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5 カイルの運命

 ――俺が勇者の仲間だと?


 何を訳の分からないことを言っているんだ。

 俺は正真正銘、異能管理局の局員だ、異能者調査官だ。


「『何言ってんだ、このバカ女』って顔してるわね」


 ヨーコは相変わらずの軽口で、あきれたように笑う。


「俺は勇者になど会った事も無いんだ、仲間な訳がないだろう! 天の声の情報は実はデタラメなんじゃないのか?」


 今までの話も、本当に信じていいのか分からなくなった。


「そうね、言い方が悪かったわ。要するに、そういう『運命』ってことよ」

「運命? どういう意味だ?」

「あなた、自分の属性が何だか知ってる?」


 俺の属性?


「俺がこの目で分かるのは、他人の属性だけだ」


 俺には炎や治癒のような分かりやすい能力はない。

 ただ弓を扱わせれば、俺に敵う者はいなかった……それだけだ。


「でしょ。アタシが教えてあげる。カイル、あなたの属性は『聖』よ」

「せ、聖……」


 俺が聖属性……?


「聖女ちゃんたちと同じ属性ね。ちなみに、新しい勇者様も聖属性よ」

「何!? 勇者は光属性じゃないのか!?」

「知らないわよ。そんなの、どっちでもいいじゃない。聖剣で魔王ってのと戦うのが勇者でしょ。ちがう?」


 ど、どっちでもいいのか? 勇者とは何だ?

 俺たちはずっと間違った認識を信じていたのか……?


「そんなことより、自分のことを考えなさい。勇者の仲間になる気があるの? ないの?」

「イヤ……、俺が本当に聖属性だとしても、俺なんかが勇者に認められる道理がない」

「は? 何でよ?」


 俺はヨーコの、いや彼女たち(アニー)の目をまっすぐに見つめる。


「君が新しい勇者ではないとしても、あの時にユイが見せた勇気と光こそが、勇者と共にあるにふさわしいんだ。勇者と共に戦うべきなのは君だ」


 神がこの世界に彼女たちをもたらした事には、必ず意味があるはずだ。

 どう考えても、俺の出る幕ではない。


「……んもう、しつこい! 由衣ちゃんすっごい困ってるわよ。嫌われちゃうわよ」 

「し、しかし……」

「ハァー……」


 ヨーコは大きな溜め息をついて、困ったような顔で俺を見る。


「ちょっとアタシの話を聞いてくれる?」


 そして、ヨーコは自分自身の事を語り始めた。


「アタシが前世(あっち)で夜の仕事をしてたって事は言ったわよね。前の人生ではそれなりにいろいろあったわ……。決して誇らしい立派な人生ってワケじゃなかったわね。けど、アタシなりに真面目に、頑張って生きていたのよ……」


 異世界での人生がどういうモノか俺には想像もできないが、きっと苦労もあったんだろう。


「それでね、あっちじゃ毎日お酒もいっぱい飲んでたし、タバコも何本も吸っていたの。なのに、こっちじゃ全然欲しくならないのよね……」


 何かを懐かしむようにしながらヨーコは話を続ける。


「だからみんなにお願いして、一本だけ吸ってみたの。そしたらね……不味いのよ、体が受け付けないのね。でも、その時思ったの『ああアタシは生まれ変わったんだ』って」

「…………」

「別に前の自分が嫌いだった訳じゃない、でも今はこっちで全く違う人生を生きてみようと思ったの、新しい夢でも見つけてみようかなって。でもそれは魔王と戦う事じゃないわ」


 ヨーコは、そう言うと誇らしげに笑って見せた。


「それに、アタシには年長者として若者たちの人生を支えていく責任があるのよ。……どう、分かってくれた?」

「いや……少し、考えさせてくれ」

「もう、頑固ねえ」


 彼女たちの思いはなんとなくだが、理解した。

 しかし、どのみち俺が勇者の下へ向かうことはありえない。


「俺からも君たちに一つ言っておきたい事がある……。俺は別に勇者の仲間になるのが嫌で、君たちに押し付けよとしている訳じゃないんだ」


 むしろ、出来ることなら勇者の下へ行きたいのが本音だ。


「俺にはそう出来ない事情があるんだ」


 麻痺の残るこの腕ではもう弓は扱えない。

 それに管理局と結んだ『魂の契約』で、俺は長くここを離れることが出来ないのだ。


「うん、そんなの当然知ってるわよ」 


 それは予想外の……いや、予想は出来たはずの答えだった。

 そういえばチカが俺のことも、天の声に聞いると言っていた。


「それなら、どうして俺にあんな話をしたんだ?」


 最初から意味など無いじゃないか。


「それはね、アタシたちの――……ん? どうしたの? ……あーそうね、分かったわ。……ごめんなさい、ちょっと食事の時間にしたいから、話の続きはその後にして」

「いや、ちょっと待ってくれ、まず話を……」

「だめよ。ほたるちゃんが『お腹が空いた』っていってるの。アタシは大人だから平気だけど、ほたるちゃんは6歳よ、我慢させるなんて可哀想じゃないの。それにアニーの体だってまだ成長期なのよ、食事は大事なの!」


 一歩も譲る気はないとばかりに、ヨーコは一気にまくし立てる。

 

「わ、分かった、こちらで何か用意させよう」

「いいえお構いなく。食事はちゃんと自分たちで用意してるから大丈夫よ。それじゃ、ほたるちゃんに変わるわね……」



 ヨーコは目をつむり、そしてアニーの体を包むオーラはテイムの属性を意味する淡い緑へと変質する。

 アニーの体から広がる魔力の波は、とても穏やかで優しいものに感じた。


 ホタルはまるで別人のように幼くなった雰囲気で、きょろきょろと部屋中を一通り見回した後、俺の顔に向けたところでその視線を止める。


「きーちゃんを呼んでもいいですか?」


 俺に何かの許可を求めるホタル。

『きーちゃん』とは、また別の前世の名だろうか? 今、変わったばかりなのにまた変わるのか?


「ああ、構わないよ。好きにしてくれ」


 俺が許可を出すと、ホタルはその体ごと窓の方へ向け、スーと大きく息を吸い込んだ。


「きーちゃぁーん! おーいでぇぇぇー!!」


 ホタルは窓の外に向かい、そう叫んだ。


 すると間もなくして、窓からこの部屋へと飛び込んできたのは、自身の数倍もある籠をその爪でつかみ、軽々と運ぶ野鳩ほどの大きさの鳥だった。


 鳥はその足につかんでいた籠を起用に机の上に置くと、ホタルの肩に飛び移り、「キー」と一つ鳴いた。


「と、突貫鳥……」


 その怪力からして、ただの鳥ではないと分かるそれは、間違いなく『突貫鳥』だ。


 突貫鳥はそのスピードとパワーそして、固いくちばしで鉄製の盾をも貫くと言われている、攻撃力だけならこの辺りの森でもトップクラスの鳥の魔獣だ。


 突貫鳥をテイムできるテイマーなど、そうはいない。しかもあんなにも懐いて、お使いまでさせるなんて……。

 俺は、ホタルが数時間で152体もの魔獣をテイムした、破格のテイマーである事実を痛感した。


作中、会話の中に登場する「勇者や聖女」は、同シリーズの【町では勇者と魔王がメイワクな闘いを続けている。「勇者も魔王もクソ!!」だから、少年はそのウラで魔王軍の食料庫を目指すのだ】(広告の下↓↓)という小説の登場人物です。

※【転生渋滞少女】は単体で完結する独立した作品です。未読でも大丈夫です。

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