お茶会のお誘い
ある元主従の平凡な日常。
なにかね? ああ、新しく来た嬢ちゃんのはなし。あたしゃ、関わらないよ。めんどくさい。だいたい、ああいうお嬢さんはあたしみたいな自由業はお気に召さないだろう。
ん? 皆隠居。自由業。無職。
あははは。そうだねぇ。みんな置いて来ちゃったものねぇ。あんたも物好きだよ。戻れば贅沢三昧なのに、こんな僻地で日銭稼ごうってんだから。
ほんとに元気なジジババばかりで、若い子が居つかないからね。よそから買ってくるわけにもいかないし。もう人身売買は禁止されたからね。親の借金の形で売られるようなことも表立ってはない。昔とは違うのはわかっているよ。
で、何しに来たんだい? 余計なことを言わないように釘差しかい?
え、お茶会をする。誘いに来た。
……遠慮するよ。めんどくさい。
マッサージ券5枚。……わかった。どっかのぎっくり腰のじいさんに売りつけるから寄こしな。
孫の成人の祝いを送ってやりたいからね。土産物からいくつか選んでおこうか。おすすめは裏山で採れたブラッドルビー……。あれな……。出来がいいのは認めるが、清純派なんだよ、うちの孫は。
どうにもここは黒か赤の石しか産出しないしね。
竜の血、と言われるが、どうなんだろうねぇ。それなら取り放題じゃないかって、物騒だね、あんた。
まあ、いい。お茶会なら手土産もいるか。護身用短剣くらいはいるか。ここなら。あとはそうだね、ウサギの……。なんだいにやにやして。
新入りかって? そうだよ。冬に皆が暇するだろ。そのとき用の型紙。春が来れば、ふふふ。なんだい、内職はいいことだよ。可愛いぬいぐるみが皆の手に入り、日常用品が買えるようになる。
まあ、直接金を渡したりするのはよくないからね。
領主さまも金稼ぎには向いていないしね。あれは余計なことして余計な厄介を連れてくるタイプだ。あの黒曜石の会もさぁ……。誰も止めなかったのかね。あの秘密結社みたいなやつ。実体は、少年(笑)が遊んでんの。幼いころから当主教育されていた層がドはまりしてんだからよくわからんよな。
女の子にもそういうのがあるといいんだけどね。皆がお姫様ドレス着ての集まり。楽しそうじゃないかい。いや、皆がしたい仮装をしてのお茶会。
あ、いや、思い付き、おもいつきだよっ! 悪い顔しているねぇ。
あ、その顔ダメでしょ。ちょ、殿下っ! 実行力、駆使しようって顔してますよ。殿下っ! その呼び方するなって? 悪い顔してるからじゃないですか。
都合がいいってなにが。
お姫様、縦ロール、ドレス、暗号かなにかですか? 違う。事実。
あ、ローラ嬢がそういう装いを。それで、お姫様を囲むお茶会だった。
……暇だったんですね。ハブられるのもかわいそうだと思って誘いに来た。はぁ、さようですか。行かなくていいですか。めんどいので。
マッサージ券あげたからダメ。残念です。あと口調、ですか。そりゃあ戻りますよ。身についたなんかなんですから。
そういうなら雰囲気普通のばばあに戻してください。威厳いらない。投げ捨てて。
そう、そうです。私の超技術で溶けるがよい、そう、それです。
ではまいりますか。我が君。エスコートはそうですね。ウサギさんにお任せします。
お茶会は、あらまあ、立派な縦ロールと褒められ、微妙な微笑みをする奥様を鑑賞する会となったそうです。