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第3話 お花入り紅茶。

「あ、、あの、、先日は、、、いいアドバイスを、あ、ありがとうございました。」


フードを目深にかぶった青年が、わざわざお礼に来てくれた。王都で人気の、並ばないとなかなか買えないお菓子と、小さい革袋に、金貨が何枚か。ありがたく頂戴する。


「あら、あなたの上司、見つかったの?理想の踵?」

「・・・・た、多分、、、、」

「そう?面白い余興だったそうね?」


どうも、緊張しがちな子みたいなので、台所脇の中庭が見える席に座らせて、お茶を出す。明るいところで見たら、綺麗な銀髪だった。


奮発してくれた青年に、こちらも珍しいお茶を出してあげようと、とっておきのダージリンの茶葉に、瓶から二すくい分くらいのポプリを入れて、熱湯を注ぐ。持ってきてくれたお菓子も添える。


いやーーーーいいお客さんだ。


部屋中に、花の香りが漂う。大好きな匂いだ。


青年は、フードを外し、ちょこんと外に向いたテーブルに向かっていたが、、、、なんだか、、、微妙な顔をしている。


「馴染みのない香だったから、お嫌だったかしら?」

「い、、いえ、、、、いい香りです。懐かしい、、、ような、、、、」

「そう?ここの大陸にはない花らしいわよ?華国の花なの。キンモクセイって言ってね?」


蒸らし終わった紅茶を、ゆっくりカップに注ぐ。いい香り!


「小さくて、可愛い花なのよ。私は、この花の香りがとても好きなの。」

「・・・・・」

「お砂糖は?いくつ?」

「・・・・あ、あの、、、3つ。」

「あら、、、うふふっ。」


中庭に向かったテーブルに、並んで座る。

緊張しがちな子って、対面より、このほうがゆっくりできそうよね?


お持たせの焼き菓子をつまみながら、花の香りを楽しむ。この花が咲くと、ああ、夏が終わったんだなあ、、、、と、毎年思ったもんだ。


「そ、そんなに珍しいものを、、、、す、すみません。」


両手でカップを握って、香りを楽しんでいた青年が言う。


「いえいえ、、、知り合いの家の庭に、一本だけ大きなキンモクセイの木があって、9月末頃になると花が咲きだすから、今年も取りに行っていたのよ。沢山採れると精油にもなるんだけど、、、なにせ、花が小さくてねえ、、、、ポプリにしたり、こうやって紅茶に入れたり、、、、、ワインに付け込んだりね、、、、」


「え、、あ、、そ、その木が、、、、あるんですか?こ、国内で?」

「え?ああ、その知り合いの爺さんが、昔、華国の友人からもらったらしいわよ?あまり寒いと育たないらしいんだけどね?たまたま、気候があったのかなあ?あまり、この国でも、隣国でも見かけないもんね?植物園とかにはあるのかなあ、、、、」

「そ、そうですか、、、、とても、、、、あの、、落ち着く香りですね、、、、」


夕暮れ時に、ふわっと香る。


夏が終わったんだなあ、という、少しの寂しさと、しばらくの間この香りに包まれるんだ、という幸福感、、、、父と母は、庭に椅子とお茶を運んで、よくくつろいでいた。


香りの記憶は不思議だ。

あっという間に、その時のたたずまいまで戻してくれる、、、、



青年は、砂糖が3つ入った紅茶を飲み干してからも、カップの底に残ったキンモクセイの花を眺めている。



「そんなに気に入ってくれたのなら、少し譲ってあげるわ。」

「え?い、、いいんですか?」


嬉しそうに青年が顔を上げる。

銀色の髪に、丸眼鏡。18歳くらいかな?


小さめの瓶にポプリを詰めたものと、サシェを用意する。

アドバイス料?をはずんでくれたんだもの、、お安い御用よ。


「瓶は、時々開けて匂いを楽しむと長持ちするわよ?サシェは枕の下に入れて寝なさいね?よく眠れるわよ?」


「あ、ありがとうございます!」


どう考えても、高位貴族の御子息だろう。王子を上司と呼ぶくらいなんだから。私みたいな一般庶民に最後まで丁寧な言葉使い。ちゃんと育てられてきたんだろうなあ、、、、




*****


大公家の侍女を王城に寄こすように使いを出したが、隣国出身の臨時の侍女だったらしく、帰国してしまった後だった。


臨時の侍女を派遣する派遣会社も調べさせたが、以前はブルクハルト家に勤めていたらしい。そちらも調べたが、、、、なにせ、難しい方なので、、、何の情報ももらえなかった。


この春に、隣国から遠縁の男の子を養子に取っているから、、、その子付きの侍女だったのか?

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