過保護な人々
◆ sideフィーリア ◆
「赤ちゃん欲しいなあ。」
会議室にいたブラン爺・シド・クレイグの三人が、一斉に立ち上がった。
「なっなっなっ……どっどっどこのどいつだ!?儂は許さんぞ!」
「?何言ってんの?カタリナ伯母様んとこの赤ちゃん、すンごく可愛かったのよ。なんか抱っこしてるだけで幸せになれるの。母様……は厳しいか。アリシア姉様、早く赤ちゃんできないかなあ。」
「ああ、そういう……」
「フィーリア様、誤解を招く言い方はおやめください。」
あ?お前ら八歳女児の言葉を、どう誤解するってんだよ。私が産むわけないだろうが。
バージェガンド帝国の調査結果が出るまでには、まだ時間がかかる。それまでの間、通常の仕事を滞らせるわけにもいかないので、ブランドン邸の会議室を借りて一時的にそこで仕事をしている。
溜まってた事務仕事、一気にやる機会になったから、それはそれでいいんだけどさ。
調査報告が上がってきたらすぐに対応できるように、ってんでブランドン邸にいるわけだけど、問題はそのあと。
もし本当にバージェガンドが戦争の準備をしているならば、その報告書と共に王城に上がらなければならない。何とかならないかとみんなで考えたけど、どうにもならなさそう。
これもう、私の勘が大外れだった、って場合しか逃げようがない。色んな意味で外れてて欲しくはあるけどね。
「ねえ、王城に行くのって、やっぱり馬車?」
「そりゃそうだろ。つうか、フィー様王城に行ったことないんだから、転移でなんか行けないだろが。」
「いや、それはそうなんだけど、王都のタウンハウスに転移して、そこから馬車で行くってどう?」
「ああ、それならアリですね。そこから先触れも出せば、かなりの時間短縮になります。」
ね、ね、そーだよねっ。そのほうが楽だしいいよね。
「だがそうなると、フィーリア一人で儂とクレイグとシド、三人を運ばなければならないのだぞ。ここから王都まで三往復だ。そんなに魔力持つのか?」
「あ、それなら大丈夫。三人くらいなら一度で運べるようになったから。」
「は?フィー様いつの間にそんなことできるようになったんだ?」
ヴェントが加入して、私の総魔力量また底上げされてたけど、それだけではこうはならない。魔力量が爆上がりしたのはね、街作りだよ、街作り。
街を丸ごと一つ、そこへ至る道路整備までも含めて作ってみ。下手な訓練なんかより、よっぽど過酷な修行になるわ。
まあおかげで、同行して転移できる人数増えたし、自宅から辺境伯領へも一度で飛べるようになったんだけど。
「んへへ、ナイショ。てかさー、自衛くらいできるんだから、情報集めるにしてもその後なんかするにしても、やっぱ私がバージェガンドに行くのが一番早いと思うんだけど。」
「「「絶対に駄目!」」」
なんでそこ、三人揃うかなあ。まあ、バージェガンド行きは精霊獣たちにも反対されたけどさあ。
『絶対はんたーい。危ないだけじゃない。』
『私も反対ですね。信者を使えばいいのでは?』
『我もどうかと思うぞ。あの土地は、人間だけではない、精霊も混乱している。』
『どうしても、と言うのなら飛んでやらんこともないが、できればそうは言ってほしくないな。つまりはわしも反対だ。』
真夜中の精霊獣会議で、みんなにバージェガンド行きを相談したらコレだ。なんだよう、みんなして反対って。そしてアイナ、私の部下を信者呼びはやめろ。
彼らの心配もわからないわけじゃない。別の国、つまりは縄張りの外だからだ。
縄張りの外では、かなり力が制限されるらしい。更に主との魔力の繋がりも細くなるのだとか。すなわち使えるのは、精霊獣なしでの自分の力のみ。
それだって、誰に負ける気もしないのだけれど、彼らとの契約の中には主の守護も入ってるから、自分たちが守れない状況は作ってほしくないみたい。うん、ここでも過保護。
「て言うか、バージェガンドには精霊獣っていないの?」
『もちろんいますよ。ただ……ここ数百年は、人とは関わってないですね。』
『うむ、誰も契約はおろか、祝福すら与えていないと聞く。つくづくわしはサウデリアに住んでいて良かったよ。』
マジか。数百年って下手したら建国まで遡っちゃうんじゃないの?あれ?でもそんだけ精霊と乖離してたら、強い魔法とか使える人いないんじゃないの?
『だから、アイツらがいくら攻め込んできてもサウデリアは大丈夫なのよ。精霊だけの話じゃなく、そもそもの国力だって相当違うでしょ。』
『あ奴らは、精霊をないがしろにし過ぎたのだ。自然と人の和、それさえあれば精霊が見放すこともなかったものを……』
「いや、まあ、勝てるのはわかったけど、それでも戦争になったら人は疲弊するじゃない。こっちだって被害ゼロとはならないだろうし。」
……あれ?なんでみんな黙るの?何かおかしなこと言った?
『戦争止めるのに、一番簡単な方法があるっちゃあるけどねー。』
「え?なになに?教えて。」
『『『『…………』』』』
だからなんでそこで黙るのよー!
『……フィーリアちゃんが、バージェガンド潰して別の国建てればいいのよ。』
……へぁ?意味が分からない。
「あんたら、私がバージェガンド行くっつったら反対したじゃんよ!なんで国盗りなら推奨するみたいな話になってんの!?」
『別に推奨はしてません。ただ、もしフィーリアが国が欲しいと思うなら、今が好機、と言うだけの話です。』
「はあ?国なんていらないよ。なんでそんな話になってんのよ。」
精霊獣たちが顔を見合わせる。やがてヴェントが口を開いた。
『あのな、我々と契約した人間はほぼ皆、王になることを望んできたのだ。わしが精霊獣となって最初の契約者もそうだった。今のサウデリア王の祖だ。』
「……は?」
『当時のこの地の王の縁者だったが、まあ、悪政を敷いておってな、義憤に駆られ国を盗り、国名をサウデリアと改めた。』
「えー?じゃ、サウデリアの建国王がヴェントの契約者だったの?」
『うむ。ちなみに、サウデリアの前はガウガロンという国だ。』
『ガウガロンを建国したのは、我の二人目の契約者だ。まだ国と呼べる国はなく、この地にガウガロンを興したのだ。』
クダンの二人目の契約者?
「それって、転移魔法とか収納魔法研究した人?」
『いや、それは最初の契約者だ。彼は迷い人だった。彼は支配を望まず、我と共に魔法や魔法陣の研究をしながら、つましく暮らしておった。』
「ま、迷い人……?」
『あー、時々いるよねー。アタシの最初の契約者も迷い人だったわー。』
「ちょちょ、待って、迷い人って何?」
『別の神が治める世界から、突然この世界に迷い込んだ者だ。我を見て不安そうに「行く末がわかるのなら教えて欲しい」と……そうだ、その時も確か我の名はクダンと付けられた。』
転移者!そんで、クダンはほんとに『件』だった!
「そ、その人どこから来たって言ってたの?」
『確か……ウェード……とか言っていたか。契約の話をした時、「その不可思議な力で未来を教えて欲しいから」と言って、クダンと名付けた……ような気がする。我に先見の能力はないのだがな。』
先見……予言の力を期待して『件』と名付けた?んじゃ、ウェードってもしかして江戸か?ある意味同郷じゃん!
『……もう数千年も前の話だ。』
…………?時間軸おかしい!!




