8 陽子はチートスキル
「――どうだった?」
口を開いたアニーのオーラは薄桃色、治癒属性のヨーコだ。
「一見、完全な無色透明に見えたが、目を凝らしてよく見ると全体が微かに虹色をしていたと思う」
それは窓からのわずかな日差しにも負けてしまいそうな、ほんの幽かな輝きだった。
「何か分かる?」
「いや、何も分からない」
強いて言うなら、間違いなく思いもよらない能力だ。
ヨーコたちは本当に何も知らないのだろうか? 何かを隠している気がする……。
「そっか、分からないのね……」
するとヨーコは空気を変えるように、胸の前で「よしっ」と一つ手をたたき、
「とにかくアタシたちはエライ人の所へなんて行かない! そんなの、あなたが行けばいい! 以上!!」
と、強引に話を終わらせた。
一瞬あっけに取られた俺は、慌ててそれを否定する。
「だ、だから、俺なんかがのこのこ行っても意味が無いんだ。この手じゃもう弓は引けない!」
そう言って俺は彼女の前に、麻痺の残る左手を突き出した。
弓の引けない俺が、勇者の戦いに赴いたとて、足を引っ張る事しか出来はしない。
「そんなの、アタシが治してあげるわよ!」
言うやいなやヨーコは俺の腕を強く掴んだ。
次の瞬間、ヨーコの薄桃色のオーラが俺の左腕へ送り込まれていく。
すると、心地よいあたたかさが全身へと広がっていった。
「ハイッ、治療終了!」
「…………」
「どう? 左手の具合は?」
俺は腕全体に力を込め、左右に捻ってみた。
次に、指の動きを一本ずつ確かめる。
「……治っている」
決して治らないハズだった俺の左手が、かつての感覚を取り戻していた。
「管理局に紹介された凄腕の治癒師でも、これ以上は良くならないと言ったんだぞ」
「ふふ、アタシがその凄腕よりもスゴイってことよ。なんてったってアタシは……千佳ちゃん何だっけ? ――……『チートスキル』よ!」
「凄腕以上とは、恐れ入ったな」
やはり彼女たちは、その存在そのものが破格だ。
「君のおかげで、諦めていた望みが叶ったよ、本当にありがとう」
俺はあらためて左手の感覚を確認しつつ、ヨーコに感謝の言葉を告げる。
「ふふふ、どういたしまして。ついでに全身癒しといたから、今のあなたは超健康体よ」
言われてみれば体が軽い気がする。
「コレで『弓聖』の復活ね!」
「弓聖? それは俺のことか?」
「そうらしいわよ。えっとねぇ、弓を射るときに、聖属性の付与? 補正? なんかがドーンと付くんですって。詳しいことは、そのうち千佳ちゃんにでも聞いて」
「そうか……」
異能調査官である俺が、自分自身の能力を、今初めて知ったのだ。
「それと、あなたのその目も聖女ちゃんたちの下位互換なんですって」
俺の目が聖属性の賜物だという事実が、俺の中で妙に腑に落ちていく。
「これで勇者の足を引っ張らなくて済むわね」
確かに、今の俺なら勇者の助けになることも出来るかもしれない。しかし……。
「俺が特別な契約によって、異能管理局に身分が縛られていることも把握しているか?」
「ええ、聞いてるわ。魔道具による『魂の契約』だっけ?」
「それも何とかなるのか?」
彼女の言動に明確な裏付けがあることを、もはや疑う余地はない。
「一応、方法はあるわ。それはね――……え、どういうこと? ……理由を聞いてもいい? ……分かった、代わればいいのね」
俺との話の途中で、ヨーコは割り込んできた別の前世との対話を始めてしまった。
「どうしたんだ?」
「あのね、真央ちゃんがこっから先の話は、どうしても自分に任せてほしいって言うのよ。だからちょっと真央ちゃんに変わるわね」
そう言って、ヨーコは静かに目を閉じる。
そして、魔力の波が広がる。俺はその魔力に、何故か不安定な揺れを感じた――
――薄桃色から変化したオーラの色は、またしても無色透明だった。
その体の周りを、いくつかの小さな虹色の光の玉が、フワフワと人魂の様に浮遊している。
「君はマオだね?」
「はい、そうです」
俺を見つめ、静かに淡々と答えるマオ。
一見ただの無表情に思えるその目に、俺は言いようのない影の様なモノを感じた。
「……君の能力を聞いてもいいか?」
「ワタシの能力は、『人形遣い』です」
やはり聞いた事のない能力だ。
「それは、どういった能力なんだろうか?」
「見ていてください」
マオはそう言うと、机の上のコボルト人形を左手で引き寄せ、右手の人差し指と中指をその額あたりに押し付ける。
すると、マオの周りを漂っていた虹色の玉の一つが、コボルトの中に吸い込まれていった。
「踊って」
マオがそう言った次の瞬間、ぬいぐるみのコボルトが、命を吹き込まれたように踊り出した。
「これがワタシの能力です」
「……凄いな」
「人形に命令を与えて動かすだけの、他愛もない能力です」
いや、十分凄いだろう。
使い方次第では、強大な戦力を生み出すことも、出来そうな気がするが……。
「君は自分の能力を気に入ってないのか?」
「そんなことはありません。妹のリディやほたるが、とても喜んでくれるので」
その時、ほんの一瞬マオの表情がほころんだ気がした。
マオはコボルトの頭を撫でながら、何かを念じるように目を閉じた。そして、
「……それじゃあ、お願い」
するとコボルトはマオの言葉に応えるように、部屋の窓から外へと飛び出していった。
「どこへ行った、何を命じたんだ?」
「遊びに行っただけです。気にしないでください」
マオの目に「これ以上答える気はない」という強い意志を感じる。
「…………」
「まあいい。それで俺に話したい事とはなんだ?」
コボルトの行方が気にならない訳ではない。しかし、今は話を続けることを優先する。
「その前に、ワタシ自身の前世の話をしてもいいですか?」
カエデが「複雑な人生」と言っていたマオの前世だ。
「分かった。聞かせてくれ」
俺はとりあえずマオの話を聞いてみることにした。
「前世でワタシは、指名手配のテロリストでした……」




