表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PSI --公安調査部-- 植民星の公安調査官  作者: 政治色だいすき
02 アールーズのサローノ人
6/70

アールーズのサローノ人 -01-


 『連絡船ペンキ爆弾事件』の発生翌日――。

 ベアタ・ヌヴォラーリPSI特別捜査官は、オフィスに出勤するや、大先輩のトゥイガーにデスク越しに手招きされ、二日続けてルーティーン(パーコレータでコーヒーを煎れること)をし損なうこととなった。


 班長のバンデーラが不在の時には、彼女の右腕であるトゥイガーが班を取り纏めることになっている。今朝はバンデーラの姿がなかった。

 ベアタは紙コップをディスペンサーに戻し、一足早くデスクの前に立ったラファエル(ラフ)・サンデルスの隣に並んだ。


 トゥイガーは受話器を小さく振って〝ちょっと待て〟とジェスチャーをしてみせる。どうやら、何か〝最後の確認〟をしているところらしかった。

 少しして、受話器を置いたトゥイガーは、ふたりに切り出した。


「鉄道警察局からの連絡だ……グランド・サウス駅でサローノからの越境者が手荷物検査(チェック)に掛かった」


 チラ、と、トゥイガーの目が自分を顔を窺ったのがわかったので、ベアタはその明るいブルーの瞳に、敢えて不快な表情(いろ)を浮かべて見せた。


 人類の統治政体が〈地球連邦〉に統合されて299年を経た西暦2696年――。

 国家というものが単一のものとなった現代社会において、(少なくとも理屈上は)旅券(パスポート)による出入国管理などというものは創作物(フィクション)の中でしか存在しないことになっている。

 それは、地球から224光年を隔てたルーリェラス星系の第5惑星フェルタに拓かれた3つの()州――〈アイブリー〉〈キード〉〈サローノ〉――であろうとも同様のはずであった。



 だが人類という生物は、〝生まれついた〟、あるいは〝住みついた〟地域という『枠』で個人を〝色分け(差別)〟するという性分(さが)から、やはり逃れられないようである。

 国籍は『出生州』(あるいは『帰化州』)へ、旅券は『身分証(ID)』へとそれぞれ姿を変え、国境に代わって州境が〝越境者管理〟の対象となった。各種の査証(ビザ)といった手続きも管理主体が一元化されて軽便なものとなっているとはいえ、本質的にほぼそのままの形で残っている。


 地球連邦からの分離独立運動が(こう)じ内戦状態に陥っているサローノからの越境者は、まっ先にテロリストか避難民だろうと疑われ、手荷物を検査(チェック)された。


 そういったことの後ろめたさからトゥイガーはベアタを顔を見、ベアタは不快な表情を返したのだった。

 ベアタは、サローノからの〝避難民〟だった。



 テロ事件とみればサローノからの越境者を先ず疑うというのは、アイブリーでの〝お決まり〟の進め方である。

 市内のテロ警戒レベルが引き上げられたものの捜査の方向性が定まらないので――事件発生から〝昨日の今日〟だ、致し方なかったが…――とりあえず〝出来る事〟から手を付けてゆく、ということか。


 ベアタは〝同胞〟に内心でだけ密かに同情して、トゥイガーを見た。


 トゥイガー自身が〝サローノから帰化した同僚〟を疎んじるようなことはなかったが、こうやって気を使われることに、ベアタは正直、辟易としている。

 彼女は自分の出自を理解していたし、これまでの半生の中で差別も経験していたが、決して()()()()を恥じてなどいなかった。


 トゥイガーの表情にバツの悪いものが浮いたようでもあったが、すぐに彼は特別捜査官の顔に戻ると、ふたりに、グランド・サウス駅まで出向いていってチェックに掛かったサローノ人の取り調べに立ち会うよう指示をした。





 シティプラザビルを出て通りの反対側に停めた多目的車両(SUV)の車中に納まると、サンデルスは助手席に座った自分の対番(後輩相方)にぼそりと言った。


「あんまり〝可愛げのない〟表情(かお)を上司に向けるなよ。損だぞ」

「…………」


 始め、ベアタは口を引き結んでその対番(先輩相方)の言葉に無視を決め込もうと試みたが、結局、ミディアムマッシュウルフのブルネットを揺らし、運転席のサンデルスを向いて口を開いた。


「ご忠告、ありがとうございます。――それって処世術?」


 サンデルスは、そういう〝自分の感情を真っ直ぐ相手に向けてくる〟ベアタのことを嫌いじゃない。

 彼にとって彼女は、なんというか、手を焼かされる妹のような存在だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ