千々に乱れる
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(結局、あの後寝落ちしちゃって、クダンに詳しい話聞けなかったんだよなあ……。まあそのうちゆっくり聞けばいいか。)
ブランドン邸の会議室で仕事を片付けながら、フィーリアはぼんやりと考えていた。
転生者の自分、迷い人と呼ばれる転移者、時間軸のズレ、いや、ウェードが江戸というのも確証があるわけではない。転生も転移もあるのなら、ウェードが江戸ではなくまた別の世界ということも考えられる。ワッカの最初の契約者のことも聞いてみて……とまで考えたところで、シドに声を掛けられた。
「フィー様、どうした?手が止まってるぞ。何度も呼んだのに。」
「あ、ごめん。ちょっと考え事してた。」
「それ、ジョナス様もそうだけど、良くない癖だよな。自分の世界に入っちまうの。」
自覚のあるフィーリアは、素直に反省した。ブランドンは国境警備関連でモンユグレ公爵邸に行っているし、クレイグは通常業務をこなすためにブランドンの執務室にいる。シドと二人だとなおのこと人目を気にしなくなってしまう。
「王城行きのことか?その……悪かったな、巧いこと回避できなくて。」
「いいよぅ。王様の命令だもの、逆らえないって。」
「やっぱり、取り込まれそうになったら逃げるのか?貴族籍捨てて。」
「う~ん、多分逃げても家族には累が及ばないよう、ブラン爺が頑張ってくれるとは思うけど、それは最終手段にしたいなあ。みんなと離れるの嫌だし。」
そこまで言って、ふとワッカに言われたことを思い出す。
(私一人で国盗りできるんなら、国王脅すくらいできるんじゃね?敵に回したくないと思わせるくらいの力見せつけて……いやそれだと脅威に思われて逆に排除とか……)
「――ィー様、フィー様っ!」
「え?あ、ごめん。またやっちゃった……」
「……あのさ、一人で色々考え込んで落ち込むくらいなら、俺に相談でも八つ当たりでもしろよ。だいたいあんた、考えなきゃいけないこと多過ぎだろ。王城のこともそうだけど、バージェガンドのこととか、あ、新しい街のこともあるじゃねえか。あんだけ人増えてきたのに、まだ名前付けてないし。」
「名前……また名前かあ~~~……」
ノックの音がして、クレイグが入ってきた。書類の束を持っている。
「フィーリア様、まだ全部ではありませんが、報告が届きました。」
「連絡役、まだいるっ?」
「はい、待機させてあります。」
「ここに呼んで!」
クレイグに、諜報員との連絡役を呼びに行かせ、フィーリアは書類にざっと目を通した。
「なあおい……どうなんだ……?」
「……確定……じゃないけど、開戦の確立は上がったかな。」
シドが大きく息をつく。そこへ、クレイグが連絡役を伴って戻ってきた。
連絡役は複数人が交代で来ていて、いつも顔を隠し名前も教えない。フィーリアも敢えて聞こうとはしていなかった。まだ一部の指揮権を譲られただけだし、全てをさらけ出させるほどの信頼関係は築けていない、と判断したからだった。
フィーリアは連絡役を見て、テーブルの上に大量の金属板を取り出した。空間収納から。
「ちょ!フィー様!何やってんの!」
「んあ?何?……あ、収納魔法……」
シドに咎められそこで初めて、能力を知らない人間の前で収納魔法を使ってしまったことに気が付いた。
「フィーリア様……まあこの者は大丈夫です。かなりお疲れのようですね。あとで休んでください。それよりもこれは……ビービスではありませんか?」
テーブルの上に置かれた金属板。それは、小型に改良された伝言通信機だった。収納魔法と同じく、これもトップシークレットだ。
「今潜入してる諜報員、二十人くらいだったよね?数は足りると思うから、全員に持たせて使い方教えてやって。」
「全員…ってコレ、使用者限定されてないヤツじゃねーか!コレは駄目だって――」
「あー、そこら辺は改良した。ロックシステム採用で、一番最初に魔力通した人にしか操作できないようにしてある。で、コレは支給じゃなくてレンタルね。この一件が終わったら返してもらうから。返ってこなかったら遠隔で破壊できるトラップ付き。タイパ優先にしたいから。
で、使い方だけど、こっちのでっかいのが親機、指令役が使って。小さいのが子機で、諜報員に持たせてね。親機と子機の間でしか通信できないから。
セキュリティに関してはこれで問題ないでしょ。」
説明しながら、フィーリアの頭がぐらぐら揺れている。
「ゴメン、ちょっと頭回んないから、ブラン爺帰ってくるまで休むわ。今の状態じゃパフォーマンス悪すぎ。もっちょいシャキッと、して……か…ら……」
フィーリアの体が大きく傾く。と、シドが慌てて受け止めた。そのまま抱き上げ、続き部屋になっている控室に運んだ。控室には、予め休憩室として簡易ベッドが持ち込まれている。
フィーリアを寝かせてからシドが会議室に戻ると、クレイグと連絡役が微妙な顔をしている。
「シド……今の言葉は……?」
「あー済まん、フィー様時々ああいう聞いたことない言葉が混じるんだ。エルフ語か古代語じゃないかと思うんだが、本人否定するしなあ。普段は気を付けてるみたいだけど、よっぽど疲れてたんだろうな。」
「いえ……前後の文脈から、何となく意味は通じるので構いませんが……。エルフ語か古代語……フィーリア様ならそれも有り得る、と思えてしまいますね。」
クレイグが困ったようにクスリと笑う。
「シド、お前の今の主、随分と面白そうじゃないか。と言うか、なんか今のお前、従者って言うより……母親……?」
「ぐ……言わんでくれ、レイブン。ちょっとは自覚あるよ。仕方ねえだろ、フィー様まだ八歳なんだぞ。今だって糸が切れたみたいに寝ちまうし。まあ、うん……世話係なのは認める……」
レイブンと呼ばれた連絡役が、ぶほっと噴き出した。
「あはははは!クソ捻くれた山猫が、人喰い獅子の子育てしてるってか!あはははは!」
「レイブン、その辺にしておきなさい。あと、フィーリア様を魔物呼ばわりはやめなさい。」
「お、おう、そうだ。フィー様はある意味マルティコラなんかよりもずっと怖ぇぞ。お前だってあの子と長く付き合えば……そうだ!クレイグ!こいつフィー様の専属連絡役にできないか?」
「はあっ!?ちょ待て!何言ってんだお前!」
「ふむ……アリかもしれませんね。特に今は諜報部とは密な連絡が必要ですし……。いいでしょう、以後お前は優先的にフィーリア様との連絡役をしなさい。旦那様と頭には、私のほうから許可を取ります。」
「ちょ……なんでそうなるんだよ!シドてめえ何してくれてんだ!」
シドとレイブンが取っ組み合いを始めた。
(確かシドとレイブンは一歳違いでしたか。諜報部時代から仲が良かったですし、フィーリア様に付けるには丁度良いかもしれませんね。レイブンが軽口叩くのはシドに対してだけですし。あとはフィーリア様がどう言うか……)
くんずほぐれつする二人を横目で見ながら、クレイグは人員の配属をあれこれと目論んでいた。




