第14話 お花入り紅茶 2杯目。
「・・・あなたが、マダム・ローズ?」
夕刻に訪ねてきたルーカスは、最初の頃みたいに外套のフードを目深にかぶり、同じことを聞いてきた。ふふっ、、、一年前と同じセリフね?
「あら、ルーカス。久しぶりね?この前はお手伝いありがとう。お茶にしましょ?」
店のドアに何時ものようにクローズの看板を出して、店の中を珍しそうに眺めるルーカスに声を掛ける。久しぶりだからかしら?台所のドアを開いて、お湯を沸かす。
「この前のお花があるから、お花入りの紅茶でいいかしらね?お砂糖3つね?」
背中越しに声を掛ける。これも、いつものこと。
「砂糖?ああ、、いらない。」
「?・・・そう?」
キンモクセイの花をダージリンの茶葉に入れて、お湯を注ぐ。いい香りだ。
「あら?いつもの席に座って?」
中庭をみながら、立ち竦んでいるルーカスに、もう一度声を掛ける。
なんだろう、、、、少しの違和感。
「はい、どうぞ。」
「ああ、ありがとう。」
フードを取らないまま、ルーカスが席に着く。
何だろう、、、、知らない子みたいに感じるんだけど、、、、ルーカスよね?
背格好も、声も、立ち居も仕草も、、、吃音がない?慣れたから?
「ルーカス?フードを取ったら?」
ああ、、、と、言いながらフードを取ったルーカスは、、、、金髪だった。
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「え、、、と、、、ルーカス?お砂糖は3つね?」
「は、はい。」
そう答えて、照れたように笑う。
あら、いつものルーカス?だわ。そうよね?見間違え?銀髪よね?
ルーカスの綺麗な銀髪を撫でてみる。
部屋中にキンモクセイの香り、、、この前は、なんだかそわそわしちゃって、くつろげなかったけど、今日はいつも通りね?並んで座る。
「こ、この前取った、花、、、、ですね?」
嬉しそうに香りを楽しんでいる。そう、そう、、、そうよね?
「こ、、、、この前の、、、あの、、、アルノ君は、、、」
「ああ、ブルクハルトのじーさんの養子のね?彼がどうしたの?」
「あ、、、し、、親しい間柄なんですか、、、?」
「そうね。良く知っているわ。どうしたの?」
「え、、、、あ、、、」
何か言いたそうだったんだけど、黙り込んでしまった。何かしら?
そっと、ルーカスの手を取って、ハンドマッサージを始める。
「もう冷たいわね?あなたの手、、、ちゃんとご飯食べてる?」
少し温まったところで、ハンドクリームを塗る。
「よく眠れてる?運動もしたほうが良いわよ?ね?血流が良くなると、手も温かくなるのよ?」
「ぼ、僕は、、、あなたの手が、、、あ、温かい、手が、、大好きです。」
*****
マダム・ローズ、という女性は、不思議だ。
あの花の香りが、そう思わせているのか?
黒髪に、泣き黒子、、、綺麗な顔立ち、、、どこかで会ったなら、覚えていそうなもんだが、、、、あの女が、ルーカスに近づく目的はなんだろう?
疑っているのに、、、懐かしいような、、、、いや、、、あれは、ブルクハルト卿の愛人だ。