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13 転生渋滞少女(終)

 よく見ると、地竜は突貫鳥の群れに運ばれているのが分かった。

 十数羽の突貫鳥たちがその頭や尾をつかみ、地竜の巨体を運搬してきたのだ。


 地竜は大地に降り立つと、ジッとこちらを見る。


「ちぃちゃーん!」


 ホタルが手を振ると、地竜は返事をするようにその大きな尾を振った。

 その時、地竜が笑ったように見えたのは、気のせいだろうか?


「ガアアアァァァァアアア……!!」


 地竜……ちぃちゃんがその巨体を震わせ咆哮を放った。


 部屋の中にいても、局舎中がパニックになっていくのが分かる。

 この地方で最強クラスと言われる魔獣が、突然街中に現れたのだから当然だ。


 ちぃちゃんは、両脚を広げ低く構えると、叫びながらその頑強な尾を何度も地面に打ち付けた。


「こ、これは……!?」

「暴れてるフリしてるだけだから、大丈夫だよ」


 ホタルはそう言って笑った。


 次第に警備兵たちが姿を現し、ちぃちゃんを囲むように陣を組む。

 騎士団や冒険者たちが駆け付けるまでには、もうしばらく時間がかかるだろう。


 ちぃちゃんは足元の警備兵たちを器用に避けながら、見事に暴れるフリをしている

 地竜のちぃちゃんの名演技に、パニック状態の局員たちは散り散りになって逃げ惑う。その中には、支局長たちの姿も確認することができた。


 警備兵たちは武器を構え戦闘態勢に入る。


 一人の警備兵が、剣を構え斬りかかろうとした瞬間、突貫鳥がその足元に飛び込み邪魔をした。

 攻撃を仕掛けようとした兵を、突貫鳥たちは次々と妨害していく。


 突貫鳥の群れが見事な連携で、ちぃちゃんも警備兵達も傷つけないように立ち回っている。


 ホタルは、はるか遠方から名前を呼ぶだけで、獰猛な魔獣にここまでの指示を与えたる事が出来るのか!?


 俺の驚嘆をよそに、驚異のテイマーは俺の隣で無邪気にはしゃいでいる……。


 俺たちがそんな圧巻の光景を眺めていると、一羽の突貫鳥が部屋に飛び込んできた。


「きーちゃん、おかえり!」


 ホタルがその突貫鳥を迎え入れる、どうやら弁当を運んできた時と同じ個体のようだ。


 きーちゃんはその足に、例のコボルトのぬいぐるみをつかんでいる。

 そしてコボルトは、見覚えのある魔道具を抱えていた。


「この魔道具は、あの時の……」


 それは、間違いなく16歳の俺が魔力を注いだ、あの契約の魔道具だった。


 きーちゃんがコボルトを机の上に置くと、それを見届けたかのように、ちぃちゃんは突貫鳥たちに運ばれて、管理局を飛び立って行った。

 大空を舞い、悠然と去って行く地竜の姿を、警備兵達は茫然と見送っている。


 どうやら、ちぃちゃんは魔道具を盗み出すための陽動だったらしい……。


 魔獣たちの活躍を見届けると、ホタルはまた目を閉じる。

 それと同時に、きーちゃんはちぃちゃんたちを追いかけるように飛び去って行った――。



 いま目の前には、俺の人生を縛っている契約の魔道具が、無造作に置かれている。


 魔道具は、契約内容を書き込む本のような作りになっていて、表紙にあたる部分には魔力を注ぎ込むための魔水晶が埋め込まれている。


 異能管理局を離れ、彼女たち(アニー)が勇者を訪れる旅に同行するには、魂の契約を解除する必要があるのだが。

 しかし、魔道具の破壊は俺の死を意味する……。


「――ふふ、私の出番ですね」


 そう言ったアニーのオーラは、カエデのそれに変っている。


 カエデは不敵に笑い、両手で魔道具を持ち上げる。

 そして一言「ほいっ」と言うと、自らの魔力をそこへ注ぎ込んだ。


 すると、カエデの両手を覆っていた虹色の光がその手を離れ、魔道具の回りをぐるぐると旋回し始めたのだ。


 虹色のオーラは徐々にその速度を上げ、高速で回転していく。

 そこから一分ほどの時が過ぎた頃、魔水晶から魔力の塊が飛び出し、俺の右手へと一気に吸い込まれていった。


「な……!?」

「はい、終了~。これで、カイルさんは自由です! よかったですね」


 カエデは満面の笑みで、得意気に俺を見ている。


「……説明してもらってもいいか」

「えっと、魔道具の時間を操作して、強引に契約を終了させちゃいました」


 カエデは「契約満了ですよ」と、親指を立てて見せた。


 カエデは時間操作の能力を使い、わずか一分程度で、魔道具に流れる時間だけを20年以上も進めてしまったようだ。


「か、感謝する」


 そんな言葉しか出てこなかった。


「いえいえ。これで、カイルさんも勇者の仲間になれますね!」

「あ、ああ。そうだな」

「実は……、今だから言うんですけどね。私個人としては、勇者さんの所に行けるものなら行きたいと思ってたんですよ」

「そうなのか……あー、レストランか!」


 何故だかは知らないが、どこかの街で勇者がレストランを開こうとしているらしい。


「正解です! 私も勇者さんたちのレストランで、働かせてもらえないかなぁ。……どう思います?」

「異世界の知識や、時間操作の能力を存分に発揮できる環境としては、ベストなんじゃないか」 


 彼女たちがその能力や素性をあまり公にしたく無いとしても、勇者の下なら問題ないだろう。


「ですよね~――……え?……うん、わかった。えっと、由香ちゃんが『さっきはごめんなさい』って言ってます」

「そうか……」


 どやらユカも納得してくれたらしい。

 

 これで、残る憂いはノアが引き起こすという『未曾有の奇跡』だ。

 十年後に何が起こるのか、奇跡とは何なのか……。


 これはもう、俺がどうこうと考えても意味のない事だ。

 勇者や聖女に委ねることにはなるが、結局は彼女たち(アニー)次第なのだろう。


 それは人類の脅威であるのかもしれない……。

 しかし、今の俺は全く悲観する気にはならない。


 むしろ少し楽しみになっている俺がいるのだ……。


「天の声が新しい情報をくれるかもしれないんで、千佳ちゃんに変わりますね」


 そう言うと、カエデはそっと目を閉じた。

 アニーの体から、もうすっかり見慣れた、魔力の波が広がる――。



 ――アニーのオーラは、一番初めにこの部屋で対峙した時と同じ、無色透明だ。


 そして、虹色に光るその両耳を澄ますように、チカは一点を見つめる。


「どうだ、何か聞こえるか?」


 俺たち二人……いや9人は、これから勇者のいるフルウースを目指し、長い旅に出ることになったのだ。

 この新たな局面に必要となった、新たな情報を、天の声がたらすかもしれない。

 

 天啓とは、そういった能力なのだろう。


「あ、き、聞こえてきました……え?」


 チカはそう言って絶句した。

 そのまま声に集中し、じっと聞き入る。


「…………」


 俺はただ黙って、見守るしかない。


「えっ!? えええぇぇぇー!!」


 チカの絶叫が部屋中に響き渡った。


「な、なんだ!? ど、どうした、何が聞こえたんだ!?」

「え、えーと、天の声が言うには……」

「言うには?」

「アニーの中の前世がまた増えるそうです……」

「なっ――!? い、一体何人に増えるんだ?」

「そ、それが……」


 俺たちの二人旅は、これから、さらに込み合っていくようだ――。

 


―――― 異世界転生()()少女・完 ――――

転生渋滞少女はこれで完結です。

最後まで読んでくださった方は、本当にありがとうございました。よろしければ感想なども。


作中の「フルウースの勇者や聖女」は【町では勇者と魔王がメイワクな闘いを続けている。「勇者も魔王もクソ!!」だから、少年はそのウラで魔王軍の食料庫を目指すのだ】(広告の下↓↓)という小説の登場人物です。

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