褐色の花嫁
お久しぶりですわ。お父様、お母様。
元気そうで良かったと。ええ、とっても良くしてもらっていますの。楽しく過ごしていますわ。滞在先は旅館で、そこの温泉はとても効能が……。
知ってる? そっちの取り扱いについては相談したいと。わたくしの管轄になりましたのでそちらは色々終わったあとで話ましょう。
旦那様もご挨拶がしたいと言っていたんですが、ちょっと仕事が立て込んでいまして。領主の仕事のほうが。王都から役人が来たのはいいんですけど見解の相違で揉めていて。
あ、旦那様。
母と父です。ちゃんとした紹介は夜にでも旅館のほうでしますので、今はこのくらいで。案内はできます。どのくらい通っているって思ってるんです? 部屋割りもわかってます。ほんとに心配性で。
な、なんですか、お母様。その半笑いの顔は。なんでもー? って口元がニヤついて……。 お父様もなんか微妙な表情ですけど……。あ、愚弟は畑の方にいますけど、後でいいですよね?
旅館に逗留しているので帰ってきますし。
ええ、では、旦那様、また後で。
ここは温泉が先にあって、あとに旅館を建てたということらしいですわ。改築増築を繰り返したので構造が複雑になっています。変に探検すると迷子になるらしいですわ。
わたくしは旦那様と遭難しかけたのでもう懲りました。オススメしません。
旅館は意外と村からは近いですよ。
王都は最近どうですか?
王太子殿下が婚約式を行ったと。それはもう清楚な姿で、白くて……。そ、それはそれは。あ! もう宿につきますよ!
お部屋は質素ですが居心地はいいですし、温泉も近いですし!
お部屋に案内したら戻らねばならないので、それではわたくしはこれで……。え、なぜ、扉を閉めたんです? お母様、なぜっ!
日焼け。
この世にはそんなものもございましたね。ええ、知っておりますよ。今こんがりですものね。素敵に焼き上がりました。
い、いやですわ。お母様、そんなに怒らないで!
そもそも本日来たばかりではありませんの。説教は明日聞きます。え、旦那様に遠慮してここまで黙ってついてきてやった?
ああ、旦那様には居てもらえば良かった。
な、なんでもございませんよ! 荷解きくらいは……、ああ、メイドたちがやりますわね。では、温泉、はあとで、ですか。
逃げ腰ではございませんわ。わたくし、旦那様にご用事……。
はい。拝聴いたします。
花嫁の自覚とか労働の前では無意味でしたのよ。あ、はい。確かに帽子はありました。顔の覆いもちゃんとご用意いただいて……。
な、なんで、それで日焼けしたんでしょうね。
こっちを向け? む、向いてますわよぉ。ただ、こう、圧が。
…………。
お母様もやってみればいいんですわ! 邪魔すぎるんですのよ! あのフル装備。善意はわかってますが、農作業に向いてない! まぁったく、だめですわ! 来年用は改良しまくって快適に、あ、はい。今が問題でしたわね。
でもよろしいんじゃありませんの? このド田舎に見に来る人はおりませんし、地元の方は事情を理解していますから。ま、まあ、服屋の方が崩れ落ちていましたけど。でもちょい焼きくらいから気がついてもいいのでは? 気がつくのが遅いというか。わたくしもだめですけれど。
絵描きさんが、肌色偽装する? と半笑いで聞いてきてもいましたね。ソレは旦那様と相談しますけど。残るものはちゃんとしないと。
旦那様も別に気にしていらっしゃらないようですし。
まあ、カエルを水から茹でたようなものだからと意味のわからないことも言っていましたけどね。絶対、いい意味じゃないので詳細は聞きませんでした。
そもそもカエルを茹でるってなんですの? 食べますの?
それはさておき、結婚式までは残務がありますので温泉でも入っておくつろぎください。ええ? お母様もしますの? 私も昔はやりましたわよって、ナニをですの? 娘の評判を上げるために仕方ない、とは。この田舎で評判といっても。いびられないために大事。そうですの。
それならよろしくお願いします。
血がたぎるわって……。
あ、お父様はついていきませんの? 仕事がある? ここに? 居づらくなるようなことはしないでくださいまし。
言うようになったな、と言われましても。
家の決定に否をいう権利もございませんし、妥当とおもっておりました。振り返ればもっと別のやり方があったと思います。
でも、我が家には向いてませんでした。
もし、次に王家から打診がきても断ってくださいまし。向いてません。
ええ、次があれば。
……なにか、含みがあるような気がしますけど。
それはそれとして、美白はすると……いいではありませんか、褐色の花嫁も!




