第六十六話:寓話的な現
唐突に、突然に。
一部分だけ生えている芝の上に一本の木が凛々しく立っている。
視界に映るこの場所は、どうにも既視感がある。
「草が…」
「到着さ。ここがオウセン島だよ」
これは、所謂神の導きというやつだろうか。この場所は、今日の夢を部分的に思い出させる。
俺は夢でここに来ている。初めて来たこの場所がどうして夢で…それに、誰かと話していたような…
「オウセン島?」
「そう、オウセン。逢うに瀬戸の瀬で逢瀬」
支配人は、目の前の小島について淡々と語る。
「逢瀬…でもそれだとオウセンとは読まないんじゃ」
「そうだけどね。語り継がれていくうちに、どこかで変わっちゃったのかもね…」
視界の端で苦笑いする支配人を横目に、俺は誰にも知られず頭を悩ませている。
次々立ちはだかる疑問に頭の処理が追い付かない。それでも、「ここ夢で来たんだ~♪」なんて奇態なこと誰かに相談できるわけがない。
「逢瀬島で死者が甦る…ですか…」
死者が…そうだ、今は夢のことなんて考えてる場合じゃない。
あの日から己を捨ててまで渇望した希望を、今目の前にしていると認識する。
「命苫くん」
「将也」
「命苫…」
ようやくここまで来たんだ、光が掴める一歩手前まで。
なのにどうして喜ばないんだ。どうして期待に満ちていないんだ。どうして……引き下がろうとしてるんだ。
同行してくれた三人は、俺のためにここまで来てくれた。そして今はこの現状に固唾をのんでいる。傍にいてくれたみんなのために、俺は応えるべきじゃないのか。
なのに…なのに俺は…
寓話みたいな伝承に縋って、また絶望するくらいなら…
前から薄々思っていた。いくら半信半疑の試みだとしても根拠のない伝承に縋るほど俺は堕ちたのか…?もし永井先生たちと同じ結果にならなければ、”明日香の死”を改めて実感しなければいけないのか?
いざ目の前にすると体が竦んで身動きが取れなくなる。
「大丈夫か、将也…」
「えっ…?」
顔には出してないつもりだったが、まさか…
「実際にこの場所を前にすると、怖いよな」
葉山…どうやら心配してくれてたみたいだ。けど、おかげで少し落ち着いた。
「あぁ、大丈夫だよ」
これ以上余計な心配を掛けさせたくないので、憂慮を奥に抑え込み、なんとか笑顔を見せる。
「今日この後、準備が整い次第、儀式を…」
ようやく覚悟を決め、俺は前に進むことを宣言する。が、虚しくも俺の言葉は途中で遮られてしまう。
「水を差すようで悪いけど、その前に一つ…」
さっきまで笑顔を保っていた支配人が、声色一つ変えずに言う。
「僕らの話を…聞いてくれ」
圧迫感も力強さもないその一言に、誰も口を開けない。雰囲気も声音も表情も、今までの支配人と何ら変わりないのに全身が圧力を感じる。
「これは…まりなが語らなかった当時の真実だ…」
支配人は、用意された言葉を読んでいるかの様に無感情に語りだした。
*****
僕たちはいつも五人でいた。高校生になってすぐに出会った四人と僕を含めた五人組。
陽気で喧嘩っ早い阿部始、少し間抜けで友達想いな斉藤健司、いつも活発お転婆の永井麻里、上品で清楚でいつもみんなを支えてくれた稗島凛。そして僕、支配人こと薬ヶ衣春朔
朝から晩までずっと一緒だった。何をするにも、どこに行くにも、僕たちは愛よりも強固な絆で繋がっていた。誰もがそう疑いもなく信じていた。
十二年前、記録的猛暑が続いた夏休みのある日、その中の誰かが唐突に「秘密基地を見つけた」っと言ってみんなに集合をかけた。そこは当時の僕たちが通っていた鷹住高校から少し離れた山の中だった。すぐに集まったのは三人。僕とヒマリは少し遅れて、やがて全員が集合した。
そこは草に隠された獣道を進んだところにあり、そこには小さい山小屋が建てられていた。
木造の小屋はボロボロでカビ臭くて、秘密基地はもってこいだが僕は気が進まなかったな。
でもなんやかんやでその小屋が僕たちの拠点になったんだ。
それから数週間、僕たちは毎日のように小屋に集まった。初めは嫌々だった僕も、ここで過ごしているうちに愛着が湧いてきた。
高校二年生の夏休みが僕の、僕たちの転換期。
この頃が人生で一番生き生きとしていた。心の底から楽しいと、この時間が永遠に続けばいいと思っていた。
そして僕たちの関係が崩壊し、繋いでいた絆が綻んだ。
僕たちは出会ってから一度も離れなかった友達だった。これからもずっと、一緒だと確信していたのに。
味方なのか敵なのか…支配人は何を企んでるんでしょうかね…
それはそうと五人組の本名って初めて明かされたんですね。前々から出てたのは健司と麻里だけか。




