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7 8人の前世たち

 現世での生活がわずか十日と聞いて、何かと合点のいく部分も多い。


 彼女たちの言動から、16年という年月の気配を感じなかったこと。

 そして、アニーという特異な存在を異能管理局がが全く把握できていなかったこと……。


 だが一方では、それ以上に謎が深まったとも言える。


「何故、16歳なんだ?」

「さあ、知りません。天の声は転生の事とか、そういう事はほとんど教えてくれないらしいんで」 


 そういえばチカがそんな事を言っていた。 


「いきなりこんな意味の分からない状況に置かれて、戸惑わないものなのか?」


 そう、彼女たちは皆、あまりにも落ち着いているように見えるのだ。

 ましてやホタルは6歳だぞ、毎日泣きじゃくっているほうがむしろ普通だろう。


「まあ、そうなんですけどね……。アニーとしての人生も自分の人生だと、違和感なく思えるんですよ。今の両親もちゃんと両親だと思えるし、妹のことが可愛いと思う感情も、アニーのモノか自分のモノか分からないくらいです……」


 カエデは「不思議ですよね」と、椅子の背もたれに寄りかかる。


「……だから、前世を思い出してもホームシックとかには、今の所なりませんし、多重人格状態も特に違和感はありません」

「そうか……、それなら良かった」


 彼女たちの精神が安定しているなら、それが何よりなのだろう。


 肉体と精神、そして魂とは何なのか……、とても不思議な話だ。


「それで、ついでと言っては何だが、君にも確認しておきたいことがあるんだ」

「勇者とか仲間とかって話ですか?」 

「そうだ」


 ヨーコは「総意」と言ったが、やはりここは本人に直接確認したい。


「陽子さんが言った通りです。全くその気はありません」

「そうか……」


 カエデもヨーコ同様、キッパリと言い切った。


「私ね、昔も今もやりたいことがあるんですよ。料理人になりたいんです。みんなに相談したら陽子さんが『収入が安定するし、とりあえずはいいんじゃないか』って。あと『接客は得意よ』とも言ってましたね」

「そうか……。前世の知識や天の声を活かして商売したら、さぞかし儲かるだろうな」

「ですよね~! 実は私もそう思うんです! 生活が安定すれば、曜日ごとにみんなのやりたい事をやるのもありかなって!」 


 とても楽しそうに未来の話をするカエデを見ていると、俺は彼女たちの前世の話を聞いてみたくなった。


「君は前世では料理人の見習いだったのか?」

「就職は決まっていましたね。でも、死んじゃったので」


 ……当前だが、彼女たちは一度死んでいるのだ。


「聞いてもいいか?」

「死んだ時の事ですか? えっと、あの日私たちはバス……科学世界の馬車みたいな物に、たまたま乗り合わせていたんですよ……」


 カエデは淡々とその日の事を語る。


「……簡単に言うとそのバスが、事故を起こして炎上した訳なんですが、実はその時の事は誰もあまり覚えていないんですよね」

「覚えていないのか?」

「はい。千佳ちゃんが言うには、強すぎる恐怖や苦痛の記憶は封印されたんじゃなかって」


 確かに死ぬ間際の記憶など、とても耐えられるものでは無いのかもしれない。


「余計な事を聞いた、すまない」

「いえ、大丈夫です」

「話を変えよう……。君以外の前世ついて聞いてもいいかい?」

「はい、私が言える範囲なら」

 

 俺はまず、彼女たちの事を知るべきかもしれない。


「えっと……まずは千佳ちゃんですが、カイルさんは何か勘違いしてたっぽいですけど、彼女はただのオタク大学生です。今はこっちの世界で二次元を普及させることが野望なんだそうです」


 野望? 二次元とは何だ? 結局『オタク』が分からない。


「陽子さんは本人も言ってた通り、夜の蝶ってヤツです。年齢は――……『非公開』だそうです。もう死んでるのに何言ってんですかね」

 

 夜の蝶とは聞きなれない表現だが、意味はなんとなく分かる。


「由衣ちゃんは、彼女も本人が言ってた通り普通の中学生です。本人曰く『陰キャ』だそうです。漫画家になるのが夢だったそうなので、千佳ちゃんのよき理解者ですね」


 インキャとは何だ、陰か? キャって何だ? 光属性なのに陰なのか?


「それと、由衣ちゃんには双子のお姉ちゃんの『由香』ちゃんがいて、彼女も私たちと一緒にアニーの中にいます」


 ユカ、6人目の前世の名前……。


「ユカの属性は何だ?」

「……それは秘密です」

「何故だ?」

「え、えっと……とっても恥ずかしがり屋さんなんです」


 恥ずかしい? 属性がか? ものすごく珍妙な能力なのだろうか……。


「つ、次はほたるちゃんですね。ほたるちゃんは小学校一年生です。クラスのいきものがかりだったそうで、夢は飼育員だそうです。もう叶ったようなもんですね」


 生き物の飼育が好きなら、テイマーは確かに天職と言っていいだろう。


「それと……『真央』ちゃんに関してですが、彼女はとても複雑な人生を歩んでいるので、機会があれば本人に直接聞いてください」


 7人目はマオ。カエデがそう言うのなら、直接対面する機会を待とう。

 

「最後に私ですが、私は三ツ星シェフになるはずだった二十歳の女です」

「最後? 8人目はどうしたんだ?」


 ヨーコも「7人」と言っていたが、チカは8人だと言っていたはずだ。


「んー、なんて言えばいいんですかね……。彼女にはまだ人生が無いんですよ」

「人生が無い?」

「はい、私たちがバス事故に遭った時、彼女はお母さんのお腹の中にいたんです」

「つまり胎児ということか」

「そうです。なので、私たちは彼女に『のあ』と名付けました」


 8人目のノア。十日という期間を考えれば、ノアの精神はまだ胎児のままなのだろう。


「ノアの属性は?」

「うーん……よく分かりません。何せ自我も無いので、コミュニケーションが取れませんから」

「それなら何故ノアが胎児だという事は分かるんだ?」


 明らかに矛盾している。


「それは天の声が教えてくれたので」

「教えてくれるのか?」

「はい。これは多分、私たちにとって『必要な情報』という扱いなんだと思います……」


 俺はノアについて語るカエデの表情が、少し曇ったように感じた。


「何か問題があるのか?」

「えー……。ちょっと待ってもらっていいですか」


 右手のひらをオレに向けそう言うと、カエデの視線はジッと宙を捉える。

 そして魂たちの話し合いが終わると、その視線は俺に向けられた。


「今から、のあに変わるので、一度カイルさんの目で見てもらえませんか?」

「あ、ああそれは構わないが……」

「ありがとうございます。それじゃ、さっそく変わりますね――」



 ――カエデが目を閉じる。しかし、魔力の波を感じても、そのオーラはいつまでも無色透明のままだ。


 最初は何も変わっていないと思った。だが、両手を覆っていた虹色の輝きが消えていることに気付く。

 そして、完全な無色透明と思えた全身を包むオーラは、よく見ると――

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