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6 ほたる と 楓

 突貫鳥のきーちゃんが持ち込んだ籠には、何かの白い包みと水筒、そして見覚えのあるコボルトのぬいぐるみが入っていた。


 ホタルは籠の中からコボルトを取り出し膝の上に乗せる。 

 このコボルトは、2年ほど前に大流行したもので、特に小さな子供や若い女性に人気があり局舎内でもいくつも見かけるものだ。


 次に白い包みを取り出しそれを開けると、中に入っていたのは、弁当箱だった。


「いただきます」


 フタが開かれた弁当箱の中には、色とりどりの見なれない料理が並んでいた。

 その中から四角くて黄色い何かを口に運ぶと、ホタルは無邪気にほほ笑んだ。


 中身がヨーコだった時とその容姿は何も変わらないはずなのに、今は小さな子供に見えるから不思議だ。

 愉しげに弁当をほおばる姿が、なんとも微笑ましい。

 

「うまいか?」


 俺が声をかけると、ホタルは弁当を見つめたままその手を止める。

 そしてしばらく何かを考えていたかと思うと、弁当箱のフタに何かのおかずを一つ乗せ「はいッ」と俺にそれを差し出して見せた。


「お兄ちゃんにあげる」

「え? ……あ、いや俺はイイんだ。俺のことは気にしなくていい」


 何とは無しに言った言葉が、どうやら催促と取られてしまったらしい……ん?

 気づくとホタルはジッと宙を見つめていた。これは魂どうしが対話しているときの仕草だ。


「――……え~、だってぇ……でもぉ…………ん、いいの!」


 ホタルは拗ねたような表情を見せた後、何かを振り切るように強く言葉を発した。


「どうしたんだ? 喧嘩でもしたのか?」

「……楓ちゃんが『好き嫌いはダメ』って」


 どうやら嫌いなモノを俺に押し付けたらしい。


「ハハハッ。そういう事なら遠慮なくいただこう」


 俺がそう言うとホタルはニッと笑った。


 ホタルの厚意をありがたく受け取る事にした俺は、出された物を手に取る。


「これは何という料理だ?」

「ピーマンの肉詰め」


 おそらく異世界の料理であろうそれを、俺は口に運ぶ。


「……」


 俺が食べる様子を、ホタルは観察するようにジッと見ている。


「おお! これはうまいな!」

「苦くない?」

「確かに苦みはあるが、それも含めてうまいと思うぞ」


 俺の答えに満足したのか、しないのか「ふ~ん」とだけ言うとホタルは食事を再開した。


 肩に止まるきーちゃんに肉らしき物を与えると、その後は一心に弁当に向かい合い、残りを食べ終える。

 異世界の習慣だろうか、両手のひらを合わせ「ごちそうさまでした」と言うと空になった弁当箱のフタを閉め、水筒から注いだお茶を飲みほした。


 満腹になったであろうホタルは、再び宙を見つめ「はーい」と言うと、きーちゃんの頭をそっと撫で、俺に向かい手を振った。

 そして、ホタルが目を閉じ、アニーの体から魔力の波が広がって行った――


 ――淡い緑から変化したオーラの色は薄桃色ではなく予想外の無色透明だった。


 俺は話の続きをするために再びヨーコが出てくるものだと思い込んでいた。

 天の声の情報を直接チカが伝えるということかだろうか?


 しかし虹色に輝いていたはず両耳はその色を失い、代わりに机の上の弁当箱を片付ける両手が虹色に輝いている。


 虹色に光る手は膝のコボルトを机の上に置くと、弁当箱と水筒を籠へと戻す。

 肩の上のきーちゃんは、挨拶するように一つ鳴きどこかへ飛び去って行った。


「君はチカ……ではないのか?」

「え? はい違います。どうして千佳ちゃんだと思うんですか?」

「いや、オーラの色が同じだから……」


 無色透明なオーラなどチカ以外には知らない。


「へ~そうなんですね……。私と千佳ちゃんの能力は全然違うのになぁ」

「君の能力とは?」

「私ですか? 私の能力は『時間操作』です」

「じ、時間……」


 またしても聞いたことのない、驚くべき能力だ。


「時間操作と言っても、タイムトリップとかタイムリープとかは出来ませんよ」

「では何ができるんだ?」


 そもそもタイム何とかの意味すら俺には分からない。


「えーと……。私が両手で囲える範囲の物体に流れる時間を操作出来るだけです」

「だけと言ったって、十分凄いじゃないか」

「そうですか? 今の所お料理と生ごみの処理くらいしか使い道がないですけどね」

「では、あの弁当は君が?」

「はいそうです。あ、ピーマンの肉詰めどうでした?」


 わずかに身を乗り出すようしてに、彼女……?? そういえばまだ名前も聞いていない。


「ああ、うまかった。それよりもまずは君の名前を教えてくれないか?」

「私は『楓』です。そんなことより、ソースはどうですか? ケチャップから手作りしたんですよ」 


 カエデは名前などどうでもいいとばかりに、質問を続ける。


「上にかかっていたヤツか? 初めて食べる味だったが、甘酸っぱくて深い味わい……だったと思う」


 味の感想など、俺にはこれが精一杯だ。


「そっか、よっかたー、こっちの人にも受け入れられて!」


 ほっと胸をなでおろす仕草をするカエデ。


「私、ケチャップの作り方なんてよく知らなかったんですけど、なんと天の声が教えてくれたんです! 今度はお醤油なんかも作ってみたいな、天の声が教えてくれないですかね? 私の能力があれば、発酵食品だってあっという間ですよ。煮込み料理だって一秒でできちゃうんですから……やっぱり私の能力スゴイかも!?」


 俺に言っているのか、独り言かも分からない調子で自身の能力についての認識を改めるカエデ。

 黙って聞いていた俺だが、そこで一つ疑問が沸く。

 

「君たちは、16年もアニーとして生きてきたのだろ? その間は何をしていたんだ?」


 カエデの言い様は、まるで最近まで自分の能力を知らなかったように聞こえる。

 ホタルの魂がいつまでも幼児なのも不自然だ。


 何より彼女のような存在を、いままで当局が見逃していた事が解せない。


「えっと、私たちがそれぞれの記憶を取り戻したのは、十日前……アニーの16歳の誕生日なんです」


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