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王城の一室 1

◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇




「フィーリア様、報告が上がってきました。」

「見せて。」


 クレイグから書類を受け取り、フィーリアはそれを読んだ。一枚捲るたび、眉間の皺が増えていく。それを、ブランドンとクレイグ、シドがジッと見つめている。

 やがてフィーリアが大きく溜息をついた。


「開戦の準備、してるわね。サウデリアに。」


 三人の顔が一様にこわばる。


「すぐに報告書を作るわ。」

「では儂は城に送る書状を書こう。」

「シド、フィーリア様の登城用のドレスを。手が空いたら旦那様の分もお願いします。私はあちらの滞在に必要な物を揃えます。」

「承知。」


 いよいよサウデリア王との謁見だ。皆が口を真一文字に結ぶ中、フィーリアだけが口の端が持ち上がっていた。


「どうした?フィーリア。笑ってるのか?」

「ん、ちょっと……こっちのほうがよっぽど面倒だなあ、と思って。バージェガンド滅ぼしに行くほうが簡単だわ。」


 それを聞いた三人の背筋が寒くなったとかならないとか。






 苛つくほどの強い日差しの中、四人乗りの馬車が王城へと向かう。中に乗っているのは、ドレスアップしたフィーリアとブランドン。シドは御者、クレイグはダーウィング家のタウンハウスで留守番だ。


「城は……久し振りだな。」

「そうなの?」

「ああ、公爵位を譲って、中央の役を全て降りてからは一度も来ていない。ユグレリアの屋敷に籠りっきりだ。」

「はは、用があったら向こうから来るもんね。」

「……フィーリア……」


 ブランドンはフィーリアへ向き直り、見つめた。


「もし、もしもお前と陛下が徹底的な対立をしたら、儂はお前に味方してやれんかもしれん。一線を退いたとは言え、儂はやはりサウデリア王家の臣下なのだ。王家を、いや、国を守りたい。」


 強い瞳で、だが泣きそうにしているブランドンの首に、フィーリアはぎゅっと抱き着いた。


「わかってるよぉ。そんなに心配しないで。あとのこと引き受けてくれるだけで充分だよ。大好きよ、ブラン爺。」


 抱きしめ返すブランドンは、もしそうなったらいっそのこと自分も国を出ようか、と出来もしないことを考えていた。






 煌びやかな王城の中で、その一室はいささか異質だった。窓もなく内装は武骨な石造り。壁には大陸の地図らしき物が貼られている。

 フィーリアは知らなかったが、この部屋は王城が攻め込まれた時に、王が最後まで指揮を執るための部屋だった。


 王城の騎士の案内で、その部屋を訪れたフィーリアは、部屋の中にいる人物を見て驚いた。


「ガラリア様!」


 部屋の中に、王と宰相と共にいたのは、ルヴレフ辺境伯ガラリアだった。なぜここに、と聞こうとして、王と宰相の存在に気付く。

 フィーリアは部屋に一歩入り、無言でカーテシーをした。ブランドンが続いて部屋に入り、ドアを閉め内鍵を掛ける。これで部屋の中は、王と宰相、ガラリアとブランドン、フィーリアだけとなった。他は誰もいないし入っても来れない。


 カーテシーをするフィーリアを、王はジッと見つめていた。誰も何も言わず、沈黙だけが流れる。

 フィーリアの背を冷たい汗が伝う。カーテシーはいわゆる中腰だ。美しい姿勢を保とうとすればするだけ、足腰に負担がかかる。腿が一瞬震えた時、ようやく王から言葉がかかった。


「良い、楽にせよ。余がサウデリア王アンドレス・シエドビイエル・アラヌス・サウデリアである。」


 フィーリアはほんの少しだけ身を起こし、口を開いた。


「イヴァン・ダーウィング男爵が五子、フィーリア・ダーウィングにございます。お初にお目にかかります。此度はサウデリア王陛下のご尊顔を拝し、恐悦至極にございます。」


 フィーリアはそこまで言って、ゆっくりと体を起こし顔だけは伏せ気味に直立した。玉座もなく、謁見の間でもない。目線の高さの違いは身長分だけ。フィーリアは目を合わせるべきか否か、逡巡した。猿や猫は視線を合わせると敵意アリと取られる。だがしかしこの場合……


「顔を上げて良いぞ。」


(あっぶなーい。うっかり目ぇ合わせてたらアウトじゃん。)


「突っ立ってても疲れるだけだ。皆座るが良い。」


 ちょっとだけブランドンを目で伺いながら、皆席に着いた。と、宰相だけが立ったまま、置いてあったワゴンからポットを取り、お茶を淹れ始めた。


(え、これ下っ端の私がやんなきゃイカンのじゃないの?え?あ、や、違う違う!一番信用できる人間に淹れさせてんだ!)


 探り探りの対応にも程がある。正式な謁見ではないので、何が正解なのかブランドンに訊ねてもわからなかった。心情綱渡りのフィーリアは、改めてブランドン邸で相談した作戦の内容を思い返し、気付かれぬくらい小さな溜息をついた。




 王と宰相とガラリアが、報告書を回し読みする。しばらくは紙を捲る音だけが室内に響いていた。


「ふむ、確かに……開戦準備とも見て取れるが……」

「念のため、こちらも兵を集めますか?」

「いや、今からだと後手に回るだけだ。それに大きく動いて挙兵を早められても困る。ルヴレフ辺境伯、ドラグーンを動かせるか?」

「そうですな……軍事行動と悟られずに動くなら、せいぜい十騎…というところでしょうか。そのくらいなら見られても、合同軍事演習と言い切ってしまえば言い訳は立ちます。」

「ふぅむ……」


 王が目線をフィーリアに向けた。


「フィーリア、そなたはどう考える?……それと、今回の動きに気付いた経緯を是非とも説明してもらいたいものだ。」




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