第七話:記憶の端に
「お前のせいだよ…オレは悪くない。お前の、お前のせいで―――――
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「なんでその名前をお前が知ってるんだって顔だな。」
「だって…あいつは、あの時の…」
「そうだよ。伏多喜介は、もう出てこれない。罪を重ねすぎたんだ」
「葉山は、何を知っているんだよ」
立ちあがった葉山の肩を掴んで、逃げれない様にしようとした。
けど今俺の体には、早乙女が抱きついている。通常であればこんな美人に、ましてやあの子に似てる人に抱きつかれて、さぞ嬉しい状況だろう。けれど今じゃそれも霞んでしまう。
「はぁ…このタイミングじゃなかったな。悪い、わっぱ忘れてくれ」
「忘れるわけないだろ‼︎葉山とあいつはどんな関係なんだよ⁉︎そもそもお前の情報は本当に…」
「だったら、一つ面白い話をしてやるよ」
「面白い話…だって?」
「氷見明日香について―――
そこで俺の視界は真っ暗になった。
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「あれ…ここは…」
俺はさっきと変わらず、早乙女の家のベッドで寝ていたようだ。
「確か葉山がいた気がするが…あんまり思い出せないな」
葉山ととても重要な話をしていた筈だったが、あまり思い出せない。
このまま気のせいで済ませれば良かったのだが、この時の俺はどうしても葉山との会話を思い出したかった。
俺はあいつと何を話していたんだろう。ダメだ…記憶に靄が掛かってるみたいで、全然思い出せない。
時系列が合ってるかは分からないが徐々に思い出せてきた。
…それで葉山がいることに驚いて、それで…
途端、またしても顔が熱くなった。さっきもこの下りやったな。
ハッキリと鮮明に思い出せる。早乙女の柔らかい物体の感覚。温かくいい香りのする体。ヒラヒラとくすぐったい長い髪。
不安そうに、涙声で「良かった」と言いながら、震えていたことを。
これ以上は頭が回らず、思い出すのをやめた。そもそも、思い出せそうにもないし。
ところでどのくらいの時間が経ったのだろうか。さっき目を覚ました時に、時間を確認しておけば良かった。
コンコン、とノックの音が部屋に響き、ドアが開く。
「目が覚めたのね。体の調子はどう?応急処置しかしていないから、もしものことがあれば今すぐ病院に…」
ドアの向こうから姿を現したのは、早乙女だった。
「特に問題はないよ。ちょっと顔と身体が痛いけど」
「そう。なら安心した。まずはお礼を言わせて。助けてくれてありがとうございます。」
「いや、別に。あんたを助けたのは、自己満の為だ。そこまで固いお礼は要らん」
「けれど、助けてもらったのは事実だから。」
なんだか冷たい言い方だが、そんなところもあの子似だ。
「…それと、ごめんなさい。」
「はっ?別に謝られる様なことされてないけど…」
恐ろしいものが脳裏を過ぎる。まさか…あの事を謝っているのか?
いや、ここは「そんなの覚えてないよ」感を出すんだ。
「本当にごめんなさい。私のせいで、あなたに怪我を負わせてしまいました。」
早乙女は俺の怪我を自分のせいだと言っているのだ。否定したかったが、想定外の理由に安堵し、余計な事を口走ってしまった。
「なんだ…飛びついてきたことに謝ってるのかと思ったぜ…」
自分のために謝罪している人に対して、とてつもなく失礼な発言だと気づいた時にはもう遅かった。
目の前には顔を紅潮させ、小刻みに震えながら目に涙を浮かべている早乙女の姿があった。
「嘘…そのこと…お、覚えてたの…?」
うむ…やはり照れてる顔はいいな、あの子にも似てるし。と思ったのと同時に、波瀾万丈な高校生活になりそうだなと、なんとも言えない感情を胸に抱いた。
一体なんなんだこの嫉妬は…




