらず、散々迷惑を掛けられたフィーリア・ダーウィングです。」
ピタリと時間が止まった。




