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3 光属性の由衣

 いま俺の目の前にいるのは、間違いなくあの日のあの少女だ。


 キスイ村が地竜に襲われたあの日。

 ラストア支局の管轄内に光の属性を持つ者、つまり勇者の可能性を有する者が現れた。

 俺はその事実を、その日のうちに支局長へ報告した。

 

 そして、色めき立つ支局長から秘密裏に調査を進めるよう指示を受け、俺はキスイ村に住むアニーという少女を当局へと連行したのだ。


 その結果、多重前世なる前代未聞、理解困難な状況の中、ついに俺は光のオーラを持つ少女と対面するに至った………。


「地竜と戦って、村を守ったのは君だね?」


 戦闘中とは違い今はかなり抑えられてこそいるが、あの神々しい輝きを俺が見間違うはずがない。


「うん」


 光のオーラを纏ったアニーは、小さくうなずき短く答えた。


「まず、君の前世での名前を教えてくれるかい?」

「由衣」

「それじゃあ『ユイ』と呼んでいいかい?」

「うん」

「君の持つ光の属性は、この世界では勇者の属性だと言われているんだ」

「……知ってる」

「チカの能力で得た知識かい?」

「そう」

「「…………」」

「そ、それにしてもあの時、地竜を吹っ飛ばした、あの光の波動は凄かった!」

「よくわからない」

「そ、そうか……」


 ……気まずい。とても会話が弾む気がしない。


 チカのようにオドオドと落ち着きがないのとは違い、なんと言うか……そう、覇気がないのだ。

 その光輝くオーラとは裏腹に、ユイはその雰囲気からして暗く。他者を拒絶するような壁を感じる。


 何とかコミュニケーションを取らなければ……。


「ひ、光の属性を持って生まれたということは、前世での君は聖職者か何かだったのかい?」

「違う。ただの中学生」

「チュウガクセイ? ……ああ、学生か。異世界の学び舎はどんな所なんだい?」

「……学校行ってない」


 学生の身分でありながら、学舎に通わないということは……なんとなく彼女の無気力の意味が分かった気がする。


 しかし、そんな彼女を見ていると一つ疑問に感じることがある。

 光属性を持っているとはいえ、ただ無気力で静かなこの少女が、あれほどに勇ましいとはとても思えないのだ。


「あんな恐ろしい魔獣に一人で立ち向かうなんて、君はとても勇敢なんだな」

「別に勇敢じゃない」


 ユイは小さく首を振って俺の言葉を否定した。


「でも君は地竜から村を守ったじゃないか?」

「だって、みんながいたから」

「みんなとは?」

「わたしたちのお父さんとお母さん、それに妹」

「家族を守るために地竜と戦ったんだね」

「うん」


 短い彼女の言葉から、静かな信念の様なモノを感じる。


「怖くなかったかい?」

「……すごく怖かった。でも、わたしが守ってあげないと……」


 机の上で握りしめた小さな拳に力がこもる。


「やはり君は勇敢だな。君は家族と村の全員を立派に守ったんだ!」

「……」


 俺は安易に彼女を無気力と評した自分を恥じ、心の中でそっと謝罪した。


 ――と、いうか……。


 俺自身も、ユイの、彼女の勇気に命を救われた一人ではないか……自分を殴ってやりたい気分だ。


 冒険者ギルドすら無い小さな村で、本来なら地竜の襲撃という緊急事態に対応できる者などいるはずがなかったのだ。

  

 そんな絶体絶命のピンチに、光のオーラを纏った少女が颯爽と現れ、その体躯の何倍もある凶暴な地竜のその脳天に魔力の一撃を食らわし、そして……ん?


「あの時、地竜を吹っ飛ばした後、君は地竜を追って森の中に入っていったね?」

「うん」

「あれから、何があったんだい? 地竜はどうなった?」


 あの後、俺は彼女の帰還を待った。

 しかし彼女はあの日、なかなか村に戻ってこなかった。


 日暮れまで待った後、最悪の事態も考え捜索に向かおうとしていた刹那、アニーは無事帰還した。

 その後、俺は局舎へ戻り一連の事実を支局長へと報告し、そして現在に至るのだ。


「ほたるちゃんが仲良くなったから、一度森に帰ってもらった」


 ソレは予想外の答えだった。


「え? 仲良く?? 地竜とか?」

「うん」

「その『ホタル』というのは、前世の一人か?」

「そう」

「…………」


 仲良くってなんだ? テイムの事か? 地竜をテイムしたのか?


「ホタルはテイマーなのか?」

「――……千佳さんが『そうです』って」


 ――なんてこった……。


 地竜を使役するなんて、優秀なベテランテイマーでも何日もかかる大仕事だぞ……ん?

 その時、何故かユイの表情が曇っている事に気付いた。


「どうした?」

「……怒らないで」


 い、いかん、またやってしまった。どうやら、俺の顔はまた強張っているようだ。


 穏やかに、穏やかに……。

 そう自分に言い聞かせ、表情筋をほぐしつつ話を続ける。


「たった数時間で地竜をテイム……仲良くなったのかい?」

「違う」

「違う? でもあの日、君は夜には村へ帰って来たじゃないか?」

「一分くらいだった」


 い、一分だと!?


「で、ではどうして、あの日はなかなか戻って来なかったんだ……い?」

「森の中に魔獣? がいっぱいいた」

「も、森中の魔獣と仲良くなったという事かい?」

「全部じゃない。わたしたちが気に入った子とだけ」

「何体ぐらいの魔獣と仲良くなったんだい?」

「分からな――……『152匹』だって」

「ひゃ、ひゃくごじゅ……」


 そんなの一大戦力じゃないのか!? それはもう、軍隊と言っても過言ではないぞ……。

 

「――で、用は何?」

「ん? 用とは?」

「わたしと話がしたいって……」

「あ、ああそうだったね。で、では本題に入ろう。……実は今、勇者が窮地に陥っているんだ」

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