第11話 キンモクセイの花。
何時ものように、キンモクセイの花を散らしていた。母が、集めてポプリを作るから。木に登って、枝を揺らす。
ひと段落して、お昼ご飯を食べて、湖に遊びに行こうとすると、茂みの中に蹲る子供を見つけた。
「どうしたの?迷子?」
その子は、いいお洋服を着ていたが、、なんというか、、、スゴク痩せていた。髪も、なんだかすごく短い。はさみで、、無理やり切ったみたいな、、、
話しかけても、返事はなかった。
「お腹すいたの?こっちにおいで?」
手を引っ張って、茂みから出す。ぐちゃり、とした感覚、、、、手から、血と膿が垂れている、、、、、
「お母様!!!!」
大急ぎで、さっき取ったキンモクセイの花のごみを取り除いていた母のもとに連れて行く。その子は、、、、何も言わない。
顔色を変えた母が、侍女と女中を呼んでいる。
「大変だったわね?もう大丈夫よ?」
何度も何度も繰り返して、その子を抱きしめて、風呂場に連れて行った。
残された私は、自分の手を洗ったが、、、、ただならぬことがあの子の身に起こっていたことは、小さいながらに解った。震えた。
夕方までに、王都に帰っていた父親が呼び戻された。
その後すぐに、折り返して帰って行った。
おじいさまが護衛を沢山連れて来て、別荘の回りを警備した。
翌朝、目が覚めると、、、、物凄く豪奢な馬車が着いていた。下に降りないように言われて、私と弟は丸一日、二階で過ごした。
私が拾った子は、ルー。
2.3日たったころから、一緒に食事をとるようになった。
私の少し年下ぐらい?弟の少し上?
作法は完璧。でも、、、、あまり食べない。
両掌は包帯が巻いてある。
頭も、、、首も、、、足も、、、、たぶん、お洋服で見えないところも、、、
「お外で遊ぼう?」
「・・・・・」
何を言っても、返事がないので、勝手に、ルーと遊ぶことにする。
キンモクセイの木の下には、母がまたシーツを敷き詰めていた。
ルーと弟をシーツの上に座らせておいて、木に登って、頭の上に、花を落とす。たっくさん!!
「いい匂いでしょう?私、この花の香りが大好きなの。」
しばらくたって、あちこちの包帯は取れたけど、両手は中々取れなかった。もちろん髪もなかなか伸びない。
ルーの白い包帯にも、キンモクセイの花を飾る。
「大丈夫よ?ルー!私が守ってあげるからね?」
怖かっただろう、痛かっただろう、、、、泣きもしないルーが心配になる。
母親がやっていたように抱きしめて、いつも言う。
大丈夫よ?
弟も真似して抱き着く。
ピンセットを持って、沢山の花の中のごみを取り除く。
ルーは器用だ。私と競争する。
ルーと弟を座らせて、木に登って、花を落とす。
弟は、キャッキャ言って喜ぶ。
ルーは、、、、不思議そうに、見上げる。
「ほら、ルーの髪に、お花がいっぱい!」
ルーの髪が、少しづつ伸びてくる。
いつもの年なら、冬前には屋敷に帰るんだけど、この年はそのままみんなで別荘にいた。クリスマスには父も、おじいさまも来て、にぎやかに過ごした。
母は、ルーも、私や弟と同じように接した。クリスマスのプレゼントも、新年の新しいお洋服も。教育も一緒だった。ダンスも一緒に習った。ルーのほうが上手だったけど。
あの年の、、私からルーへのプレゼントは、刺しゅうしたハンカチ。中々上手にできた。と、思う。
「好きな香りを一滴だけ落とすと、素敵よ?」
母のアドバイス通り、大好きな花の香油を一滴落とした。
「あ、、、、ありがと、、う、、、」
穏やかで、温かなクリスマスだった。
手のひらに、跡は残ってしまったけど、春からは、おじいさまと剣術の稽古も始めた。私も一緒だ。弟は見学。
赤くなった手のひらに、お薬を塗って、しばらく温める。ルーの手はいつも冷たいから。
ルーの綺麗な銀髪は、なでつけられるくらいに伸びた。
ルーは、、、、自分の髪が嫌いみたいだったけど、、、綺麗よ?本当にきれいよ?って、言い続けた。だって、本当にきれいなんだもの。
私の髪は、まだ薄茶色、、、お母様が、いつか綺麗な金髪になるって言って下さったけど、、、、だから、ルーの髪は、綺麗よ?朝日みたいだわ!嫌わないでね?だって、、、本当なんですもの!!おまじないのように繰り返す。頭を撫でながら。
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あの花の香りがする、、、、眠っていいんだ、、、そう思う、、、
僕は、、、ゆっくりと目を閉じる。