爆走する夏の女神の図
事の発端は、縦ロール回帰戦。
代わり映えのない景色ばかり描いてと。
喧嘩かい? 吾輩は誰の喧嘩でも買うのであるぞ。ふむ、口調がと、最近、虎になる人の話を読んでな、かっこいーって、あ、はい、そういう遊びはいい。
おすすめですよ、虎となった吾輩、毛並みでモテて無双する、都の流行りらしいですね。もってもてですよ、もってもて、ああ、僕もモテたい。
御令嬢にモテた? ああ、モテたのは僕の絵で僕ではなく、肖像画を盛ってほしいという接待ですよ。
描いたあとは音信不通。
あははは……。いいトコ嫁げたという結果報告と謝礼倍どん! でもやるせないったら。
だから御令嬢はちょっと避けたいですね。
奥様? ああ、知ってますよ。ローラ嬢。これでも王都一の肖像画描きと言われたことがあったりもしました。10年くらい前ですけどね。え、僕はいくつかって? 30ですけど。へ? そんな童顔でって言われても。
17,8の小僧……流石にそれは言い過ぎでしょう。
10年前もちょっとは名の売れた画家だったので、幼少期の奥様にお会いし、肖像画は描かせていただきました。王太子に贈るということで綺麗で可愛くてと奥方の注文が、あ、これはローラ様のお母様のほうですよ。
ただ、なんていうか絶妙にダサいんですよね……。親子で美人なんですけど、あれなんですかね? いまいちバチッとハマってない。清楚でいきたいが、きっと奥様って悪役とはこれよこれ! みたいなほうが似合いそうで。
そうかな? ってそうですよ。豪奢なドレスをつんと澄ました顔で。
なんですか、不満そうな顔。
引き出せていないポテンシャルが? どうですかね。まあ、僕は関係ないですよ。肖像画事業からは撤退したんです。風景画はいいですよ。文句言わない。あたくし、もっと美しいとか言わない。
わかりますよねぇ、え、わかんない……。そうですね、自画像代わりに木彫依頼しませんよね。
威風堂々とした俺様を掘り出せはわかる。そうですか……客層のちがいですかね。
まあ、ともかく……。
あの、今、縦ロールが爆走していきませんでした?
え? 奥様?
なんで、爆走? 足速いなって、僕負けますよ、あの速さ。しかもあのハイヒールで!? 足腰強すぎません?
しかもあの髪、走っても回帰しますよ。怖くないですか?
あ、髪結いの仕業……。そうですか。僕もやられました。練習とか言われて巻き巻きに。可愛い女の子がいる騒動。忘れてください。恥です。
領主様に訴えてますね。うなだれた。なんか、却下されたんですね。
子どもたちも集まって、あらら……。
片手は腰に手を当ててもう片方は口元で、理想的な高笑いですね……。なんか、一周回って興味出てきました。少なくともつまんなそうな顔をしていたあの頃よりはイキイキしているようです。
あらら、子どもたちも真似しちゃって。これはしばらく高笑いが流行りそうですね。おやおや、服屋も出てきてひっこんだ。
ありゃあ、お姫様にふさわしいドレスとは! と奥方とやりあいそうですね。
みんな楽しそうで良いことですね。
娯楽がないから。
それにしてもあの走りはすばらしい。フォームが兵士と同じです。本気すぎる。
まさに夏の女神の如く、とはあれですね。
すぐに立ち去りし夏の乙女。
爆走してもおかしくはありませんか。
この地の夏は素早くやってきて、駈け去っていくくらい短い。実質一月半くらいしか暑くありませんし。
そういえば、なにしに来たんです? いつも声掛けないで覗き込んで消えるでしょ。あれイラッとするんでやめてほしいんですよね。
値踏みしてるつもりはない? それでもですよ。あなたの木彫覗きに行っても全く気にしないのが癪に障るったら。
お気づきでなかった。はあ、ほんと、天才様は。
いえ、べつにぃ。
結婚の祝いに奥様の肖像画を描かないかって? 気が進みませんね。興味あっても、描いて楽しいかは別ですし。
石工もやる? へぇ、あの、気まぐれが。石を山に取りいくと本人が言うから説得し、弟子を召喚したところ……。
どんなサイズでやるつもりですか?
等身大。
処理に困るようなブツを。あなたもですか。
こっちは等身大なんて描く広間がないってのに。いえ、描きませんよ。旅館の一室借りるとかそういうの! ちょっとお待ちなさい!
……全く。勝手なんですからね。
…………まあ、別に、いいですけどね。
かくして、連作、四季が作られることとなる。
一作目、爆走夏女神。




