それぞれの
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「男の子……ですか。私もう三十過ぎてるんですが……」
「お前はまだいい。なんで儂まで同じ扱いなんだ?」
「は!旦那様、まずは手紙を!」
「お、おお、そうだったな。」
クレイグはバタバタと便箋とペンを用意し、ブランドンの前に置いた。もちろんどちらもシューベリー商会の物だ。
「……本当に戦争が起こるのでしょうか。フィーリア様は「勘だ!」とおっしゃっていましたが……」
「儂にもわからん。が、フィーリアが言う以上、ただの勘ではないのだろう。……あいつは多分、考えを言語化するのがそう得手ではないのだよ。あれだけ賢いクセにな。」
「ああ、それでいつもシドやジョナス様に補佐をさせ……!だ、旦那様……公爵家と伯爵家、フィーリア様お一人で回らせてよろしかったのですか?」
「!……ま、まあ、いざとなればそれくらいは……。先触れの手紙、その辺りのことも書いておくか……」
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「……で、それを信じろと?」
公爵家の一室、モンユグレ公爵グリッドは、憮然とした様子でソファーに座っていた。テーブルを挟んで、急な面会を求めてきたフィーリアが座っている。
「確定ではないです。今大至急裏を取っていますが、もし本当にバージェガンドが攻めてくるのなら、後手に回らないよう準備が必要です。」
「だが、その根拠が君の勘、というのは……」
「あーもう!何もなきゃないでいいんですよ!できる範囲で警戒すべき!って言ってんです!」
「警戒はいつも……」
「だーかーらー!……はあ、すみません……先に謝っておきます。ちょっと言葉悪くなるかもですからね。」
フィーリアはここで一息入れた。
「今の段階でできることは、国境の警備をテコ入れして厳重にすること。向こうの政治情勢が不安定なんだから、あっておかしくない対応です。てか見せつけるくらいやってもいいです。
次に、毎年やってる軍事演習を、今、国境沿いでやること。そうすることで、いつでも迎撃の準備が整ってる、って示すことが重要なんですよ。
で、裏が取れたら、また次の手を打ちます。」
「裏……と言っても、バージェガンドの皇宮は今や魔窟だ。裏入り行為の証拠がなくても、怪しまれただけで問答無用で処刑されると聞いている。君はそんなところに諜報員を送り込んだのか?」
グリッドは苛立っていた。実父が作り上げた大切な諜報部を、たかが子供の勘で雑に扱われたと。
「馬鹿なこと言ってんじゃね……いですわよ!誰があんなクソみたいなとこに大事な諜報員を送りますか!市中で酒と穀物の動き、馬と人と物流の変化を調べてくるように言っただけですよ!」
「は?そんなことで裏が――」
「取れるんですよ!わかんないならすっこんでろ…ください!」
沈黙が訪れる。鼻息荒く怒鳴り返したフィーリアも、さすがにちょっとバツが悪くなった。
「コホン、えー、そういうことでですね、今言ったような対処をお願いします。ブランドン閣下は了承済みですし、今、王城にも話を通しています。私はこの後モンデール伯爵の元へ向かって、同じような要請をします。あ、紹介状書いてください。」
怒鳴り合ったすぐ後に、しれっと紹介状を要求するフィーリアに、グリッドはどう対応したらよいのか、ひたすら困惑していた。
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「ブランドンはその勘を信じているんだな?」
「いえ、勘をというより、ひ孫のフィーリア様を信じています。」
王城で王族が住まう王宮エリア。王の寝室近くに設えられた応接室で、シドはサウデリア王アンドレスに内々に謁見していた。室内には宰相のセルゲイもいる。
「ふむ、確か馬鹿息子の洗脳と教育放棄を見抜いたのもその娘だったか。ダーウィングの次男だか三男だかが優秀なのは聞いておったが。」
「ジョシュア殿下が「友達になりたい」などと言って、せっせと贈り物をしておりましたな。優秀な娘なのは確かなようです。急成長しているシューベリー商会の商会長ですから。」
色々バレている。が、ある程度は仕方のないことだろう。なにしろ、フィーリアが商会設立の折に使った『国内に於ける要人・重要人物保護の為の名義人秘匿法』で、秘匿を保障する責任者が王と宰相なのだから。
「国境の防衛については、モンユグレとモンデールに書状を送ろう。コックスは……国境とは言え、森を挟んでるからな。そうそう大勢が抜けられるものでもあるまい。放っておく。」
「よろしいのですか?子供の戯れ言かもしれませんよ。」
「構わん。どっちにしろ国境警備を厚くして悪いことなどない。」
シドは心の中でホッと息をついた。これでブランドンの命令は遂行できた。が、王の続く言葉に狼狽えた。
「こちらも影は使うが、そちらで裏を取ってもし挙兵の意向が確認できたら、ブランドンとその娘を連れて報告に来い。」
シドは咄嗟に返事ができなかった。
(不味い。色々と不味い。ただでさえフィー様は王族嫌いなのに、王と接触して揉め事にならない自信がない。と言うか、絶対面倒なことになる。)
「どうした?何か都合の悪いことでもあるのか?」
「……いえ、承知いたしました。ブランドン様にお伝えいたします。」
(不味い不味い不味い。何だっけコレ、前にフィー様が言ってたな。あ、えまーじぇんしーだ。)
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「あらあら、フィーリアちゃん、随分とあやすの上手いのね。」
「伯母様、毎晩夜泣きでお疲れでしょう?赤ちゃんが眠るまで私が見てますから、少しお休みになってください。」
「まあ、それは正直ありがたいわ。私もまさかこの歳で赤ちゃんを育てることになると思わなかったから、体が辛くて。」
「乳母はお雇いにならないのですか?」
「探してはいるんだけど、中々良い人が見つからなくってねえ。」
明け方、モンデール伯爵邸の一室で、フィーリアとモンデール伯爵夫人カタリナがひそひそと小声で喋っている。フィーリアの腕の中には、月齢四か月の赤ちゃん。
最初、奇跡の高齢出産か?と思ったフィーリアだったが、話を聞いてみると、夫人の末の妹の子だという。
妹の嫁ぎ先は地方の子爵家だったが、激しい嫁いびりと夫の急逝で、実家に戻されてしまった。戻ってから妊娠に気が付いたものの、子爵家はもう長女に婿を取って跡を継がせることが決定していたため、子の養育を断ってきた。
夫人と妹の実家で面倒を見ることにしたが、妹は産褥で儚くなってしまい、高齢の両親だけでは養育は難しいからと夫人が伯爵を説得し、引き取って養子にしたというわけだ。
(なんつーか、いつの時代もどこの世界も、嫁って大変ねえ。でも、この子はまだ、伯爵家に引き取られて幸運なのかも。)
ミルクの匂いがほんのりとする赤ちゃんをゆらゆらと揺らしながら、フィーリアは伯父ディクソンとの面会を思い返していた。
伯父、ディクソン・モンデール伯爵は、柔和な人であった。のほほんとした雰囲気で、初対面にもかかわらず、フィーリアの話を聞くとすぐに行動を起こしてくれた。
「そうか、お祖父様がそう判断したのなら、すぐに動こう。うちは、バージェガンドとの国境は森と湖だからね。森の哨戒と湖の見張りを増やそう。」
父パーシーをそのまま柔らかい餅で作り替えたようなディクソンは、すぐに騎士の詰め所へ向かい、国境の警戒を上げるよう指示をする。
「今日はもう遅いから、うちに泊まって行きなさい。あ、でも赤ちゃんがいるから、ちょっと煩いかもしれないけど。」
そうして、明け方に泣き声に気付いたフィーリアが、ちょっとやつれた夫人の手から赤ん坊を受け取って今になる。あやしながら、夫人との小声のお喋りは続く。
「睡眠退行と言って、赤ちゃんが成長してる証しですわ。規則正しい生活に慣れて行けば、夜泣きは徐々に減っていきます。こうしておくるみで包んであげてゆっくり揺らしてあげれば、落ち着きます。」
「フィーリアちゃん、末っ子なのに物知りねえ。あら、何だかもう寝そうね。」
「こうして静かにお喋りするのも安心するみたいですよ。眠る前に、話しかけたりお話を読んであげたり、子守歌なんかも良いと思います。寝かしつけの時のルーティ…決まりごとにしておくと良いかもしれませんね。」
前世の自分が子を産み育てたかどうかはフィーリアにはわからない。が、何となくでも知識があると言うことは、そういうことなのかとも思う。
白々と夜が明けていく中、フィーリアと夫人の静かなお喋りは続いていた。
丁度100話になりました。
読んでいただき、ありがとうございます。
フィーリアの暴走も加速していますが、本人は堅実に地味な功績を積んでいるつもりなのが厄介です。
頑張って主人公の手綱を取って行きたいと思っています。




